前回「次回最終回」と言っていたのに終われませんでした。すみません……あと2回ほど続きます……
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2016年6月26日(日)友引
結婚式の二次会は夕方6時からの予定で、我々幹事は二時間前の4時に集合することになっている。
「…………。あー……」
現地に向かう電車の中、谷よりも深いため息をついてしまい、自分で「いかんいかん」と持ち直す。これから須賀君と潤子さんの門出を祝うのだ。しかもオレの役目は二次会の司会の補佐。タイムキーパーも兼ねているのでボーッとはしていられない。
「ああ……でもなあ……」
再びため息をついてしまう。一週間前に起きた様々なことがよみがえってくる……
先週……オレの誕生日……
『私もあなたのすべてを受け入れます。あなたのたずさえているものも、すべて』
戸田さんの言葉に息をするのも忘れてしまった。そんなことを言ってくれるなんて……
感動のあまり、人通りのある道端にいたにも関わらず思いきり抱きしめてしまった。オレ、そういうキャラじゃないのに、と思い出すと恥ずかしくなってくる。戸田さんを前にすると、どうも感情のセーブが難しくなる……
その後、DVDを返しに行き、近くのコンビニに寄った。
「着替えとか、買います?」
と、戸田さんに言われたからだ。
(…………。慣れてるんだな……)
男がこうして突然泊まることに、慣れてるんだ……。嫉妬心が頭をもたげてくる。
その黒い気持ちを何とか押し込めて、下着用のTシャツとトランクスを買い物カゴに入れる。あと、歯ブラシと………
(ゴムも……やっぱり買うべきだよなあ……)
男のたしなみだぞ? という溝部の声が頭に響いてくる。でも、本人の目の前で買うのは気まずい………
(だいたい、どこにあるんだ……?)
何となく、歯ブラシとか売ってるコーナーあたりかな……と思って、探しているのになかなか見つからない……
(売ってないとか……? いや、売ってるよな……)
うーん……と歯ブラシの前で立ちすくんでいたら………
「あ、これもいいですか?」
「え」
デザートを見ていたはずの戸田さんが、ふいにやってきて、何気ない感じにオレの足元にしゃがみこみ………
「お願いします」
一番下の棚にあった小さな箱を取って、カゴの中にポイッと入れた。
……ここにあったのか。灯台もと暗しだ。……って、そんなことより。
(…………売ってる場所、知ってるんだ)
冗談でもなんでもなく『ガーン』と頭の中で音が聞こえた気がした………
それからのことは、何だかフワフワしていてあまり覚えていない。
もういい大人なんだから、過去に男と関係があるなんて当たり前だ。バレンタインの時に、ヒロ兄と似た人と付き合っていた、という話を聞いたし、オレができないなら他の男を呼ぶ、とも言われたし………
オレ自身だって、戸田さんは3人目の女性だ。だから、戸田さんにあーだこーだ言う権利はない。
分かってはいるけれど………感情が追いつかない。
マンションに着き、「シャワー浴びますか?」と言った戸田さんの言葉を無視して、性急に求めた。余裕がなくて……、過去に彼女のことを抱いたであろう男たちのことを忘れさせたくて………
と、思ったのに……
なんでだ。なんでだ、オレ。
なんで……………………勃たないんだ?
いや、違う。正確にいうと、勃ちはするのにいざ入れようとすると萎えてしまうのだ。
その繰り返しで、結局………
「………………………すみません」
「え、やだ、謝らないでください」
戸田さんは口に手をあて、ブンブンと首を振った。
「緊張、してます?」
「………たぶん」
………くそ……なんでだ? バレンタインデーの時はできたのに。ヒロ兄の代わりとして、ちゃんと抱けたのに……
「お風呂、一緒に入りません? あ、でも、今から沸かすと時間かかっちゃうからシャワーでもいいですか?」
「…………はい」
戸田さんの優しい言葉になんとか肯くと、戸田さんはオレの手を引っ張って浴室まで連れていってくれた。
「それでね、髪の毛、また乾かしてください」
「…………」
「あ、洗ってくれたりもします?」
「………はい」
ニコニコしてくれている戸田さんの唇にそっと唇を寄せる。そのままアゴに、首筋に唇を這わせる……
「山崎さ……、んんっ」
「…………」
戸田さんの濡れた声に反応はしたけれど、自分のことに構っている余裕はなかった。ただ、ひたすら、彼女を満足させたい、としか思えなかった。そのまま指と口だけでイカせて………
(…………)
クテッともたれかかってきた彼女を抱きしめながら………オレはどん底の底の底まで落ち込んだ。
その晩……ベッドに入ったのは深夜2時をとっくに過ぎていたけれど……、オレはずっと、腕の中にいる戸田さんの寝顔を見つめていた。
(ホントに……ダメな奴だよなあ……オレ)
こんなんでは、すぐに見捨てられてしまう……
他の男に、取られてしまう……
他の男に……
そう思っただけで、ゾワッと頭の後ろのあたりの毛が逆立つような感覚になる。
(どうしたらいい……? どうしたら……)
戸田さんの瞳……指で辿りたくなる唇……誰にも渡したくない。オレだけのものにしたい。
「………結婚」
そこに、すとん、と体の中に落ちてきた言葉。
そうだ……結婚、すればいいんだ。少なくともそれは彼女に対する縛りになる。彼女のまわりにいる男に対する抑止力になる。
「とか言って……」
苦笑してしまう。
『愛には終わりがある。それなのに、結婚という契約に縛りつけられ、一生を共にするなんて。もしくは、オレの両親のように結局別々の道を歩く選択をするなんて。そのどちらを選んでも、傷つくだけだ』
昨年までのオレは、そんなことをずっと思っていた。
そんなオレが、今さら『結婚』という契約に頼ろうとしている。
「馬鹿だな……」
馬鹿だけど、しょうがない。
何に縋ってでもいいから、彼女のことを離したくない。
その思いのまま朝をむかえ………
『オレと、結婚してください』
プロポーズした。ただシンプルに。
でも……
コンビニで買ったTシャツとトランクス、という下着姿だったのは、我ながら間抜けすぎた……
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お読みくださりありがとうございました!
ってすみません。終われませんでした……
こんな下ネタが最終回って嫌だ……って気持ちもあったりして^^;
上記、前回の菜美子視点の話の、山崎視点でした。
なんでいきなりプロポーズ?の理由はこんなことになっておりました。
次回、山崎視点最終回、そしてその次に菜美子視点最終回で終わり、にする予定でございます。
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おかげで続きを書くことができております。
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