俺の運命の相手。天使のような『渋谷慶』。
彼の生き生きとした瞳、触りたくなる白皙を思い出すだけで、自然と頬がゆるんできてしまう。
「真木ちゃん、今日は特にご機嫌ねえ?」
「………………まあね」
この2ヶ月ですっかり行きつけになったバーのママから指摘され、素直にうなずいた。
「今、ものすっごい美形の子を狙っててね。今日、その子の友達と三人で飯行ってきたんだよ」
天使の親友『桜井浩介』。俺とは勝負にならない、つまらない男だった。やせ型で背も高く、顔も悪くないのに、内面からにじみ出る自己肯定感の低さが、外面の魅力を損なわせてしまっている。俺はノンケ喰いもタチ喰いもするけれど、あんな奴には少しも興味を持てない。あの男が俺の天使と付き合っているかと思うと腹立たしくてしょうがない。
「その美形、近いうちに落として連れてくるから楽しみにしてて」
「わー。なんか悪い顔してるっ」
ケラケラと笑うママ。短髪、顎髭、ギョロッとした目、程よく筋肉のついたガッチリした体。でもその見た目と反して声はわりと高い。優しい音色はとても心地が良い。
「美形ってどのくらい美形なの?」
「うーん……非の打ちどころのない美形。だけどそれだけじゃないんだなあ……」
「それだけじゃない?」
きょとんと首を傾げたママに指を揺らして見せる。
「溢れでるオーラが凄いんだよ。キラキラしてて……あんな子みたことない」
「あら、あたしは見たことあるわ。すっごいオーラの子!」
「え」
ニッと笑ったママに、へえっと身を乗り出す。
「どこで……」
「ここ」
シルバーの指輪が光るママの太い指が俺を指さしている。
「真木ちゃんも相当なオーラの持ち主よ。それにすっごい美形だし。知らなかった?」
「………知ってる」
ママの手を掴んでその指先に軽くキスを送って上目遣いで見返す。と、
「……悪い顔」
「痛っ」
ビシっと額を弾かれてしまった。なんだ。やっぱり乗ってこないか。
「アタクシ、二度と騙されませんから」
「つまらないなあ……」
ここに通うようになって早々に、ママとは一回だけ関係を持った。20歳ほど年上のママはさすがの手練れで、いつもとはひと味違った楽しい時間を過ごせたけれど、その後は誘ってもなびいてこない。泥沼にハマりたくないそうだ。まあ、お互いのためにも賢明な判断かもしれない。
「じゃあ、今日、ママがオススメの子、教えてよ」
「んー……、今いるお客さんの中で一番カワイイ子って言ったら……」
ママがジャズの流れる木目調の店内を見渡して……ピッと指さした。
「あの子じゃない? チヒロ」
「ああ……」
ソファに座って数人に囲まれている20代半ばくらいの男の子。時々見かける。一度話したこともある。顔は系統的には彼と同じ感じで、確かに綺麗な子だけれども……
「俺、あいにく人形遊びの趣味はないんだよねえ……」
「何それ」
「だってあの子、人形みたいじゃない? 中身が入ってないって感じ」
何も写していないような目。人形を相手にしている気分になる。
「それだったら、その隣の子の方が……」
「ああ、コータね? コータ!」
ママの呼びかけに、丸メガネの背のわりと高めの男の子が、「はーい!」と元気よく返事をして、こちらに跳ねるようにやってきた。
「なに~?」
「真木ちゃんが、今晩どうかって」
「えええええ?!」
ママのコソコソ声に、わあああっと手で頬を押さえたコータ。チヒロと同年代くらいなのに、真オレンジのシャツにオーバーオールが良く似合っている。確かショップ店員と言ってたな……
「ホントにー?! 噂にきく真木スウィート!行きたかったー!」
「噂にきくって……」
噂になってるのか、と苦笑してしまう。
宿泊しているホテルは、親が懇意にしているホテルで、まあ、名前を出して恥ずかしくないレベルのホテルと言える。俺が今、連泊しているのは、キングサイズベッドのあるベッドルームと、ソファとテーブルとテレビのあるリビングルームが、スライディング式ドアで仕切られているスイートルームだ。ホテルの一室というよりも、自分の部屋のようで大変居心地が良くて気に入っている。
コータはその場でもぴょんぴょん跳びはねると、
「チヒロも一緒でもいい?」
「………」
イタズラそうな目でこちらをのぞきこんできた。
(………チヒロ)
人形の相手はしたくないけれど、何か趣向があるというのなら、それはそれでいいか。
「どっちでもいいよ」
肩をすくめてみせると、コータは「やった!」と握りこぶしを作って、「チヒロもこっちおいでー!」と、ニッコニコで振り返った。
その視線の先、ソファに埋もれるように座っている色白の男の子。やっぱりその瞳は何も写していない。
(顔は似てるのに………)
俺の天使君とは大違いだ。
***
10月2週目の日曜日、天使と約束をした。
「俺の持ってる資料映像、部屋に見にくる?」
そう誘ったら、彼は目を見開いて、
「わあ!いいんですか!?是非!!」
キラキラ笑顔をこちらに向けてきた。本当に、この子は内側から光を放っているようだ。
たまらないな………
「そのまま泊まっていきなよ」
頭をナデナデしながら言うと、彼は「あはは」と笑って、
「そこまで甘えられませんよー」
と、さらにくすぐったそうに笑った。その笑顔の可愛いこと………。彼も次のステップへ進みたがっていることが伝わってくる。
(もう………いいだろう)
さあ、最後の仕上げに取りかかろう。
まだ仕事の残っている彼を置いて、俺は先に病院を出た。彼の『親友』桜井浩介に会うためだ。
浩介は、俺の呼び出しに応じて、日曜の午後の公園には似合わない、覚悟を決めたような表情で俺を待ち構えていた。
「単刀直入に聞くけど……」
早々に容赦なく、切り込んでやる。
「君と慶君って、付き合ってるよね?」
「…………はい」
浩介が青白い顔をしたままうなずいた。
「高2の冬からなので、もうすぐ丸11年になります」
「へえっ、11年!」
まさかとは思っていたけれど、高校時代からずっととは!
「長いね~」
と、いうことは、おそらく彼は浩介以外の男を知らないだろう。それは開発のしがいがあるというものだ。ああ………楽しみだ。
「あの………話ってなんですか?」
耐えかねたように言った浩介に、わざと明るく言ってやる。
「うん。君、慶君と別れてくれる?」
「何を……」
目をみはった浩介に畳み掛ける。
「だって、君は慶君にふさわしくないよ」
さあ、これで心置きなく、彼は俺のものになれる。
-------------------------------
お読みくださりありがとうございました!
「その瞳に」の2の真木さん視点でございました。
コータ&チヒロは2年前「その瞳に」を書いたときから存在していたので、こうして書けて嬉しかったです。
次回、金曜日も、お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。
クリックしてくださった方、見に来てくださった方、いつも本当にありがとうございます!
とってもとっても励まされております。心の支えです。よろしければ今後ともよろしくお願いいたします。
にほんブログ村
BLランキング
↑↑
ランキングに参加しています。よろしければクリックお願いいたします。
してくださった方、ありがとうございました!
「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
「その瞳に*R18」目次 → こちら