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BL小説・風のゆくえには~グレーテ1

2018年03月27日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ グレーテ


【チヒロ視点】


 絵本から抜け出てきた王子様だ。

 真木さんをはじめて見た時、そう思った。シンデレラ?白雪姫?とにかく有名な童話の王子様。
 顔も外国人風にかっこよくて、背も高くて、『身分』も高そう。命令することに慣れてて、みんな言うことを聞いちゃう。お店に真木さんが入ってきた途端、主役は真木さんになった。

「僕、コータですっ。こっちはチヒロ」
 閉店間際、友達のコータに連れられて真木さんを近くに見に行った。良い匂いがする。

 真木さんは少しだけお喋りをしてから、

「今度一緒に遊ぼうね」
 にっこりと眩しい笑顔を残して、出て行ってしまった。いなくなった後も真木さんの良い匂いがそこら中に漂っている。

「王子様みたい……」
 ほわあ~とコータがつぶやいた。

(違うよ、コータ)
 心の中で訂正してあげる。

 王子様みたい、じゃなくて、本物の王子様だよ。


 それから一か月くらいたって、「今度」の約束通り、真木さんは滞在先のホテルにコータと僕を招待してくれた。

 コータと他の人と3人でホテルにいくのはもう何回目かだ。「 知らない人といきなり一対一は怖いでしょ?」ってコータが言う。僕もそう思う。怖い目にあいそうになったところを、コータが助けてくれたのが僕達の出会いだった。

「ネコもタチもできる」コータは、他の人と一緒に僕を抱いたり、僕を抱きながら抱かれたりもする。「3P楽しいでしょ?」って、コータが言う。だから、楽しいことなんだと思う。嫌だなって思うのは僕がおかしいからで、本当は楽しいことだから、楽しいと思わなくてはならない。でも嫌だな……って思う。コータは楽しそうだけど、僕は早く時間が過ぎればいいって思う。

 でも、真木さんと一緒のこの日は、コータはいつもと全然違っていた。

 何が違うって、声が、違う。

 真木さんに抱かれているコータの声……
 こんなに余裕のない声初めてきいた。口からよだれ垂らして、気持ちいいと苦しいの半分半分みたいな顔してる。

(いつもの可愛い喘ぎ声は『演技だよ』って言ってたのは、本当だったんだなあ……)

 今は、演技する余裕もない、って感じ。真木さんに攻め立てられるコータのことを、部屋の隅の椅子の上で、膝を抱えて座って眺めながら、そんなことを思う。

(真木さんはいつでも王子様なんだなあ……)

 真木さんは余裕の顔。ちょっと笑ってる。あんなにずっと激しく腰振ってても、コータのこと持ちあげるみたいにしてても、全然疲れないみたい。すごい体力。すごいといえば体もすごい。すごい筋肉。引き締まってる。キレイ。触ってみたい……

 そうして真木さんはコータのことを何度も絶頂に連れていって……最後は気を失ったコータをベッドに寝かせると、はじめて僕の方を向いた。

(次は、僕?)
って思って、ドキッとする。今見てたこと、僕もされるのかな……あんなよだれ垂らすみたいな顔になるのかな……と思ったんだけど。

「用事を思い出した」
 真木さんはそう言って、素っ裸のままベッド横の棚の引き出しからお金を取りだすと、

「これでタクシー代足りる?」
 はい、と渡してくれた。一万円札5枚……

「二人とも、帰ってくれる?」
「…………」
「ああ、シャワー浴びるなら、俺が出るまでちょっと待ってて」

 コクリ、と肯くと、真木さんは「じゃ」と言って、シャワー室に行ってしまった。すぐに水音が聞こえてくる。

 コータに伝えないと、と思って「コータ、起きて」とぐったりしているコータの腕を揺すると、

「………起きてる」
 コータがぼんやりと肯いた。

「噂通りだね……」
「噂?」
「こんなの初めて。めちゃめちゃ上手」

 コータは、苦笑い、みたいな顔をして身を起こすと、自分にくっついてるコンドームを取ってティッシュにくるんで捨てた。「ベッドを汚したくないからつけるよ」って、はじめに真木さんにつけてもらってたけど、正解だな、と思う。何回も何回もイッてたもんね……

「これ知っちゃったら、他の男としたくなくなるよ」
「ふーん?」
「でも、かなりのSだねあの人」
「?」

 S?

「快感も度が過ぎると拷問だよ。こっちがイキ過ぎて苦しいのを見て楽しんでる感じだった」
「???」

 イキ過ぎて苦しい?

「噂通りの悪魔。泊まらせてもくれないし」
「あ………うん」

 コータの言葉に、手の中のお金のことを思い出す。

「タクシー代、だって」
「それで飲みいこー」
「え」

 えいっと立ち上がって下着を身につけはじめたコータに、「ダメだよ」と注意する。

「タクシー代って言われたんだからタクシーで帰らないと」
「大丈夫大丈夫。ほら、チヒロも着替えて」
「でも……あ、うん」

 自分も下着姿なこと忘れていた。ここに来てすぐに、コータと一緒にシャワーを浴びて、する準備だけはしてたのに、僕は結局何もしなかったのだ。

 着替え終わったコータがお金を数えながら言った。

「これはね、タクシー代って言う名前のお小遣いなんだよ?」
「お小遣い?」
「やらせてくれてありがとうって。いつものお小遣いと同じ」
「え」

 そうなの? いつもコータと一緒にエッチする人達はお小遣いくれるけど、それと同じってこと? だったら……

「だったら僕は何もしないで見てただけだからいつもと違うからこれはもらえないからコータが全部もらってそれで……」
「うんうん分かった分かった」

 ポンポンと頭を撫でられた。

「チヒロはホントにかわいいね」

 そして、ちゅってキスしてくれた。コータは笑って、言葉を継いだ。

「やっぱり飲みじゃなくて、ホテル行こ?」
「ホテル?」

 ここもホテルだけど?

「散々、ドライでイかされて、オスとしては消化不良なんだよ。だからやらせて?」
「???」

 言ってる意味が全然分からない。………けれど、コータのお願いは何でも聞くことにしてる。

「行こ?」
「うん」

 きゅっと手を掴まれる。コータはいつも僕を連れていってくれる。

 こうして僕は、いつも誰かに手を引かれていく。




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お読みくださりありがとうございました!
新シリーズです。ドキドキです。
チヒロはかなりの天然君です。
真木さんは自己中王子です。はい。
上記話らへんの真木さん視点が「その瞳に・裏話2」になります。

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!
今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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