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BL小説・風のゆくえには~グレーテ5

2018年04月10日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ グレーテ

【コータ視点】


 声を大にして言いたい。
 僕がゲイなことに、特別な理由なんてない。
 ただ単に、生まれてこのかた、女の子に対しては友情以上の感情は持てず、恋愛対象は常に男の子だっただけだ。
 それなのに、何か理由をつけようとする奴らが一定数はいて、そいつらが鬱陶しくてしょうがない。生育環境とか親との関係とかに無理矢理結びつけようとする奴とか、本当に最悪。


 声を大にして言いたい。 
 僕がいくら目がクリッとした可愛い顔だからって、ネコだって決めつけないでほしい。

 一時期、性欲発散のためにいくつかの『そういう』場所に顔を出していたけれど、タチの印をつけてるのに、タチから誘われることが続いて、嫌になって行くのをやめた。

「年取ったらそういうのなくなるから、今のうちが花よ~」

と、行きつけのバーのママに言われたけど、全然納得いかない。ネコができないわけではないけど、僕はあくまでタチ希望。可愛い男の子を抱きたいんだ。


 そんな時に出会ったのがチヒロだった。
 フワフワと掴み所のない同じ年の男の子。顔は可愛い綺麗系。純粋で頼りなげで守ってあげたくなるタイプ。何でも人の言うことを信じてしまうので、僕がついてて守ってあげないと、と思う。可愛くてしょうがない『弟分』って感じ。

 チヒロはお金が必要らしい。

「アユミちゃんが可愛くなるためにお金が必要で僕はアユミちゃんのためには何でもするって決めてるから」

って、意味の分からない理由を言っていた。アユミちゃん、というのは、チヒロの双子のお姉ちゃんらしい。

 僕にも1歳年上のお姉ちゃんはいるけれど、お姉ちゃんの整形のために自分の身を売るなんて、アリエナイ。お姉ちゃんだって、僕がそんなことしたらメチャメチャ怒るに決まってる。

 まあでも、各家庭事情はそれぞれだから、余計な口出しはしない。

 ただ、お金が必要というのは僕も同じだ。
 今勤めているアパレルショップはノルマが厳しくて、毎月自分で何着も買うはめになる。洋服は好きだから買うのはいいんだけど、お金がかかり過ぎて……。

 だから、チヒロと二人で、質の良いお金持ちを引っかけることをはじめた。一緒なら、可愛いチヒロを危険な目に合わせないよう注意することもできるし、可愛いチヒロと刺激的な時間を楽しむこともできるし、お金も手に入るし、一石三鳥だ。

 僕たちがしていることは、決して売春ではない。自分たちも気持ちよくなって、その上で善意でお小遣いをもらっているだけだ。

「それ、若いうちしか許されないからね?」

と、バーのママは呆れたように言いつつも、僕たちの切迫したお財布事情を理解してくれ、それとなく良い人を紹介してくれるので助かっている。


 そんな中、ママが仲介してくれたのが『真木さん』だった。最近ここいらで噂になっている、三十過ぎの長身の超イケメン。職業不詳のお金持ち。王子様みたいな人。

 噂通り、エッチもメチャメチャ上手だった。今も、思い出してはウズウズしてる。一ヶ月前に一度ヤッただけなのに。……でも、二度とごめんだ。

「ホントムカつく」

 噂通りの、悪魔。涼しい顔でこちらをイかせまくって楽しんでた。その上でのヤリ捨て。さっさと帰れって。アリエナイ。

「でもでも……」

 正直、あのテクニックは羨ましい。
 あれ以来、チヒロや他の子とするときに真似しようとしてるけど………無理。体格と筋力と体力の差が果てしない……

「………………頑張ろ」

 いつか、僕もあんな風に出来るようになりたい。


***


 行きつけのバーに顔を出したところ、ものすごい嫌な雰囲気が漂っていることに驚いた。中心にいるのは………シュンかな? 時々見かける小柄で結構可愛い子。せっかくの可愛い顔をしかめて一生懸命話してる。

「どうし………」
「コータ」

 行きかけたところをママに手招きされた。ママ、眉を寄せている。

「チヒロが真木ちゃんのホテルに泊まってるってホント?」
「……………………え?」

 ママのコソコソ声に思考が止まる。

 泊まり……?
 あの泊まらせてくれないと有名な真木さんのとこに、チヒロが泊まり?

「シュンが朝早くホテルのビュッフェで見かけたらしくて」
「……………」

 そんな話は聞いていない。チヒロ、僕に隠し事……?

(…………。いや、違うか)

 チヒロは基本的に、聞いたことにしか答えない。隠しているつもりはないのかもしれない……

「最近真木ちゃんが遊びにこなくなったの、チヒロのせいなんじゃないかって。シュンとかタクミとか、みんな真木ちゃんファンだから怒ってんのよ」
「ああ……」

 そういえば真木さん、ここ2週間くらい見かけてないな……
 ソファー席に目をやると、シュンを中心にみんな目を三角にして文句をいっている。全員泊まらせてもらえなかった口だから、その泊まっている人物が羨ましいらしい。

「今、チヒロきたらマズイわね。つるし上げにあうわよ」
「……だね」

 ママの心配そうな声に肯く。あの口下手なチヒロが上手に言い訳できるとは到底思えない。

「ちょっと、チヒロに連絡してみる……、と」
「あ」

 ママと二人、口に手を当てて黙ってしまった。静かにドアが開き……チヒロが音もなく入ってきたのだ。



***


 チヒロはシュン達に電話で呼び出されたらしい。
 みんなに取り囲まれても、いつものように淡々としている。そして、あっさりと、

「うん。泊まったことある」

 質問にコックリと肯いて、周りを凍り付かせた。
 しかも、なんと、10回もお泊りしたことがあるそうで……

「何それ……」
 シュンが真っ青になっている。今まで、真木さんのホテルを訪れた回数はシュンの4回が最高で、シュンはそれを自慢にしていたから、プライド粉々だろう。回数も倍以上な上に、チヒロはお泊りまでしているのだから。

「最後に会ったのはいつ!?」
「今朝」
「今朝?!」
「うん。あの……」

 チヒロの拙い説明によると、いつもはホテルのビュッフェで一緒に朝食を取るけれど、今朝は真木さんは大阪に行くため早朝の電車に乗らないといけなかったので、真木さんは部屋でコーヒーを飲むだけで行ってしまい、チヒロはそのまま残って、ルームサービスの朝食をいただいてきたそうだ。

 …………。羨ましい。一流ホテルのビュッフェ、ルームサービスの朝食……

(……良かったな)

 可愛い弟分のチヒロが、あの真木さんのところに10回もお泊りしたってことは、それなりにショックはある。でも、お泊りさせてくれて、一緒に朝食までとるくらい大事にしてくれてるなら、それはそれでチヒロのために良かった、と思う。

 けど、周りの子は怒り心頭といった感じだ。

「なんなのそれ? どうやって取り入ったわけ?! 何したんだよ?!」
「まあまあまあ」

 シュンが胸倉を掴む勢いで、チヒロに迫っているので、とっさに間に入る。

「体の相性が良かったんじゃないの?」
「はあああ?! こんな痩せこけた子にそんな魅力あるわけないじゃん!」
「いや、そこが良かったのかもしれないし?」

 まあまあ、とシュンを剥がして、チヒロを立たせ、みんなを見渡す。

「じゃ、もう問題解決したよね? チヒロ帰っていいでしょ?」
「解決してない!」

 タクミがプウッと頬を膨らませた。この子もなかなかかわいい子だ。

「ねえ、なんで最近、真木さんお店に来てくれなくなっちゃったの? チヒロが止めてるの?」
「ううん」

 その質問に、チヒロは軽く首を振ってから、一気に言葉を発した。

「真木さんはもうすぐお仕事の場所が大阪に戻るから毎日忙しくて全然遊べなくて元気がなくて疲れてて大変で、だからリラックスするために僕のこと呼んでるって……」
「え!!」
「やめて!!」

 シュンとタクミが同時に叫んだ。

「何それ自慢?!」
「って、それより、大阪に戻るって……」

 もう!とか、やだ!とか、皆が口々に言っている隙に、

「じゃ、またね」
 ママに手を振って、さっさとチヒロを連れ出した。こんな悪意でいっぱいの中に長居は無用だ。


***


「チヒロ、真木さんとのこと教えてくれれば良かったのに……」

 いつも行くカラオケボックスに入ってから言ってみると、チヒロはキョトンとして、

「聞かれなかったから」
と、予想通りの答えを言ってきた。

(やっぱりな……)
 この子は聞かれたことにしか答えない。そして、嘘も絶対につかない。

 純粋で可愛いチヒロ。どんな顔して真木さんに抱かれてるんだろう。誘惑に負けて、ツンツンと腕をつついて聞いてみる。

「ねえねえ、真木さんとのエッチ、どう? 毎回激しいの?」
「え?」

 チヒロは、再びキョトン、とすると首を振った。

「してないから分からない」
「え?」

 ……………。

 チヒロは絶対に嘘はつかない。と、いうことは?

「………チヒロ、真木さんとエッチしてないの?」
「うん」
「…………」

 ??? 意味が分からない……

「じゃ、10回もお泊りって何してたの?」
「アルマオイルを使ったマッサージをするんだけど真木さんはいつも途中で寝ちゃうから寝ちゃったら一緒に寝るんだけどそうすると朝までギューってされて起きたら一緒に朝ごはんを食べにいって真木さんがバランスの取れたおかずを選んでくれて……」
「……………」

 マッサージ? 途中で寝ちゃう? 朝までギュー? おかずを選ぶ?

「そう……なんだ」

 ある意味、それって、エッチよりも濃い気がする……。

 真木さん……どういうつもりなんだろう。
 真木さんって、僕と一緒で、特定の恋人は作らないで、広く浅く楽しむタイプだと思ってたのに、これじゃまるで、チヒロが恋人みたいだ。……でも、恋人だとしたら、エッチしないっていうのはおかしな話だしな………

(うーん………)

 ………ま。チヒロが何だか嬉しそうだから、いっか。

 あらためて、その可愛い顔をのぞきこむ。

「チヒロ、真木さんのこと好き?」
「うん」

 素直にうなずいたチヒロ。

「僕、アユミちゃんとコータと真木さんが好き」
「………………。そっか」

 あいかわらず可愛い過ぎる。カラオケじゃなくてラブホテルにすればよかった……なんて内心を押し込めて、くしゃくしゃと頭を撫でてやると、チヒロはくすぐったそうに笑った。




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お読みくださりありがとうございました!
まったり回でm(_ _)m
一度書いておきたかったコータ視点でした。

次回、金曜日更新予定です。真木さん視点です。
お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。


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コメント (2)
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