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BL小説・風のゆくえには~グレーテ11

2018年05月15日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ グレーテ

【チヒロ視点】


 真木さんと最後に会ったのは11月の終わりだったので、会わなくなってもう20日以上になる。

「何かあったら電話して?」
 別れ際、真木さんがそう言ったので、

「何かって何ですか?」
と、聞いたら、真木さんは「そうだねえ……」と言いながら、

「何か、困ったことがあったら、とかね」
と、ちょっと笑った。

 でもその「困ったこと」がどのくらい「困ったこと」なのか分からないので、電話はできずにいる。


 今「困っていること」は、真木さんの「匂い」が手に入らないことだ。

 真木さんの使っている香水はすごく高いのでとても買えないのだけど、香水売場に行ってジーっと見ていたら、お店の人が紙に少し垂らしてくれた。でも、確かに同じもののはずなのに、匂いが違くて……。それをお店の人にいったら、

「つける人によって匂いは変わりますので」

と、言われた。それじゃあ、頑張ってお金をためて同じ香水を買ったとしても、あの匂いは手に入らないんだ、とガッカリしてしまった。

 でも、これが電話をかけるくらい「困ったこと」なのかといったら、ちょっと違う気がして……

 でも、真木さんの匂いを嗅ぎたいなあって、ずーっと思っている。真木さんに会いたいなあって、ずーっと思ってる。
 


**


 最近、アユミちゃんは機嫌がいい。
 真木さんが紹介してくれたお客さんが入れ替わり立ち替わりきて指名してくれるので、大嫌いな「リサ」に勝ったとかなんとか……

「今日はついに、小林が同伴しようって連絡くれたの」
「小林って……」

 前に、アユミちゃんと同伴の約束をしたのに、リサを優先したお金持ちのオジサン、だ。

「ホテルのレストランでディナーだって。すごくないー?」
「うん。すごいね」

 アユミちゃんがニコニコしているのは嬉しい。

「それでね、リサに何か言われた時に自慢したいから、小林と一緒にいるところをコッソリ写真に撮ってほしいんだけど」

 アユミちゃんがイタズラそうに笑った。

「ホテルのロビーで待ってて? それとなく立ち止まって、シャッターチャンス作るからね!」

 そうして、アユミちゃんは張り切ってお化粧して、張り切って出かけていった。

 僕は言われた通り、ホテルのロビーで座って、アユミちゃんからの連絡を待ち続けた。

 ずっとずっと待つこと、2時間ほどたってから………

「あれ?」

 アユミちゃんから着信があって、首をかしげた。レストランを出る時にメールするって言ってたのに、電話だ。どうしたんだろう?

「アユミちゃん?」

 急いで出てみると、なぜか水の音が聞こえてきて……

「チーちゃん」

 アユミちゃんの小さな声……

「チーちゃん、助けて」
「え」

 助けて?

「小林、最上階のスイートに部屋取っててね、一杯だけって言われてお部屋で飲んだら、なんか、グルグル回ってきて……」
「グルグル?」
「それで、休んでって言われたけど、絶対おかしくて」
「おかしい?」

 話が、分からない。

「ここままじゃヤバイって思って、何とか誤魔化して、頑張ってお風呂のとこ入って鍵しめたけど……このままずっとここにいるわけにはいかないし……どうしよう」
「????」

 どうしようって、ええと………

「チーちゃん、このままだと、私、小林にやられちゃう」
「……………え」

 やられちゃう?

「私、あんなオジサンが初めてなんてやだよ」

 初めてって………………
 え、えええええ!? やられちゃうってそういうこと?!

「アユミちゃん………っ」

 アユミちゃん、まだ誰ともしたことないのに。女の子の初めては大切にしないといけないって言ってたのに!


「あ、アユミちゃん!?」

 突然、電話が切れてしまった。

 どうしよう。どうしよう………

 頭の中が真っ白になっていく中………

『何かあったら電話して?』

 真木さんの声が頭の中に響き渡った。
 何かあったらは困ったことがあったとき。今が、まさにその時だ、と思った。

「真木さん、助けて」

 震える手で、携帯の着信履歴の一覧を出した。



***


『話は分かった』

 行ったり来たりしてしまう僕の説明を途中で遮って、真木さんはスパッと言った。

『チヒロ君、聞いて?』

 20日以上ぶりに聞く真木さんの声は、相変わらず深みがあって素敵。気持ちが落ち着いてくる。

『フロントに行って、ホテルの人にこの電話を渡して。俺から話すから。いい?』
「は……はい」

 言われるまま、ホテルの人に電話を渡したら、ホテルの人はしばらく真木さんと話していて、それから、

「一緒にきていただけますか?」

と、僕に声をかけてきた。その後すぐに、もう2人、担架を持ったホテルの人とも一緒に、最上階の部屋に移動した。


 それからは、あっという間だった。
 ホテルの人が、インターフォンを鳴らして、出てきたオジサンに、

「具合が悪い方がいらっしゃると連絡がありました」

とか何とか話していて……、そんな中、部屋の中から大きな音がして、オジサンの制止を振り切って、担架の二人が強引に中に入っていって……

「アユミちゃん!」
 アユミちゃんが担架に乗せられて出てきた。慌てて駆け寄ると、

「チーちゃん」
 アユミちゃんはちょっとだけ微笑んで、
「カバンとコート、持ってきて」
と言った。そんなことが言えるくらい元気なことに安心した。


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お読みくださりありがとうございました!
続きを真木視点で書きかけていたのですが、間に合わないので、不本意ながらここまでで更新します。本当は一気に書きたかった……

ということで、この続きの真木視点は今度の金曜日に。
お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!
おかげで続きを書くことができました。ありがとうございます。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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