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BL小説・風のゆくえには~2つの円の位置関係3

2018年09月14日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 2つの円の位置関係

【享吾視点】


 一緒に学級委員になった西本ななえは、人の上に立つことに慣れている女子だ。人の意見を汲み取るのも上手だし、黒縁メガネの奥の鋭い瞳に見られながら、スパッと言い切られると、みんな納得してしまう。

「私、せっかちなの」

 どうして毎年学級委員になるのか? という、村上哲成の質問に対して、西本は軽く肩をすくめながら言った。

「委員決めの時間が嫌いだから、さっさと決めたくて立候補しちゃうんだよね。まあ、仕切れない人が学級委員になって、モタモタされるのがイヤっていうのもあるけど」
「なるほどなー」

 村上はウンウン肯いてから、オレの腕をバンバン叩いてきた。

「じゃ、キョーゴも頑張ってなー」
「………。西本の補佐を頑張るよ」

 若干投げやりに言ってやると、村上は軽く笑って、またバンバン叩いてきた。こういう仕草、仲良さそうな感じがして嫌だ。こいつと仲良しだと思われたくないのに。


 しかし、村上は相当鈍感なのか、オレのそんな内心にはまったく気が付かないようで、避けようとしているのに何かと絡んでくる。

 休み時間ごとにオレの席の横に立っては、くだらないこと……例えば、前日夜のテレビ番組のこととかを話し出す。オレが「みてないから分からない」と言っても、その場で周りのクラスメートに話しかけはじめ、結果、オレの席の周りに人が集まってきて……

(なんの嫌がらせだ……)

 頭を抱えたくなってしまう。オレは目立たず、ひっそりと生活したいのに。


 そんな感じで、その眼鏡チビが勝手にくっついてくるため、気が付いたら、クラス内では、村上を含めたわりと派手な連中と一緒のグループの一員と位置づけされてしまった。迷惑もいいところだ。オレ的には、クラスの中間に位置するグループに潜り込むつもりだったのに。

 こんなはずじゃなかった「のに」。

 村上と知り合ってから、オレは「のに」ばかり思っている。


***


 6月に入り、球技大会の練習が始まった。

 うちの中学では、6月と3月に球技大会が行われる。6月はクラスの親睦を深めるため、3月はクラスのお別れ会のため、らしいけれど、スポーツが苦手な人間や団体行動が苦手な人間にとっては苦行以外の何物でもない。

 いや、でも、スポーツ苦手なくせに、やけに楽しそうな奴もいる。村上哲成だ。

「キョーゴ!キョーゴ!一緒に練習してくれー!」
「………」

 昼休みになった途端、誘いに来た村上。
 一緒のクラスになって2ヶ月。素っ気なくしていても全然堪えない鈍感さは尊敬に値する。

「他の奴だと取れないボールもキョーゴは取ってくれるからホント助かるんだよなー」
「…………」

 村上は、野球部に所属しているけれど、相当な運動音痴なのだ。色も白いし、貧弱だし、体力ないし、全然野球部員に見えない。
 球技大会のバレーボールももちろんものすごく下手くそで、レシーブも明後日の方向に飛んで行ってしまうので、一緒にやっていると無駄に体力を削られる。けれども、ここで断ってもしつこく誘われることは目に見えているので、無駄な抵抗はしないでうなずいてやる。

「………。分かった」
「やったー!サンキュー♪ 練習する奴、中庭集合ー!」

 村上の大きな声に、数人が返事をして、一緒に移動を始める。でも、行かない連中は顔を見合わせて、コソコソと「村上テツ、鬱陶しー」とか言ってて………

(やな感じだな……)

 でも、参加メンバーを見て、こちらに属していて大丈夫……と瞬時に判断し、村上の後を追う。

(村上……気づいてないんだろうな……)

 鈍感ってある意味羨ましいかもしれない。


 と、思いきや。


「あー、知ってる知ってる。そんなの言わせとけばいいんだよ!」

 お節介に忠告してきたクラスメートの言葉に、村上がケロリと言い放ったので、驚いてしまった。

 村上は下手くそなトス練習をしながら、叫ぶように言った。

「でもさーこんなんさー、絶対、一生懸命やった方が楽しいのなー。踊らにゃ損損ってやつだよ! なあ、キョーゴ!」
「……………」

 オレに話を振るな。と、思いつつ、村上が外したボールを取って、投げてやると、村上は「サーンキュー」と言って、ニカッと笑った。

(……本当に、変な奴だな)

 何だかため息が出てしまう。その前向きさと強さはどこからくるんだ?


***


「それは、松浦君のおかげかもしれない」
「松浦?」

 って、野球部の松浦暁生のこと? と聞くと、西本ななえは「yes」とうなずいた。

 放課後、学級委員に任されたアンケート集計を二人でしながら、それとなく聞いてみたところ、村上と同じ小学校出身の西本は、訳知り顔で色々と教えてくれた。

 村上は昔から小さくて色白で、頭は良いけれど、運動は全然ダメだった。
 松浦は昔から体格がよくて、運動神経も抜群で、頭も良くて、リーダーシップも取れるモテモテ男子だった。
 そんな二人は、幼稚園からの親友で、いつもいつも一緒に行動していた、そうだ。

「テツ君ってお調子者だから、みんなから邪険にされがちなんだけど、あの松浦君の親友ってことで大目に見てもらえてたというか……」
「…………」
「だからテツ君の中では、松浦君に守ってもらえるっていう自信があるんじゃないかな……」
「ふーん……」

 虎の威を借る何とかってやつだな。それって……

「松浦……村上のことイヤにならないのかな」
「え?」

 思わずつぶやくと、西本はキョトン、とした後、いやいやいやと大きく手を振った。

「イヤになんかならないでしょ。だって、テツ君、かわいいもん」
「は?」

 かわいい?

 西本の答えに頭がハテナでいっぱいになる。

「どこが?」
「どこがって……」

 しばしの沈黙の後、西本は軽く肩をすくめた。

「分からないならいいよ。テツ君のかわいさは、分かる人にだけ分かればいいから」
「は?」

 は?しか言えないオレの目の前で、西本はトントンっとプリントをまとめると、

「じゃ、これ、先生に出してくるね」
「え、あ……」

 意味不明の言葉の解説はしないまま、さっさと出ていってしまった。その背中に思わず呟いてしまう。

 かわいい? あの眼鏡チビが?

「意味が分からない……」

 分からないけれど……
 最上位の存在である松浦とかなりの絆があるらしい村上。やはり、関わらない方がよさそうだ。


 と、思っていたのに………



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お読みくださりありがとうございました!
お休み中も、クリックしてくださった方、読みに来てくださった方、本当に本当にありがとうございました!おかげで戻ってこられました。

いつもながら、マッタリしたお話でm(._.)m
「風のゆくえには」シリーズ本編主役の慶と浩介みたいに、出会った途端、ビビビッてきたら物語の進みも早いのでしょうけど、享吾と哲成はあいにくそうではなく……
いつになったら、2つの円がくっつくのか? 私が一番心配してたり💦
次回もマッタリしてますが、見守っていただけると幸いでございます。
次回、火曜日更新予定です。お時間ありましたら、どうぞよろしくお願いいたします。


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