【哲成視点】
松浦暁生はオレのヒーローだ。
幼稚園で同じクラスになったことをキッカケに友達になった暁生。体が小さくて揶揄われやすいオレのことをいつも守ってくれた。ずっとそばにいてくれた。オレ達は自他ともに認める「親友」だ。
中学生になって、暁生と一緒の部活、という理由で野球部に入った。
オレは、昔から運動が苦手で、まともにキャッチボールもできないし、打てないしで、まわりから馬鹿にされまくっていた。
でも、暁生は、中学入学時点で、すでに上級生と変わらないほど体格が良かった上に、小学3年生から少年野球チームに所属していて、市の選抜メンバーに選ばれるほどの実力者だったので、入部早々に、上級生を押しのけてベンチ入りした。
そんな暁生のことを僻んで、良く言わない奴らもいた。顧問の先生に贔屓されてるからレギュラーになったんだ、とか、色々。だから、先生が「一年生のリーダーは暁生に」と言っているのに、反対派がいて、決めることができていなかった。
でも、そんなある日……
練習中、フライを取り損ねて、額にボールをぶつけてしまったオレ。
周りの連中はゲラゲラ笑ったり、「何やってんだよ!」って呆れたりしていたけれど……
「いいぞ!」
そんな声を打ち消すほどの大きな声が校庭に響き渡った。振り返ると、暁生が大きくガッツポーズしていた。
「おでこに当たったってことは、ちゃんと落下点に入れてるってことだぞ! 後は取るだけ! その調子!」
「!」
その時の、連中のハッとしたような顔。暁生との格の違いにようやく気がついたか。ザマアミロ。
(暁生は、違う)
人の失敗を笑ったり呆れたりするような、お前らとは違う。暁生は人を貶しめたりしない。人の良いところを見つけてくれる。やる気をくれる。暁生はいつでも真っ直ぐだ。
「一年生のリーダーは松浦暁生で」
そう決まったのは、この件の直後のことだった。暁生のことを僻んでいた奴らも、暁生のことをリーダーとして認めざるをえなくなったのだ。
オレは暁生が誇らしくてしょうがない。優しくて、かっこよくて、強くて、頼りがいがあって。暁生は完全無欠のヒーローだ。
***
暁生とは残念ながら、中学3年間、一度も同じクラスになることができなかった。
その代わり……といってはなんだけど、一緒のクラスになってみたい、と思っていた奴と中学3年生で同じクラスになれた。
村上享吾、という、オレと同じ苗字の奴だ。
奴は、2年生の球技大会で、途中から手を抜きやがった。今回はそんなことさせないために、強引に学級委員にしてやった。学級委員になれば、責任を感じて本気でやるに違いない、と思ったからだ。
そのおかげなのか何なのか分からないけれど、奴は、球技大会の練習を一度も休まず参加した。その上、本番当日も、
「勝つぞ?」
と、何だかものすごい気迫で言ってきて、実際、試合中も大活躍していた。
(こいつ……すげえな)
その立ち上るオーラみたいなものに目が離せなくなった。写真に撮って飾っておきたいような完璧なフォーム。何もかも跳ねのける力をボールに与えていて、誰も奴のボールに手出しすることはできない。とにかくすごい……
でも……
「お前、すげーな!」
試合終了後、そう言って飛びついたところ、奴は、
「別にすごくない」
つぶやくように言って、そのオーラを消し去ると、さっさとコートから出て行ってしまった。
「すごいのに……」
村上享吾。やっぱり……何だかよく分からない奴だ。
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お読みくださりありがとうございました!
前半は、話が進まないよーでもここは押さえておきたいしー……と、葛藤しながら書いた哲成の中学入学当初のお話でございました。
次回、なぜに享吾君が球技大会本番当日ヤル気だしてたのかというお話でございます。
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