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BL小説・風のゆくえには~グレーテ10

2018年05月11日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ グレーテ

【真木視点】


 渋谷慶、という名の天使の特筆すべき美点は、素で人が良い、というところかもしれない。あの顔で、あの体で、あのオーラを持っているのにも関わらず、とても人懐こくて謙虚。あれが演技だとしたら相当の食わせ者だけれども、どうやら、本当にあれが彼の素、なのだ。あの真っ直ぐさ、よほど恵まれた家庭環境に育ったのだろう。

(いや……恵まれた、という点では俺も同じか)

 裕福で愛情に満ちた俺の家族。
 でも、その愛情が、針のように俺を突き刺す。この幸せな家族の中で、俺だけが異端だという罪悪感で、体中に穴があく……


「慶君は、ご家族にカミングアウトしてるの?」

 慶にコッソリたずねてみたところ、慶は「はい」とアッサリ肯いた。

「高校の時に浩介とのことがバレて……、で、父は容認、母は黙認って感じで。姉は応援してくれて、妹にいたってはメチャメチャ喜んで」
「喜ぶ?」
「はい。それはもう、狂喜乱舞」

 慶は苦笑しながら、言葉を継いだ。

「あいつ、昔からそういう……男同士の恋愛物とか大好きで。今はそれ職業にしてるくらいで」
「職業?」
「あのー、小説とか、雑誌のレポみたいなのとか書いてるらしくて……、おれはコワくて読んだことないんですけど、浩介はよく読んでて………、あ、それでこないだ……」

 くくく、と笑う慶。慶は恋人の浩介の話をするとき、いつも幸せそうだ。

「どう考えてもそれはおかしいってのがあって、それを浩介が妹に言ったら、『それは女の子の中のファンタジーだから見逃して』って言われたって。ファンタジーってなんすかねファンタジーって。こっちは現実だっていうのに」
「ファンタジー、ね……」

 空想世界。夢の世界。

 そうだな……。こちらが夢の世界で、現実は、異性と結婚して「世間一般の幸せ」を得ることで……

「真木さんはご家族には?」
「…………。言ってないよ。言うつもりもない。面倒くさいからね」

 肩をすくめて言うと、慶は「分かる分かる」とコクコクうなずいた。

「おれもバレた時には色々あったので……」
「ああ、そうなんだ……」

 その『色々』を乗り越えて、君達は一緒にいるんだな……

(ああ、悔しいなあ……)
 慶と浩介。二人の間に漂う特別感を思い出してため息をつきたくなったところ、

「あ!そうそう!ありがとうございます!」
「………っ」

 いきなり、キラキラオーラ全開で詰め寄られて、思わず後退りしてしまった。本人無自覚のそのオーラはほとんど凶器だ。

「……何がありがとう?」
「真木さん、おれに恋人がいるってみんなに言ってくださったじゃないですか?」
「……ああ」

 先日、慶が職場の女性陣に合コンに誘われている現場に遭遇したのだ。やたらボディタッチの多い看護師もいて、こんな奴らに俺の天使が囲まれていることにも、合コンに連れていかれることにも我慢ができず、思わず、

「渋谷先生は恋人がいるんだから誘ったりしたらだめだよ」

と、言ってしまったのだ。慶はずっと恋人の存在を隠していたので、当然、女性陣は大騒ぎとなったわけだけれども……

「あそこで真木先生がビシッと、そうやって騒がれるのが嫌で今まで隠してたんじゃないの?とか言ってくださったおかげで、みんな納得してくれたというか……、あ、いまだに嘘つき呼ばわりはされてるんですけど」

 アハハと笑った慶。

「でも、変に隠さなくてよくなったから、浩介の弁当もみんなの前で食べられるようになって、嬉しいっていうかなんていうか」
「…………」

 自慢の愛妻弁当、か。

「なんか、みんなに認められてるって感じがして良いなって。本当のことは言えないですけど……」
「…………」

 慶の目元がふっと和らいだ。

「だから、こうして真木さんに話せるの、すっごく嬉しくて。本当のこと知ってるの、家族含めてほんの数人なので……」
「…………」
「ああやってみんなに言ってくれたことにも、感謝してます。ありがとうございます」
「………慶君」

 ペコリ、と頭を下げてきた慶に、若干の後ろめたさはある。理解ある先輩のふりをして、あわよくば、と思っているのだから。

(この子、本当にすっかり騙されてるんだな……)

 ああ、かわいそうに………

(でも……)

 俺の中に芽生えてきている思いが、胸の中に広がっていく。

(このまま、彼の『頼りになる先輩』でいたい)

 このまま、一心に尊敬の目を向けられていたい。感謝されて、頼られたい。

(何より、彼の好意を失いたくない)


 ああ……俺らしくないな。欲しいものは何でも手に入れてきたのに、こんな形で満足しようとするなんて。


 そんな俺の葛藤なんて知るわけもない慶が、ニコニコと言ってくる。

「真木さんが大阪帰っちゃう前に、何かお礼させてください」
「………そう?」

 じゃあ、別れのキスを。……なんて言えるわけがない。

「そうだな……、じゃ、またスカッシュやりにいきたいな」
「はい!喜んで!」
「…………」

 君のそのキラキラは本当に凶器だよ。俺の中の欲望ですら溶かしてしまう。



***



 考えてみたら、大阪の研修会の夜以来、男の子を抱いていない。俺にしてはものすごく珍しい。でも、どうもやる気にならない。また、あの虚しさに襲われそうな気がして……

 だから、東京に戻ってきてからは、毎晩チヒロを抱き枕にしている。
 俺が大阪に帰るまでの期間、毎日ここに泊まることを誘ったら、チヒロはあっさりとうなずいた。日中は、家に帰ったり、仕事に行ったりしているようだけれども、俺が帰るときには必ず部屋にいて、ひっそりと窓から外を見ていたり、大人しく本を読んでいたりする。まるでペットだな、と思う。


 性的欲求ではなく「抱きしめたい」と思うなんて、記憶の限り、チヒロが初めての存在だ。
 常に無表情なチヒロ。母親と姉に付けられたその傷痕を、与えられたものだけで生きているその瞳を、「抱きしめたい」と思う。
 この心の動きに名前をつけるなら……共感。シンパシー。俺達は、同じお菓子の家の住人だ。



 東京最後の夜……

「真木さん、眠れないですか? そしたら僕……」
「待って」

 チヒロの頭や肩や細い腰を延々と撫でまわしていたら、チヒロが気にしてベッドから出ようとしたので、力ずくで引っ張り抱き寄せた。

「チヒロ君は、もう寝たい?」
「そんなことはないんですけど真木さんは明日もお仕事だから」
「うん、そうなんだけどね……」

 頭を優しく撫でる。

「なんだか眠るのがもったいない気がしてね……」
「?」

 ハテナ?という顔をした額に唇を落とすと、ますますハテナ?になるチヒロが面白い。

「チヒロ君、何か話して」
「何かって何を?」
「そうだなあ……」

 こういうときは、共通の知っていることの話をするのが定跡だ。と、なると……

「お姉さんの話」
「姉……、あ、今日会った時に、真木さんが紹介してくださった方がお店に何人もきてくれてて忙しいって言ってました」
「そう。それは良かった」

 以前、俺と連絡が取れなくなった際、チヒロの姉アユミは、チヒロに俺の代わりを連れてくるよう命令していた。だから、またそうならないように、友人や同僚や先輩を片っ端から連れて行って紹介してやったのだ。何人かは引っかかってくれたということだな……

「君のお姉さん、顔もスタイルも良いんだから、あとは性格が良くなるといいんだけど」
「姉は性格も良いです。とても優しいです」
「………そう?」

 同伴を条件に弟を差し出したり、弟の足に痕が残るまで爪を立てたりする女のどこが優しいんだ?という言葉は飲み込む。

「君はお姉さんのこと大好きだね」
「はい」

 コクリとうなずくチヒロ。

「姉は僕のことをいつも助けてくれます」
「そう……」

 そういえば、アユミが「子供の頃はいつも宿題見せてやってた」とか言ってたな……

「あとは誰が好き? コータ君?」
「はい。コータもいつも僕を助けてくれます」

 またうなずくチヒロ。何となく、頬をつねってやりたくなる。

「あとは?」

 頬に手を当てて聞くと、チヒロは透明な目でアッサリと言った。

「真木さん」

 淡々としたチヒロの声がベッドルームに小さく響く。

「真木さんが好きです」
「………………」
「………………」
「………………そう」

 好きと言われているのに嬉しくないのは、アユミとコータと同列に言われたからだろうか。

「俺のことはどこが好き?」
「どこ………」

 チヒロはジッと俺を見上げると、意外なことを言った。

「真木さんの匂いが好きです」
「匂い?」
「はい。大好きです」

 またコクリとうなずいたチヒロ。

「それから……」
と、それを合図に言葉の羅列がはじまった。

「王子様みたいな顔も大好きだしよく響く声も大好きだし力強い腕も大好きだし艶々してる背中も大好きで温かい胸も……、?」

 思わずキュッと抱きしめる。と、チヒロはキョトンとした感じに言葉を止めた。

「真木さん?」
「…………」

 この子、淡々と言ってるけど、気がついてるのかな……

 アユミとコータは「助けてくれる」から好き。
 でも、俺のことは、俺が何かをしてくれるから、ではなく、俺自身のことだ。

 なぜか胸の中が温かく、温かくなっていく。

「あの………」
「チヒロ君」

 コン、とオデコを合わせる。

「もし、大阪においでって言ったら、どうする?」
「行きます」

 あっさりと肯いたチヒロ。でも意味が違いそうだ。

「遊びに行く、じゃないよ? 住むんだよ?」
「住む?引っ越し?」

 チヒロの眉が珍しく寄せられた。そして、

「それは無理です」

 また、あっさりと今度は首を横に振った。

「僕はあの家で姉と一緒に母を待たないといけないしそれにこちらでお仕事もあるし」
「そう……」

 やっぱりそうだよな……。君もお菓子の家の住人だもんな?
 でも、俺は君のグレーテルになって、君を連れ出すことはできない。俺自身もお菓子の家から出て行くことはできないから。


「じゃあ……もう、寝ようか」
「?」

 また、キョトン、としたチヒロの額に再び唇を落とす。

「明日は最後の朝だから、ちょっと贅沢しよう」
「贅沢?」
「おいしいお店に連れて行ってあげる」
「………」

 チヒロの返事を聞く前に、ぎゅっと抱きしめる。初めて抱きしめたときから少しも太ってないな……。

「おやすみ」
「おやすみ……なさい」

 まだハテナ?の顔をしているだろうチヒロの頭を撫でる。

(この抱き枕とも今日でお別れだな……)

 この感触をよく覚えておこう……


***



 大阪に戻ってきてからは、チヒロとは連絡を取らなかった。
 あの東京の夜景の中でチヒロと過ごした夜は、まるで「ファンタジー」。空想世界。夢の世界であったかのようだ。このまま記憶の彼方に追いやられて忘れていく……

 と、思っていたのだけれども。

『助けて、ください』

 チヒロから電話があったのは、クリスマスイブ前々日のことだった。


----


お読みくださりありがとうございました!

クリックしてくださった方、読みにきてくださった方、本当にありがとうございます!!どれだけ励まされたことか…。おかげでなんとか更新にこぎつけました。本当にありがとうございます!今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~プライベートな話をします(後編)

2018年05月04日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切

【浩介視点】


「勃たないんだよ……」
と、高校時代の同級生の溝部に相談したところ、

「最低でも2週間は禁欲」
と、アドバイスをされた。だから、それを決行しようと思う。

 溝部には、本当はおれがタチだということは内緒にしているので話せなかったのだけれども、実は「勃たない」のは挿入段階の話であって、慶が、お風呂でフワフワの石鹸を使って手でしてくれると射精はできるのだ。考えてみたら、それで余計にできなくなっていたのかもしれない。

『いいか? オレ達、若いつもりでも、もうソコソコいい歳なんだよ。今まで通りになんでも出来ると思うなよ』

 溝部の言うことはもっともだ。禁欲しよう禁欲。慶の誕生日にちゃんとできるように禁欲。

 問題は、それを慶になんて言うかだ……と、思っていたら。


「溝部から聞いたぞ?」

 帰宅早々の慶に言われた。飲み会の最中に溝部から電話がかかってきたらしい。溝部、うちからの帰りに電話したってことか……

(溝部……なんで言うかな……)

 こんなプライベートな話晒して!と怒られる……と身構えたのだけれども、慶はちょっと笑いながら、

「なんかよくわかんねえことも言われたけど、最終的にはスゲー慰められた。『お前のせいじゃない!』って」
「あ……ごめん…色々ぼかして話したから何かそういうことに……」

 男側の立場からしたら、慶は彼女をイかせられない男ってことになるらしい……

「話してごめんなさい……」
「いや……、で?2週間禁欲だって?」
「あ、うん」

 溝部が上手く話してくれたのか、慶が怒っていないようで安心する。

「とりあえずそうしてみようかな、と思って」
「ん。わかった」
「あ、でもでも」

 軽くうなずいた慶に慌てて手を振る。

「慶のことは、おれがちゃんと………」
「いや、それはいい。この際、一切やめよーぜ?」

 サバサバした口調で慶が言う。

「元々さ、お前が出来ないってなったときに、すぐやめりゃ良かったんだよな」

 慶、苦笑いを浮かべている。

「それなのに、そのあとおれが無理矢理抜いたりしたから……。それで余計に出来なくなってストレスになってるんじゃ逆効果もいいとこだったな。ごめんな」
「慶…………」

 『逆効果』ってことは、慶はおれのストレスを軽減させるために抜いてくれてたってこと……

 ああ、おれ、また慶の好意を踏みにじって……っ

「そんなことない! 慶、おれは………っ」
「だからさ」

 ポン、と頭に手を置かれ、言葉を止められた。ニッと笑った慶。

「運動でストレス発散しようぜ?」
「え」

 運動?

「雨がやんでくれればジョギングもいいんだけどなー。ま、明日は、ランニングマシンだな。並んでやりたいから一番に突撃かけよう」
「………………」

 あ、ジムに行くってこと……

「嫌か?」
「ううん。行く」

 慌ててぶんぶん首を振る。慶がおれのことを考えて言ってくれてること、慶がおれと一緒にしたいと思ってくれてること、嫌なわけがない。

「お前は何したい?」
「……………」

 優しく言ってくれた慶の手をきゅっと握る。温かい手……優しい優しい慶。慶の優しさに浸りたい。

「あのね………ジムから帰ってきたら、テレビとか観ながらイチャイチャしたい」
「イチャイチャ?」
「イチャイチャ」

 きゅっきゅっきゅっと手を握る。

「高校生の時みたいに」
「あー……なるほど」

 うんうんとうなずいた慶。

「高校の時、おれ達、感心に一回もやらなかったもんなあ」
「………。正確には、2回だけ抜きあいっこしたけどね」
「そうだっけ?」
「…………」

 あいかわらず、慶の記憶は適当だ。おれが覚え過ぎてるのかもしれないけど……

「ま、とにかく、イチャイチャな」
 クスッと笑った慶が、触れるだけのキスをくれる。

「明日は午前中はジム。午後はうちでイチャイチャで決定」
「うん」

 ぎゅっと抱きつくと、頭をイイコイイコって撫でてくれた。慶の腕の中はいつも居心地がいい。高校生の時からずっと変わらない。


***


 それから2週間後。4月28日土曜日。慶の誕生日。

 仕事帰りの慶と待ち合わせをして、最寄り駅近くで食事をして、ケーキを買ってマンションに帰って食べて、それから一緒にお風呂に入って、ベッドに移動して………



「………………………………ごめん」
「バカ謝んな」

 ショックのあまりベッドに突っ伏したままのおれの頭を、慶が優しく優しく撫でてくれる。……けれども、心は少しも晴れない。

 やっぱり、できなかったのだ。まるで自分のものではないみたい。固くなってるのか柔らかいままなのかも分からなくて………

「お前緊張しすぎじゃね? スッゲー心臓ドキドキいってたぞ」
「……………」

 緊張とかそういうレベルの話じゃない気がする。おれ、もう、一生できないのかもしれない。

「どうしよう……」
「どうしようって……まあ、また今度ゆっくり」
「そういってその今度もできなくて、次もできなくて、ずっとずっとできなくてってなったら、おれもうダメじゃんっ」

 不安に押しつぶされそうで思わず叫んでしまう。

「一生できなくなって、それで慶がおれのこと呆れて嫌いに……痛っ」

 ゴッとこめかみを小突かれた。振り仰ぐと、慶が心底呆れたような顔をしてこちらを見下ろしている。

「アホか。んなことで嫌いになるわけねえだろ」
「だって」
「だってじゃねーよ」

 ぐいっと引っ張られ、ベッドの上に座らさせられる。

「お前のことが好きっていうのは、もはやおれの人格形成のすべてだからな。今さら何があったって変えようがない」
「慶……でも」

 そういってくれるのは、本当に本当に嬉しいし、慶がおれのことを好きでいてくれてるのは、充分分かってる。けど、でも……

「なんだ」
「…………。これから一生、慶と一つになることができないって思ったら……つらい」

 そう。それが一番つらい……

「………それはさあ」

 慶は、んーと腕を組んで唸ると、

「挿入だけが全てではないと思うけど……、まあ、そこまで言うなら病院にいってみてもいいかもな」
「病院にいってもダメだったら?」
「そうしたら……、あ!」

 慶は急に大声で叫ぶと、「そうだそうだ!」とはしゃいだようにおれの手を取った。

「いいこと思いついた!」
「いいこと?」

 何? と慶の湖みたいな瞳をのぞき込む、と。

「おれがすりゃいいんじゃん」
「え?」

 する?

「だから、おれがタチになればいいって話だよ!」
「……………あ」

 そっか………そんな手が………。すごい発想の転換。

 慶は楽し気に手を叩くと、

「よし。じゃー、また落ち着いたころにやってみて、ダメだったら病院行くことにして。それでもダメだったら、おれがお前のこと、じーっくり開発してやるからな♪」
「慶…………」

 明るい明るい慶。慶はいつでも前向きで、後ろ向きなおれのことを引っ張っていってくれて……

「………。男同士って便利だね」
「だなー。どっちもありだもんなー」

 くくくと笑った慶。

「とりあえず、今日はもう寝ようぜ? パジャマ着る」
「……………うん」

 以前、慶の妹の南ちゃんがプレゼントしてくれた色違いのパジャマに手を通す。慶はMでおれがLなことに慶はちょっとブツブツ言ってたけど、お揃いを着るのは嬉しい。

「明日は朝からダラダラしような?」
「パジャマパーティー?」
「なんだそれ?」
「パジャマ着たままダラダラすること」
「ふーん?」

 なんかよく分かんねえなあ……と言いながら慶はおれの頭を引き寄せてオデコにキスをくれた。

「おやすみ」
「おやすみなさい」

 言ったそばから慶はすぐに寝息をたて始めた。おれが出来なかったことなんて、何でもないことのように、何も気にしていないように、あっさりと。その寝顔が苦しいほど愛しい。

 この2週間、おれの我が儘に付き合って、キスとハグ以上のことはしないでくれた慶。いつもよりも、キスの回数が増えた。ハグの回数も増えた。溢れるほどの愛で包んでくれた。

 今日はそんな慶をガッカリさせないようにって頑張ったけど、やっぱりダメで……。でも慶はそんなおれのことも受け入れてくれて、もし、このままおれが一生できなくても、慶がしてくれるから大丈夫だって言ってくれて。それがどんなに心強いことか……慶、分かってる?

「慶………」

 ぎゅっと抱きつく。慶の腕の中は居心地がいい……




 翌朝……

 違和感を感じて、目が覚めた。なんだろう……、と!!!

「慶!?」
「あ……やっぱり起きたか」
「起きたかって……っ」

 そりゃ起きるって!
 全裸の慶がおれにまたがって、左手でおれのあそこを扱いていて、右手で……

(うわ……っ)

 興奮しすぎて血管切れるかと思った。慶の右手……後ろに回ってる。ちょっと眉を寄せてるその顔から分かる。慶、自分の指入れてる。は……初めてみたっ!

「お前、すっげー朝勃ちしてるから、今ならできんじゃね?と思って」
「……………」

 朝勃ち? あ、いつの間にパジャマのズボン、膝のところまで下ろされてる。って、そ、そんなことより……

「慶……今、何本入れてる?」
「あ? 2本」
「…………」

 うわ……見たい。興奮が止まらない。慶の切ないような瞳。細かく動いている腕……。見たい。見たい……

「ね、慶、2本じゃ足りないでしょ? さん……」

と、言いかけた時だった。

「そう。足んねえんだよ」

 慶のきっぱりした声。

「だから、お前の、くれ」
「え?」

 聞き返す間もなかった。

「!!!」

 全身が快感で震えた。久しぶりの、慶の中……っ!

「あ……熱っ」
「……っ」

 強引に押し進められ、股と尻がくっついた。でもこんな入れ方したら、慶……っ

「慶、大丈……っ」
「………早く」
「……っ」

 慶の切ない瞳に心臓を撃ち抜かれた。
 上半身を起こされ、騎乗位から正常位に体勢を入れ替えさせられる。慶が自分で膝の後ろを抱えて、誘うように腰を動かしてきて……

「……慶っ」

 あとはもう、無我夢中だった。
 ひたすら腰を振って、余計なことは考えないで、慶の湖みたいな瞳だけを見つめて、慶のかすれた喘ぎ声だけ聞いて……

(ああ、慶………)

「愛してるよ、慶……」
「ん……」

 唇を重ねる。背中に立てられた爪の痛みが快感に変わる。そして……


***


 昼過ぎまでダラダラとベッドの中でイチャイチャして過ごした。

「パジャマパーティーって言ったのに、パジャマ着てねえじゃん」
「あはは。ホントだ」

 シャワーを浴びた時以外、ずっとずっとくっついていた。溶け合うくらいくっついていて……ああ、なんて幸せなんだろう。

「さすがにそろそろ起きるか?」
「ん。じゃ、コーヒーいれるね」
「おお。サンキュー」

 慶をベッドに残したまま、パジャマを羽織って台所に移動する。ふとスマホに目が止まった。

(溝部に報告……しとこうかな)

 細かいことは書かないで、一言だけ。

『できた!ありがとう!』

 うん。これだけで。
 本当は「2回もできたよ」って言いたいけど、さすがにそれはまずいよな……と思っていたら、

『おめでとう』

と、返事がきた。


「おめでとう………かあ」
「なんだ?」

 のっそりとベッドから這うように出てきた慶に、にっこりと伝える。

「おめでとうって、溝部から」
「ああ……誕生日か」

 昨日だけどな……と言いながらソファに寝そべった慶が猫みたいで可愛い。

「うん。お誕生日おめでとう」
「ん」

 コーヒーのセットをしてから、丸くなっている慶の横に座る。頭を撫でると、モゾモゾと慶がおれの膝に頭をのせてきた。

「お昼、何食べたい?」
「んー………パスタ」

 明るい日差し。漂ってくるコーヒーの匂い。

「ミートソース? カルボナーラ?」
「ミートソース~~」

 幸せな日曜日。慶の誕生日の翌日。

 溝部達も幸せに過ごしてるといいな、と思う。
 
 

---


お読みくださりありがとうございました!
私、浩介×慶に飢えてたんだなあ…と思った今日この頃……
でも、せっかくなので、真木×チヒロも完結させますっ。
が、立て込んでいるため1回お休みで、来週の金曜日に更新させていただきます。
お時間ありましたらどうぞよろしくお願いいたします。

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BL小説・風のゆくえには~プライベートな話をします(前編)

2018年05月01日 07時21分00秒 | BL小説・風のゆくえには~ 短編読切


【溝部視点】


「勃たないんだよ……」

 2018年4月14日土曜日の夜。
 高校の同級生・桜井浩介に、ものすっごい真剣な顔で言われた。

「溝部はそういう経験ない?」
「…………」

 桜井は天然ではあるものの、冗談は言わないタイプなので、本気なのはよーく分かる。分かるけど……分かるからこそ……

「…………。シラフでする話じゃねえな」

 ボソッと返すと、「あ!ごめんね!ビールもう一本いる?」とイソイソと追加のビールを持ってきてくれるあたり、こいつは本当に完璧奥さんだなあと思う。


 桜井から電話がかかってきたのは、今日の昼間のことだった。いつもはラインなのに、わざわざ電話なんて珍しい、と思ったら、

「相談したいことがあって……。でも慶には知られたくないから、文字には残したくなくて……」

と、言う。渋谷から職場の人と飲んで帰るから遅くなる、と連絡があったので、今晩がチャンスなのだそうだ。

 桜井は、オレのリクエスト通り、豚の生姜焼きでもてなしてくれた。朝から息子の少年野球チームのコーチをしてヘトヘトなところに、この料理とビールは天国だ。

 でも、そんな旨い料理にはそぐわない話を、桜井はボソボソと続けている。

「ネットで調べたくても、うちはパソコン共有だし、スマホもオープンだから、いつ慶に見られちゃうか分からないから調べられなくて……」

 こんなこと相談できるの溝部しかいないから……なんて言われたら、悪い気はしない。


 話をまとめると、ざっとこんな感じ。

 2週間ほど前から、性生活がうまくいかなくなってしまった。思い当たることといったら、少々厄介な生徒を担当することになり、その保護者とも話し合いをしているので、そのストレスかも……

「勃っても持続しなくて……こんなこと初めてで。おれEDになっちゃったのかなあとか思ったりして……」
「…………」
「慶にも申し訳ないというかなんというか……」
「…………」

 以前、桜井と渋谷は、桜井が「される側」だと聞いたことがある。ということは、桜井をいかせることのできない渋谷はもっと気にしているだろうな……。それで「慶に申し訳ない」か。女と違って演技で誤魔化すこともできないしな……

「……それ普通に、今言ったこと渋谷に話せばいいんじゃねえの?」
「そうなんだけど………話したら慶のことだから、すごい調べてくれたり、病院連れていってくれたり、なんか大袈裟なことになりそうで………」
「あー………なるほどな」

 確かに、それをパートナーにやられるのは、内容が内容なだけにきついよな……

「んー……でも、まだ2週間だろ? とりあえず期間空けたらどうだ?」
「期間?」

 キョトンとした桜井に指を差してやる。

「いいか? オレ達、若いつもりでも、もうソコソコいい歳なんだよ。今まで通りになんでも出来ると思うなよ」
「あー………」

 まあね……と桜井。

「どうせお前ら、年がら年中イチャイチャしてんだろ? 回数減らせ回数」
「そんな言うほどしてないよ……」

と、いいつつ、つっこんで聞いてみたら、「週2くらい」だという……

「お前なあ……」

 ガックリしてしまう。

「新婚1年ちょっとのオレだって、週1あるか無いかだぞ? 長谷川委員長も月1か2って言ってたし。週2やって出来ないって言われても………」
「でも慶は全然大丈夫だよ?」
「あの化け物と一緒にすんな」

 渋谷慶は見た目も若ければ体力も無尽蔵で、化け物としか思えないのだ。

 桜井もそこは否定せずに、ぐっと身を乗り出してきた。

「じゃあ、さ。慶に何て言って断ればいいと思う?」
「そりゃあ………忙しいふりするとか」
「それが出来れば苦労はないんだよ」

 ムーとした桜井。

「3年くらい前にね、ちょっと色々あって、忙しいふりして慶のこと避けたことがあったんだけど……」
「おお」

 このイチャイチャカップルにそんなことがあったとは!

「そしたら渋谷、どうしたよ?」
「どうしたもこうしたもないよ」

 苦笑して肩をすくめた桜井。

「『あと10日でセックスレスになる!』とか言って、無理矢理………」
「げ」

 渋谷……

「あの人、本当にメチャメチャ強いからね? 本気で押さえつけられたら絶対逃げられないからね?」
「うわ~~~~~~」

 あいつ、綺麗な顔して、ホントこえ~~………

「じゃあ、具合が悪い………、は、無理か」
「はい。うちの旦那様、お医者様なもので」
「だよなあ……」

 厄介だなあ………

「じゃーしょうがねえよ。やっぱり正直に言うしかねえ」
「えー………」

 そんなあ……という桜井に、手を振る。

「とにかく、最低でも2週間は禁欲! そのあとでゆっくりやってみろ」
「2週間………」

 桜井が「あ」と言った。

「2週間後って、慶の誕生日だ……」
「じゃあちょうどいいじゃねえか」

 ケケと笑ってやる。

「誕生日のために精子ためとくって言っとけ」
「何それ」

 あははと笑った桜井。でもふと、真剣な顔に戻ると、

「でも、それはそれで、慶に申し訳ない気もする……」
「あー………」

 そりゃあ普段、週2なんだもんなあ……と、思ったけれど、

「別に、お前がやらなきゃいいだけの話なんだから、それまでは手で抜いてやりゃいいじゃん」
「あ、そっか。そうだよね!」

 途端にパアッと顔を明るくした桜井。

「ありがとう溝部!」

 さすが溝部! 溝部に相談して良かった! 助かったよ! 食べて食べて! デザートにアイスもあるよ!

「おお………」
 手放しで褒められて喜ばれて、ちょっと複雑だ。実はオレも現在、そんな偉そうなことを言っている場合ではない。

 と、いうのが……


***


 4月27日朝。

「ごめん、ちょっと……気分じゃない」
「……………………………。あ、そう」

 息子の陽太が学校に行ってすぐに、洗い物をしている鈴木を後ろから抱きしめて、耳に唇を落とした時点で、腰に回した手をポンポンと叩かれ、そう言われた。

「ごめんね」
「あ、いや。全然大丈夫」

 降参、というように手を挙げると、鈴木はちょっと笑って、オレの頬にチュッとキスしてくれてから、スーッとトイレに行ってしまった。

「………また断られた」

 でも、キスしてくれるってことは、嫌われてるとか怒ってるとかそういうわけじゃないんだよなあ……。

「気分じゃない……か」

 まあ、そういうこともあるだろうけど……
 あーあ。せっかく、生解禁なのになあ………

(………って、それが理由か?)

 今さらながらハッとする。そんな気がしてきた……。


 3月初めにに鈴木の一年契約の仕事が終わったため、前々からの話し合い通り、『期間限定子作り』を開始することになった。終了は8月の鈴木の誕生日。それまでに出来なかったら、諦める。それで意見は一致した。

 で、生でするようになったんだけど、これがメチャメチャ良くて……。今までは週1あるかないかくらいだったのに、ついつい連日のようにしたりして………
 そうこうしているうちに、鈴木の連れ子である陽太の春休みがはじまり、しばらくはできなくなった。

 春休み中、一回だけできたのは、3月28日。結婚一周年記念日の夜。
 前日にハワイ入りして、当日、家族だけで結婚式を挙げたのだ。それで、その日の夜は、親が気をきかせて、陽太を自分達の部屋に泊めてくれたので、有り難く頂戴できて………

 で、新学期が始まってすぐに、また手を伸ばしたんだけど……

「………ごめん、ちょっと………」

と、断られた。実は、桜井と話した日の前にも何回か断られていて、その後も断られ続け……

(……………。もしかして、子供欲しくなくなったってことなんじゃないか?)

 それを言い出せずに断り続けてる、と考えれば辻褄が合う。

 と、いうか、そうであってほしい。ただ単にオレとやりたくないって話だったら……………。どうしよう。

 最後にしたのは、3月28日。今日は、4月27日。

と、いうことは、一ヶ月たったということで………。

 セックスレスの定義は、『病気など特別な事情がないのに、1か月以上性交渉がないカップル』

 ……………。

 ……………。


 レス決定だーー!!



***


 どよーんとしたまま、翌日の土曜日を迎えたけれど、何とか持ち直して、陽太の野球の試合の付き添いにいった。でも、いつもは用がなければ一緒にくる鈴木は今日はいない。

(オレ、避けられてる……?)

 考えると心配になってくる。どうしても、思いの熱量はオレの方が大きいので、鈴木の負担になっているのではないか、と感じる時がある。

(やっぱり連日迫ったのがまずかったのかなあ……。やってる最中に「発情期のサルかっ」って言われたことあったもんなあ………)

 考えれば考えるほどドツボにはまっていく。結婚して一年。毎日楽しくやってきたつもりだったんだけどなあ………



「話があるんだけど……いい?」

 その日の夜、いつものようにリビングのソファでチビチビとビールの缶を舐めていたら、真剣な表情の鈴木に切り出された。陽太は朝からの試合で相当疲れたようで、早々に寝てしまったので、リビングは妙にシーンとしている。

「………おお。お前も飲む?」
「………」

 軽く首を振った鈴木。考えてみたら晩酌も全然付き合わなくなったよな、こいつ……。

(って、え? この真剣な顔って、子供欲しくない、どころか、別れたいとかって話じゃないよな……?)

 いや、それはない。それはない。先月結婚式したばっかりだし、それに、それに……。
 頭の中がぐるぐるなっている中、ちょこんと横に座った鈴木が、ポツリと言った。

「昨日、病院に行ってきたんだけどね」
「病院?」
「うん」
「…………」

 ……あ。

 途切れた言葉に不安が募る。

(そういやこいつ、最近、やけにトイレばっかりいってるよな。まさか、腸内系の病気……?)

 うわ、そっちか。そうか……

 この真剣な顔、そうとう悪いということだろうか。そんなことになったらオレどうすれば……。

 頭の中が再びぐるぐるぐるぐるぐるぐる……


と、そこへ、テーブルの上に、ぽん、と何かを置かれた。で、鈴木があっさりとした口調で言った。

「8週に入ったところだった」
「え?」

 8週?

「予定日は12月6日」

 予定日?

「え?」

 え?

「それ……っ」

 言いかけてテーブルの上に置かれたものを見る、と。

「母子健康手帳……」
「昨日病院の帰りに区役所も行ってきたの。本当は昨日の夜言おうと思ったんだけど、なんか疲れてるみたいだったから言いそびれちゃって」
「……………」

 うわ……うわ。うわ……

 頭の中がぐるぐるぐるぐる………

 母子手帳……ってことは。ってことは!!

「子供……できたんだ……」

 うわ………マジか………

「うん。こんなに早くできるとは思いもしなかったよ。陽太の時は相当苦労したからさ」
「…………」

 そうだよな……そんな話、再会したばかりの飲み会でしてたよなあ……。なんて思い出していたら、

「あ……ごめん」

 鈴木にハッとしたように謝られた。何が?と振り返ると、

「陽太の時の話は、聞きたくないよね……」

 気まずそうな鈴木にハテ?と首をかしげる。

「なんで? そんなことないぞ。むしろ聞きたい」
「でも」
「陽太のことは何でも知りたい。腹の中にいた時のことだって知りたい」

 そう本音をいうと、鈴木は、「……溝部」と、泣き笑いみたいな顔になった。そして、

「あんたのそういうところ、本当にすごいよね……」
と、ぎゅうっと抱きついてきた。

「………??」
 いつもながら、こいつの感動のツボはイマイチよく分からない。けど、まあ……、喜んでるみたいだからいっか。

 それにしても、子供………子供。実感わかねえ………

 鈴木の話によると、春休みが終わる直前から、妙にトイレが近くなったことが、妊娠に気が付いた理由だったそうだ。陽太の時もトイレがすごく近くなったらしい。トイレが心配だから野球の応援も行けなかったそうだ。その他は特に体調の悪いところは無い、らしい。

「ってことは、もしかしてこの写真の時には……」
「そうそう」

 リビングに飾ってある、ハワイで撮った、鈴木と陽太とオレの三人での写真……。これ、三人じゃなくて……

「この時にはもう、お腹の中にいたってことになるのよね」
「うわー……すげー……」

 家族4人の写真ってことかあ。すげー。すげー……

 感動していたら、

「……と、いうことで、ずっと断ってて………ごめん」
「え?! いや、そんなことは全然!」

 今さっきまでスッゲー悩んでたけどな!なんてことは言わない。

「溝部だけには言おうかとも思ったんだけど、ぬか喜びさせるのも悪いから、病院でちゃんと診断されてからって思ってさ」
「うんうんうん。そっかそっか」

 うわー……子供。子供かあ………

「で、まあ、高齢出産になるわけだし、色々大変になると思うんだけど……」
「おお。任せとけ。なんでもやるぞ? なんでも言え?」
「うん……ありがと」

 言いながらも、なんだか浮かない顔をしている鈴木……。手に触れると、きゅっと恋人繋ぎにしてきた。おお。これは珍しい……

「どうした?」
「あの……」

 鈴木は言いにくそうにうつむいた後、覚悟を決めたようにスイッと顔をあげた。

「無理したくないから出産までできないし、生まれてからもしばらくできないと思うの」
「何を?」
「だから……」
「………」
「………」

 繋いだ手に力をこめられ、そういうことか、と思い至って、握り返してやる。

「そこらへんは気にするな」
「でも」

 眉を寄せた鈴木。ああ………

(そういや、元旦那って浮気性だったんだっけな……)

 あの腐れイケメンと一緒にすんなっての。

「お前、独身生活42年満喫してきたオレ様なめんなよ。そんなんいくらでも自己処理するわ」
「でも」
「でもじゃねーって」

 命を宿してくれたお前に無理なんかさせるわけがない。

「そのかわり、オレの脳内でスッゲー恥ずかしい格好させてやるからな~」

 ふざけて言うと「バカ」と胸を小突かれた。それから、その小突いた手がスルリと腰に回されて、鈴木の綺麗な瞳が目の前に迫ってきた。

「………体調良いときなら、お手伝いくらいするよ?」
「………………え?」

 お手伝いって……………

「大丈夫なのか?」
「そのくらい大丈夫」
「マジで?」
「マジで」

 お?おお……うわ……うわ………

「………鈴木さん。ちなみに今の体調は………」
「んー、まあまあ」

 ちょっと笑った鈴木。

「まあまあ?」
「うん。まあまあ」
「……………」
「……………」

 フワッと触れてきた唇。これはOKってことで……

「………今からお願いしてもよろしいでしょうか?」
「……………」

 返事の代わりに、手を取られた。繋いだまま、鍵の閉まる鈴木の部屋に移動して、それから…………

(あ、そういや、今日、渋谷の誕生日だったな……)

 鈴木の部屋に飾られたカレンダーを見て思い出した。

(桜井………大丈夫だったかな)

 なんて、一瞬思ったけれど、

「………有希、愛してるよ」

 新しい命を宿した愛しい身体を抱きしめたら、そんなことスッカリ忘れてしまった。

 
***


 翌日の昼過ぎ。桜井からラインがきた。

『できた!ありがとう!』

 ……………。

 ……………。

 桜井君。そんなプライベートなこと、わざわざ報告しなくて結構ですよ?

「まあ………でも」

 良かったな。

『おめでとう』

と、返事をしておいた。あいつらも幸せな日曜日を過ごしていることだろう。



---


お読みくださりありがとうございました!
慶と浩介の高校時代の友人、溝部君視点でした。

溝部×鈴木夫妻……いまだ名字呼び。でもここぞというときだけ名前呼び^^

ちなみに、溝部君、桜井浩介が「受け」だと信じてますが、本当は渋谷慶が「受け」です。強気受け♥
美青年の慶君がそういう対象にみられることに耐えられなかった浩介が、以前みんなにウソをついたことが継続しています。
なので、上記でも溝部には言えてない話があったりします。

次回、後編。浩介君の『できた!』に至るまでのお話をお送りします。金曜日更新予定です。

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