(2018年8月21日に書いた記事ですが、カテゴリーで「2つの円の位置関係」のはじめに表示させるために2019年2月26日に投稿日を操作しました)
目次↓
1(享吾視点)
2(哲成視点)
3(享吾視点)
4(哲成視点)
5-1(享吾視点)
5-2(享吾視点)
6(哲成視点)
7(享吾視点)
8(哲成視点→享吾視点)
9(哲成視点→享吾視点)
10(享吾視点→哲成視点)
11(享吾視点)
12(哲成視点→享吾視点)
13-1(享吾視点)
13-2(哲成視点→享吾視点)
14(哲成視点→享吾視点)
15(哲成視点→享吾視点)
16(享吾視点→哲成視点)
17(享吾視点→哲成視点)
18(哲成視点)
19(享吾視点→哲成視点)
20(享吾視点)
21(哲成視点→暁生視点)
22(享吾視点)
23(哲成視点→享吾視点)
24(哲成視点→享吾視点)
25(享吾視点)
26(哲成視点)
27(享吾視点)
28(哲成視点)
29-1(哲成視点)
29-2(享吾視点)
30(哲成視点)
31(享吾視点)
32(哲成視点→享吾視点)
33(哲成視点→享吾視点)
34-1(享吾視点)
34-2(哲成視点)
35(享吾視点)
36-1(哲成視点)
36-2(享吾視点)
37-1(享吾視点→哲成視点)
37-2(享吾視点)
38(哲成視点)
39-1(享吾視点)
39-2・完(享吾視点)
人物紹介↓
主人公1・村上享吾(むらかみきょうご)
中学3年。身長175cm。バスケ部。
訳あって、目立たないようひっそりと生活してきたのに、中学3年で村上哲成と前後の席になり、学級委員をやらされるはめになる。
主人公2・村上哲成(むらかみてつなり)
中学3年。身長153cm。野球部。
訳あって、ひたすら明るいお調子者。色白、眼鏡。
亨吾に学級委員を押し付けたことには理由があって……
松浦暁生(まつうらあきお)
中学3年。身長180センチ。野球部。
エースで4番。容姿端麗。成績優秀。何でも出来る優等生。
哲成とは幼稚園時代からの友人。
西本ななえ(にしもとななえ)
中学3年。身長158cm。合唱部。
成績は常に学年1位の才女。毎年学級委員を務めている。
上岡武史(かみおかたけし)
中学3年。身長167cm。バスケ部。
渋谷慶とは犬猿の仲。でも試合中は「緑中ゴールデンコンビ」と呼ばれるくらい良いコンビ。
荻野夏希(おぎのなつき)
中学3年。身長156cm。バスケ部。
サバサバ系女子。少々強引でおせっかい。
渋谷慶(しぶやけい)
中学3年。身長155cm。バスケ部。
超美少年・運動神経抜群・頭も良い。学校のアイドル的存在(←でも本人気がついていない)。
明るく気さくで友達も多い。バスケ部関係者の間では「緑中の切り込み隊長」とあだ名されている。
(「風のゆくえには」シリーズ本編の主人公)
✳身長は春の身体測定の結果です。
あらすじ
訳あって、常に「真ん中」あたりにいることを心掛けて生活している村上享吾。
でも、中学3年生で同じクラスになった、同じ苗字の「村上哲成」に無理矢理、学級委員を押し付けられてしまう。哲成みたいな目立つ人間とは関わりたくないのに、なぜか何だかんだと絡んでこられて、行動を共にすることが多くなる。
そんな中、バスケ部の練習中に学校のアイドル・渋谷慶に怪我をさせてしまい……
物語は1989年4月からはじまります。平成元年です。携帯もない時代です。
亨吾達は1974年生まれ。団塊ジュニア世代です。1学年12クラスあります。
そんな時代の物語です。
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お読みくださりありがとうございました!
私(同じく1974年生まれ)が高校生の時に作った物語のリメイクになります。
メモによると、1992年9月にプロットをたてて、最後まで書きあげたらしい。でも、書いたノートはシュレッターしてしまったので、残ってません。
その後、1994年6月に彼らが大学生になった続編を書いてます。←これもシュレッターしちゃった。
そんな過去の遺跡を掘り返してみることにしました。
「風のゆくえには」シリーズらしく、何も特別な大事件も起こらない、平平凡凡な物語ですが、「友達の友達の友達の話」くらいのノリでお付き合いいただけたら幸いです。よろしくお願いいたします。
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「風のゆくえには」シリーズ目次 → こちら
***
帰り道、村上哲成はほとんど言葉を発しなかった。
いつも村上と登下校をしている松浦暁生は、クラスの奴らと学校に残ることになったため、せっかくオレが村上と一緒に帰れることになったのに……
(やっぱり、西本が何か言ったんだろうな……)
こういう風になるのが嫌だから、あえてあの話題には触れずにきたのに……
村上の家に着くと、お手伝いさんの田所さんが出迎えてくれた。相変わらずの無愛想で、一応、「卒業おめでとうございます」と、言ってくれた。そして、オレの分の昼食も用意するから、あと20分待つように言われた。
「じゃ、部屋で待ってようぜ?」
村上がなんだか緊張した顔のままで言ってきた。いつもと様子が違い過ぎて、こちらまで緊張してきてしまう。
今まで何度も村上の家には遊びにきているけれど、二階の村上の部屋に入ったことは数えるほどしかない。そのうちの一回は、クリスマスのお泊り会の時。
(あの時……)
布団の中で村上を後ろから抱きしめて、猛ったものを押しつけて……
(……ああ、ダメだダメだ)
そんなことを思い出したら、妙な気が起きてしまいそうだ。何とか記憶を押し込める。……と、
「キョーゴさあ……」
「……なんだ」
トン、と村上がベッドに腰かけたので、オレもその横に座る。ベッドが沈んだ反動で、ピトッと村上がくっついてきたことに、ドキンと心臓が跳ね上がる。
そんなこと知らない村上が、クルクルした目をこちらに向けてきた。
「さっき、西本に何言われてたんだ?」
「何って……」
先ほどのやり取りを思い出す。
『せっかく身を引いてあげたんだから、頑張ってよ?』
苦笑気味に言っていた西本。西本は中学三年間、村上に片想いをしていたらしい。でも結局告白はしていない。自分にまったく脈がないことが分かって、無駄に傷つかないために、あえて告白しなかった、と以前話していた。だから、さっき何を話していたかなんて、村上本人に言えるわけがない。
「高校いっても頑張って、とかそんな話」
「……ふーん」
誤魔化したのを見破るようにじっと見つめてくる村上……なんなんだ。
「なんだよ?」
「……そんな話するのに、内緒話するみたいに、顔くっつけて話す必要ないだろ」
「…………」
「…………」
「…………え」
村上……ふくれっ面だ。なんか……かわいい。
「……………何怒ってるんだよ?」
「別に怒ってない」
「怒ってるだろ」
「怒ってない!」
「え、わ」
いきなり、視界が反転した。首のところに抱きつかれた状態で、ベッドに押し倒されたのだ。
「何……」
「…………キョーゴ」
耳元で聞こえる村上の声……村上の温もり……
「別に怒ってないけど……なんか、ムカつく」
「…………」
「…………」
「………そうか」
右腕は村上の胸のあたりで押さえ付けられていて動かせないので、左手で、そっと頭を撫でてやる。愛おしい気持ちだけが、体中に満ちて、あふれ出していそうだ。
「キョーゴ……本当のこと教えてくれよ」
「なにが」
「本当は、西本に告白されたんじゃないのか?」
「…………されてない」
西本の好きな奴はお前だよ、なんて絶対に教えてやらない。
「ホントに?」
「本当」
「ホントに?」
「本当。……っていうか、告白されようがされなかろうが、関係ないだろ」
「……………」
ゆっくりと起き上がった村上。ジッとこちらを見下ろしながら、ポツン、と言った。
「関係……ある」
「…………」
オレは寝そべったまま、村上のクルクルした瞳を見上げる。
「関係あるって……どういうことだ?」
「どういうことって…………」
「………」
村上は再び寝っ転がると、オレの右腕に頭をのせて、横からピッタリとくっついてきた。腕枕、だ。
(……こっちの気も知らないで……)
若干腹が立ってくる。まずい現象が起きそうなのを、理性をかき集めて制御する。制御しつつも、欲求に勝てず、少し体を横にして、左腕を村上の背中に回し、やんわりと抱きしめる。……と、
「……d<r-r’」
「え?」
腕の中の村上がボソッと、公式を言った。d<r-r’……?
「2つの円の位置関係?」
「そう」
オレの背中に村上の腕が回ってくる。
「オレ……お前と一緒にいると、まあるくまあるく包まれてる気がするんだよ」
「…………」
dは二つの円の中心間の距離で、rは半径を表している。rの差よりもdが小さいといことは、一つの円が一つの円にすっぽりと包まれている状態ということだ。
「昔のオレ達は……d>r+r’」
二つの円は別々に存在している。昔のオレ達のdの値はすごく大きかった。
「でも、r-r’<d<r+r’ってなって……」
二つの円が交わる。
「今は、d<r-r’」
「……なるほど」
ぎゅっと抱きしめると、村上もぎゅっと抱きついてきた。オレの腕で包んでいる愛しい感触……
しばらくの沈黙の後、村上がポツリと言った。
「バレンタインの時に話してた、答えのことなんだけど」
「…………」
ギクリとしたオレの様子に気がついたように、村上はそっとオレの腕から抜け出て、そのクルクルした瞳で見下ろしてきた。
「オレさ……」
「うん」
「…………」
「…………」
しばらくの沈黙のあと、村上は大きくため息をついた。
「…………やっぱり、よく分かんねえんだよ。恋愛とか」
「…………」
「でも、今日、キョーゴが西本に内緒話されてるのみて、すげー腹立ったのは、やっぱり嫉妬……なのかなあと思うし」
「…………」
「そうなると、やっぱり、オレはキョーゴのこと好きなのかなあ?と思うんだけど、でも……」
「…………」
「…………キョーゴの答えは、どうなんだ?」
「…………」
オレもゆっくりと起き上がる。隣に座って、村上の眼鏡の奥の瞳をジッとみつめる。
「オレは……」
そっと、その柔らかい頬に触れる。
「オレは……」
覚悟を決めて、本心を伝える。
「お前のことが、好きだよ」
見開いたその瞳にそらさず、瞳を合わせる。
「誰にも取られたくない。お前のことが欲しい、と思う」
「キョーゴ、それ……」
「でも」
何か言いかけた言葉を遮って言い募る。
「でも、その感情を優先させて、お前に離れられるのは本末転倒なんだよ」
「え」
「お前が欲しいって思う感情よりも、お前と一緒に一緒にいたいって感情の方がずっと大きいから」
「…………」
「だから…………一緒にいてほしい」
本当に本当の思い。オレの望みはそれだけだ。
村上と、一緒にいたい。ずっと。ずっと……
沈黙が流れる……
(もしかして……嫌だとか思われてる……?)
あまりにも長い沈黙に、本心を言ったことを後悔しはじめていたところ……
「ご飯できましたよ」
鋭いノックの音とともに、田所さんの低い声がドアの外から聞こえてきて、二人してビクッと跳ね上がってしまった。
「は、はーい」
「ありがとうございますっ」
即座に答えたけれど、ドアの外の反応はない。おそらくこちらの返事なんか聞かずに、階下に戻っていったんだろう。
「び、びっくりした……」
「心臓止まるかと思った」
二人で顔を見合わせ、ぷっと吹き出してしまう。
「行こうか」
「そうだな」
ベッドから下りる。何事もなかったかのような村上の顔にホッとする。
これでギクシャクするのは本当に本末転倒だから。このまま、聞かなかったことにしてくれて全然かまわない。
胸をなでおろしながら、村上の後ろについて部屋から出ようとした。が、
「あ、キョーゴ、キョーゴ」
「なんだ?」
振り向いた村上に、なぜか手招きをされた。だから少し身をかがめたところ……
「え」
素早く、キスされた。
「え?」
キスされた?
え、なんだ今の。
「村上?」
呆然と見返すと、村上はニカッといつもの笑いを浮かべて、得意げに言った。
「d=r+r’」
「は?」
「だから、d=r+r’だよ!」
d=r+r’。二つの円の位置関係を表す方程式で、円がくっついて雪だるまみたいな状態になることを表す。
「うまいこと言ったオレ!」
村上はニコニコとしたまま、何でもないことのように、言葉を足した。
「オレも、ずっとキョーゴと一緒にいたい」
クルクルした瞳。
「だから、これからも、ずっとずっとよろしくな」
「………村上」
一緒に……
その言葉が、何よりも欲しかった言葉だ。
体中が温かくて嬉しくて、たまらない。
「村上……」
その柔らかい頬に手を当てて、もう一度、顔を寄せてやる。
「d=r+r’……」
「ん」
優しく触れる唇。
村上にとってこれが恋愛かどうかなんか関係ない。ただ一緒にいたいと思ってくれればそれでいい。
「d<r-r’」
ぎゅっと抱きしめる。
オレはずっと、お前と一緒にいる。
<完>
---
お読みくださりありがとうございました!
とりあえず中学生編は終了となります。
お付き合いくださいまして、本当に本当にありがとうございました!
4分遅刻っとりあえず更新します。
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帰り道、村上哲成はほとんど言葉を発しなかった。
いつも村上と登下校をしている松浦暁生は、クラスの奴らと学校に残ることになったため、せっかくオレが村上と一緒に帰れることになったのに……
(やっぱり、西本が何か言ったんだろうな……)
こういう風になるのが嫌だから、あえてあの話題には触れずにきたのに……
村上の家に着くと、お手伝いさんの田所さんが出迎えてくれた。相変わらずの無愛想で、一応、「卒業おめでとうございます」と、言ってくれた。そして、オレの分の昼食も用意するから、あと20分待つように言われた。
「じゃ、部屋で待ってようぜ?」
村上がなんだか緊張した顔のままで言ってきた。いつもと様子が違い過ぎて、こちらまで緊張してきてしまう。
今まで何度も村上の家には遊びにきているけれど、二階の村上の部屋に入ったことは数えるほどしかない。そのうちの一回は、クリスマスのお泊り会の時。
(あの時……)
布団の中で村上を後ろから抱きしめて、猛ったものを押しつけて……
(……ああ、ダメだダメだ)
そんなことを思い出したら、妙な気が起きてしまいそうだ。何とか記憶を押し込める。……と、
「キョーゴさあ……」
「……なんだ」
トン、と村上がベッドに腰かけたので、オレもその横に座る。ベッドが沈んだ反動で、ピトッと村上がくっついてきたことに、ドキンと心臓が跳ね上がる。
そんなこと知らない村上が、クルクルした目をこちらに向けてきた。
「さっき、西本に何言われてたんだ?」
「何って……」
先ほどのやり取りを思い出す。
『せっかく身を引いてあげたんだから、頑張ってよ?』
苦笑気味に言っていた西本。西本は中学三年間、村上に片想いをしていたらしい。でも結局告白はしていない。自分にまったく脈がないことが分かって、無駄に傷つかないために、あえて告白しなかった、と以前話していた。だから、さっき何を話していたかなんて、村上本人に言えるわけがない。
「高校いっても頑張って、とかそんな話」
「……ふーん」
誤魔化したのを見破るようにじっと見つめてくる村上……なんなんだ。
「なんだよ?」
「……そんな話するのに、内緒話するみたいに、顔くっつけて話す必要ないだろ」
「…………」
「…………」
「…………え」
村上……ふくれっ面だ。なんか……かわいい。
「……………何怒ってるんだよ?」
「別に怒ってない」
「怒ってるだろ」
「怒ってない!」
「え、わ」
いきなり、視界が反転した。首のところに抱きつかれた状態で、ベッドに押し倒されたのだ。
「何……」
「…………キョーゴ」
耳元で聞こえる村上の声……村上の温もり……
「別に怒ってないけど……なんか、ムカつく」
「…………」
「…………」
「………そうか」
右腕は村上の胸のあたりで押さえ付けられていて動かせないので、左手で、そっと頭を撫でてやる。愛おしい気持ちだけが、体中に満ちて、あふれ出していそうだ。
「キョーゴ……本当のこと教えてくれよ」
「なにが」
「本当は、西本に告白されたんじゃないのか?」
「…………されてない」
西本の好きな奴はお前だよ、なんて絶対に教えてやらない。
「ホントに?」
「本当」
「ホントに?」
「本当。……っていうか、告白されようがされなかろうが、関係ないだろ」
「……………」
ゆっくりと起き上がった村上。ジッとこちらを見下ろしながら、ポツン、と言った。
「関係……ある」
「…………」
オレは寝そべったまま、村上のクルクルした瞳を見上げる。
「関係あるって……どういうことだ?」
「どういうことって…………」
「………」
村上は再び寝っ転がると、オレの右腕に頭をのせて、横からピッタリとくっついてきた。腕枕、だ。
(……こっちの気も知らないで……)
若干腹が立ってくる。まずい現象が起きそうなのを、理性をかき集めて制御する。制御しつつも、欲求に勝てず、少し体を横にして、左腕を村上の背中に回し、やんわりと抱きしめる。……と、
「……d<r-r’」
「え?」
腕の中の村上がボソッと、公式を言った。d<r-r’……?
「2つの円の位置関係?」
「そう」
オレの背中に村上の腕が回ってくる。
「オレ……お前と一緒にいると、まあるくまあるく包まれてる気がするんだよ」
「…………」
dは二つの円の中心間の距離で、rは半径を表している。rの差よりもdが小さいといことは、一つの円が一つの円にすっぽりと包まれている状態ということだ。
「昔のオレ達は……d>r+r’」
二つの円は別々に存在している。昔のオレ達のdの値はすごく大きかった。
「でも、r-r’<d<r+r’ってなって……」
二つの円が交わる。
「今は、d<r-r’」
「……なるほど」
ぎゅっと抱きしめると、村上もぎゅっと抱きついてきた。オレの腕で包んでいる愛しい感触……
しばらくの沈黙の後、村上がポツリと言った。
「バレンタインの時に話してた、答えのことなんだけど」
「…………」
ギクリとしたオレの様子に気がついたように、村上はそっとオレの腕から抜け出て、そのクルクルした瞳で見下ろしてきた。
「オレさ……」
「うん」
「…………」
「…………」
しばらくの沈黙のあと、村上は大きくため息をついた。
「…………やっぱり、よく分かんねえんだよ。恋愛とか」
「…………」
「でも、今日、キョーゴが西本に内緒話されてるのみて、すげー腹立ったのは、やっぱり嫉妬……なのかなあと思うし」
「…………」
「そうなると、やっぱり、オレはキョーゴのこと好きなのかなあ?と思うんだけど、でも……」
「…………」
「…………キョーゴの答えは、どうなんだ?」
「…………」
オレもゆっくりと起き上がる。隣に座って、村上の眼鏡の奥の瞳をジッとみつめる。
「オレは……」
そっと、その柔らかい頬に触れる。
「オレは……」
覚悟を決めて、本心を伝える。
「お前のことが、好きだよ」
見開いたその瞳にそらさず、瞳を合わせる。
「誰にも取られたくない。お前のことが欲しい、と思う」
「キョーゴ、それ……」
「でも」
何か言いかけた言葉を遮って言い募る。
「でも、その感情を優先させて、お前に離れられるのは本末転倒なんだよ」
「え」
「お前が欲しいって思う感情よりも、お前と一緒に一緒にいたいって感情の方がずっと大きいから」
「…………」
「だから…………一緒にいてほしい」
本当に本当の思い。オレの望みはそれだけだ。
村上と、一緒にいたい。ずっと。ずっと……
沈黙が流れる……
(もしかして……嫌だとか思われてる……?)
あまりにも長い沈黙に、本心を言ったことを後悔しはじめていたところ……
「ご飯できましたよ」
鋭いノックの音とともに、田所さんの低い声がドアの外から聞こえてきて、二人してビクッと跳ね上がってしまった。
「は、はーい」
「ありがとうございますっ」
即座に答えたけれど、ドアの外の反応はない。おそらくこちらの返事なんか聞かずに、階下に戻っていったんだろう。
「び、びっくりした……」
「心臓止まるかと思った」
二人で顔を見合わせ、ぷっと吹き出してしまう。
「行こうか」
「そうだな」
ベッドから下りる。何事もなかったかのような村上の顔にホッとする。
これでギクシャクするのは本当に本末転倒だから。このまま、聞かなかったことにしてくれて全然かまわない。
胸をなでおろしながら、村上の後ろについて部屋から出ようとした。が、
「あ、キョーゴ、キョーゴ」
「なんだ?」
振り向いた村上に、なぜか手招きをされた。だから少し身をかがめたところ……
「え」
素早く、キスされた。
「え?」
キスされた?
え、なんだ今の。
「村上?」
呆然と見返すと、村上はニカッといつもの笑いを浮かべて、得意げに言った。
「d=r+r’」
「は?」
「だから、d=r+r’だよ!」
d=r+r’。二つの円の位置関係を表す方程式で、円がくっついて雪だるまみたいな状態になることを表す。
「うまいこと言ったオレ!」
村上はニコニコとしたまま、何でもないことのように、言葉を足した。
「オレも、ずっとキョーゴと一緒にいたい」
クルクルした瞳。
「だから、これからも、ずっとずっとよろしくな」
「………村上」
一緒に……
その言葉が、何よりも欲しかった言葉だ。
体中が温かくて嬉しくて、たまらない。
「村上……」
その柔らかい頬に手を当てて、もう一度、顔を寄せてやる。
「d=r+r’……」
「ん」
優しく触れる唇。
村上にとってこれが恋愛かどうかなんか関係ない。ただ一緒にいたいと思ってくれればそれでいい。
「d<r-r’」
ぎゅっと抱きしめる。
オレはずっと、お前と一緒にいる。
<完>
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