例によって、キャンプ場は山の中。この季節、テントを張ろうなんて馬鹿は他にいない。いないどころか、宿泊施設の利用者も一人もいない。おまけに管理人もオレの受け付けを済ませると、「まぁ、一人しかいないから、好きにやってよ」と言っていなくなった。
いやぁ、一人だ。もちろん、携帯は圏外。いやぁ、一人だ。
とにかく今日は疲れた。夜中の一時半に起きて、四時すぎに出て、午後四時半に到着。長い一日。疲れた。
そんなわけで、早く寝たわけなんだけどね。九時に寝たせいで三時に目が覚めてしまった。
タバコを吸いにテントから出て温度計を見てみる。
みなさん、聞いてくださいよ。ねぇ、聞いてくださいよ。忙しいからあとでね、なんて言わないで、今聞いてくださいよ。
0度。プラスマイナスゼロの零度。
これは寒いよ。予想以上に寒いよ。
だいたいからしてね、普通テントには夜露ってやつが付いてね、出入りする時に濡れたりするの。でも濡れないもんね。水滴のまま凍っちゃってるから。…まいったね。
ねぇ、これってあれじゃない?ほら、イヌイットの氷の家的なさ…だって、テントの壁に氷の雫がたくさん…
…で、タバコの煙を吐き出しながら空を仰いださ。
あったよ…満天の星空が。
寒ければ寒いほど星は輝く。…キレイだ。…すべてはバランスで出来ている。
零度の空の下でテントは張る経験ができるなんて…
神様から勲章を一個もらえたような…そんな気がした。
…すべてはバランスで出来ている。
南極越冬隊が観る星空や、吹雪が止んだあとに昇る太陽は…さぞキレイなんだろうな。
…すべてはバランスで出来ている。