北海道の話。
北海道上陸二日目。上ノ国の夷王山でキャンプをした。山道をガンガンと上っていくと、山の頂上付近に東京ドーム二個分はあろうかと思われる芝生の広場が現れる。
そんな広大なキャンプ場に先客は一組。広場の中央付近に大きなタープが張ってある。先客の夫婦への挨拶を軽く済ませてから、僕は例によって駐車場のそば・・・キャンプ場の隅っこにテントを張る。
山の天辺ということもあり、風が強い。ゴーゴーと音を立てて吹いている。飛ばされないように、ペグを打つ、テントと木を紐で結ぶ。そうこうしていると、背後からこんな声が・・・
「ジンギスカン、一緒にいかがですか?」
昨夜に引き続き、レトルトカレーで晩ご飯を済ますつもりでいた僕が、そんな素敵なオファーを断るはずもない。「きゃー、ジンギスカンよ、ジンギスカンよ、ジンギスカンが焼けてるわ!」てな感じだな。
その数十分後、僕は、札幌から来た夫婦が建てた立派なタープの下の椅子にちょこんと腰掛けていた。
その夫婦、実に「飲んべえ」なのである。ビールから焼酎からワイン等々、次々と飲み干していく。歳が近いせいもあり、色んな話で盛り上がる。
北海道遺産、ジンギスカンには二種類ある。事前にタレで味付けされたものと、焼いた後にタレにつけるもの。札幌や函館などで主流なのは後者。酒を飲まない僕は、札幌流ジンギスカンを食べまくる。
上陸二日目にして、郷土料理で宴会。これぞ旅・・・なのである。
そして、話の中でこんな言葉が出て来る。
「札幌に来たら、うちに泊まればいいよ」
普通はね、こういうのって社交辞令っていうの?さっき出会ったばかりの、どこの馬の骨かも分からない、おかしな風体の男に、ジンギスカンを御馳走してくれた上に、泊まりにおいでだなんて・・・。普通はね、「ありがとうございます、でもそんなにお世話になるわけにはいかないっす」的な、大人の交流っていうの?うん・・・普通はね。
『旅で重要なのは・・・いや、人生で一番大切なものは・・・「図々しさと茶目っ気である」by sing。』
そんなわけで、陽気な夫婦はしこたま酔っぱらい、やんちゃ坊主のフレンチブルドッグ、愛犬プー助を交えて、僕らは夷王山に吹き付ける冷たい風に凍えながらも夜更けまで、偶然の出逢いを祝いつつ、楽しい一夜を過ごしたのであった。