僕はミュージシャンであるからにして、唄を歌う。色々な場所で唄を歌う。
さて、今まで、一番多く歌った唄は何か?何回か?
そんなことは知らない。いやぁ、わからないなぁ。数えてないし。記録をつけてないし。
まったく定かではないが、僕が思うに、それは「三日月の夜」ではないか。ほぼハンドレッドパーセント、三日月の夜だと思う。
もう十何年も前のこと。
孤高の天才ギターリスト「ジンセイ」とTrash Box Jamを結成した。マコ先生も加えて、3人組。Trash Box Jamの初期メンバーである。
ある時、ジンセイが言った。
「シングさん、路上に出ましょう」
路上かぁ・・・いいねぇ。
でもなぁ・・・曲がない。
曲はある。山ほどもある。バカみたいにある。
でも、路上に向いている曲が・・・ない。
無いのならば、作る。
よし、作ろう。
さぁ、作ろう。
窓の外に浮かぶ三日月を見上げながら、一夜にして出来上がったのが「三日月の夜」である。
路上にて、名刺がわりの一曲である。
三日月の夜は人気があった。路上にて、誰もかれもが三日月の夜を聴きたがった。何度も何度も聴きたがった。
来る人来る人がみんな三日月の夜をリクエストするものだから、一日に何十回も三日月の夜を歌った。バカみたいに歌った。
Trash Box Jamのメンバー「シュウ」。
ある日、シュウが言った。
「シングはすごいな」
何が?
「よくもあんなに三日月の夜を歌えるな。飽きないのか?」
そう言われればそうだ。毎日毎日、三日月の夜ばかり歌っている。
僕は答えた。
「全然飽きない。楽しい。だって、みんなが幸せそうに聴いてくれるんだもん」
多分、10000回くらいは歌ったのかもしれない。
一番多く歌ったのが三日月の夜ならば、一番多くの人が聴いてくれたのも三日月の夜だ。
一度だけ、三日月の夜のモチーフの女の子が路上に来たことがある。
「何が聴きたい?」と聞くと、その子は「三日月の夜」と答えた。
その子が帰った後、別の女の子が近づいて来て僕に言った。
「ねぇシング、あの子、三日月の夜でしょ?ねぇ?そうでしょ?」
女の人ってのは、凄いと思う。
女の人ってのは、みんなエスパーなのかい?
そんなライブの一曲目。「三日月の夜」。へへへ。