今年のF1レースは開幕早々から乱戦の様相を呈しています。第1戦のオーストラリアGPではセーフティカー先導フィニシュ。マレーシアGPでは豪雨のため31周目終了時点での赤旗中断のままフィニッシュ。上海GPでは強雨の中、セーフティカー先導スタート。4戦目、アジア最終のバーレーンGPでは悪天候にこそなりませんでしたが、TOYOTAのヤルノ・トゥルーリがポールポジション、ティモ・グロックがセカンドローを取ってのスタートなど、開幕からの4レースとも昨年までのチャンピオンドライバーが駆る名門チームが後塵を浴びる結果となっています。過去でもそうでしたが、レギュレーション(regulation:規制)の変更が大きく影響しているのではないでしょうか。
F1のレギュレーションは毎年変更され、ファンにとってはレースの面白さが増したり、半減したりする要因の一つになっています。2009年は大幅に変更されています。
中でも ①スリックタイヤの復活
②KERS(カーズ)導入の認可
③ダウンフォースの大幅な低減
の3点の影響が大きいと思われます。取り分け、装備するかしないかはチームの任意とされた新たな装置であるKERSの導入ではないでしょうか。
KERS(Kinetic Energy Recovery System:運動エネルギー回生システム)とは、これまで熱として放出されていた減速時のエネルギーを回収し、機械的または電気的エネルギーとして貯蔵し再利用するシステムです。ひとことで言えば化石燃料の使用を増さずに、マシン自体が排出するエネルギーを利用してエンジンの加速力を増加させるアシスト装置です。
方式は2通りあり、電気式は、ブレーキング時の運動エネルギーでモーター/ジェネレーターを回すことによりバッテリーに電気を蓄え、ブーストボタンを操作することでホイールの駆動力として放出する(モーターを回す)。一方、機械式は、ブレーキング時のホイールの回転と装置のフライホイール(弾み車)の回転をCVT(continuously variable transmission:無段変速機)が調整することによって、エネルギー回生と出力(ブーストボタンを操作)が行われます。
2009年のF1レギュレーションでは、KERSの対象となるのはリアブレーキのみとされています。
KERSは、およそ35kgの重量があり、それを車両後方の決して理想的とはいえない場所に配置しなければなりません。ダウンフォースが大幅に低減される中、マシン前方にバラストを配置することで、最低重量制限を保ちつつ理想的な重量配分を行わなければなりませんが、KERSを搭載することで前後バランスはリア寄りに傾くことになります。
また、KERSの最大出力は60kW、一周あたり発揮できるエネルギーは最大で400kJと定められています。これを馬力・時間換算すると81.6馬力のパワーアシストを一周につき6.67秒間使えることになります。
『スタートラインを通過して、再度スタートラインに到達するまでを一周とする』という解釈があるので、例えばKERSが800kJのエネルギーを貯蔵でき、(1) 最終コーナー立ち上がりでKERSをON、(2) スタートライン直前でOFF、(3) スタートラインを通過直後に再びON、(4) 第1コーナー手前でOFFする、つまり2周分をホームストレートで使用することで、観客の目の前で最速の走りを披露することができる使い方もあります。
KERSには加速性能をアップするメリットがありますが、一方で操作を誤ると推進惰性力が高まっていることから、マシンが思いもかけない動きをするデメリットがあります。