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薮原検校

2007年05月12日 20時00分00秒 | 観劇

渋谷・シアターコクーンで、古田新太三主演の舞台『薮原検校』観てきました。
何の予備知識も持たぬまま観に行ってしまいましたが、薮原検校は1973年の初演以来国内だけでなく海外でも公演された井上ひさし氏作の戯曲です。
稀代の大悪党 薮原検校を古田新太さんが演じると言うことで、是非観てみたいということでチケットを取っていました。

8日が初日のため、内容的にはほどほどのところまでで。
舞台は、同じ蜷川幸雄氏が演出をした『ひばり』の舞台を思い出させるような舞台セット。
スモークが劇場内を漂い、光が効果的に使われることを予測させます。
上手と下手の2ヶ所に設置された、字幕装置。

芝居が始まると、照明が落ち暗闇の中に三味線の音だけが響き渡ります。
先日の写楽考のオープニングを、思い出します。
主人公を初めとして、盲目の役を演じる役者が多いこともあり、舞台上に貼られた縄が様々な設定を表しています。建物や道、川、橋などを表現しています。
オールキャストが登場し、下駄で床を踏みならし、杖を突いてリズムを取り、歌い上げることから始まります。
字幕装置には、歌われている歌詞が表示されていきます。
語り部となる盲太夫を壌 晴彦さんが演じ、譲さんの語りとともに芝居が進んでいきます。

主役杉の市は父親の悪行が引き継がれたのか、子供の頃から手癖が悪く、田中裕子演じる師匠の女房お市にまで手を出してしまう始末。
この後、あることをきっかけに人殺しを重ねていく杉の市は、母親をも殺してしまうことに。更にお市と共謀し師匠を殺してしまうが、師匠の返り討ちでお市までも・・・。
孤独な身となった杉の市は江戸に出て、塙 保己一を訪ね門下生になることを申し出るが、悪事を重ねている杉の市と学者としても生き方としても品性を高めていきたいと考える保己一とは相容れるものはなく、申し出は受け入れられない。
唯一、盲人として上り詰められる最高位の検校となることでは、互いに同じ目的であることを認識する2人。
杉の市は、薮原検校の弟子となり、貸し金の取り立てと言う仕事を任せされる。
杉の市に取っては、貸した金を取り立てることなど容易なこと。
取り立てで実績を作り、着実にポジションを上げ、やがて2度目の師匠殺しを行い、2代目薮原検校に。
襲名を目前にして、現れたのは死んだはずの人間が現れ・・・。
とらわれの身となる杉の市=薮原検校の罪を処するにあたり、処罰を相談された人間は他でもない塙 保己一。
保己一は、しばし黙り込み、友を失うことが辛いと行った後、恐るべき処罰方を口にし、ラストは凄絶なシーンが。

芝居全体としては笑えるシーンが多く、稀代の大悪党による人殺しや女性を襲うシーンに重さはあまり感じられません。
ただ、よくもこれほど罪を重ねていけるものという感はいなめませんが。
杉の市を演ずる古田新太さんも、血まみれになって人を殺していくような冷酷な人間を演じているわけではなく、子悪党的な人間の心を出していて、表情の変化が面白いです。
途中に演じた早物語は、観ているうちに惹きつけられ、観客からも拍手が送られていました。
田中裕子さんの演じるお市も、迫力があります。
杉の市との再会を果たしてからは、悲しさと憎しみを込め、杉の市を精神的に追い込んでいく様は、四谷怪談を連想してしまいました。
塙 保己一を演じていた団田安則さんも魅力的ですね、人として品格を高めていくことを目指していながら、こころのどこかでは杉の市に憧れているのではないかとも思わせるところは、良いですね。
他にも六平直政さんを初めとする役者さん達が、良い舞台を演じています。
休憩を含めて3時間10分の舞台は、あっと言う間でした。
芝居を通しての演奏は、赤崎郁洋さんのギター1本のみ。
宇崎竜童さんの『薮原検校のテーマ』は芝居の中で2度歌われますが、未だに頭の中で響いています。♪
この歌詞では、薮原検校は殺し屋なんですが・・・。
カーテンコールでは、古田さんは引き上げる度に、セットに頭をぶつける仕草を繰り返していました。
当初のイメージとはだいぶ違うものでしたが、楽しめる芝居でした。