昭和の歴史三部作の2作品目となる、異国の丘を観てきました。
李香蘭を観た時、戦争シーンの凄絶なシーンに2作品目を観るのは控えようかとも思っていました。
表現の差異はあれど、過去におきた事実を含むもの。
目を背けるのもどうかという思いもあり、再び秋劇場へ足を運びました。
今回の作品はシベリアに抑留され熾烈な環境のなか、命を落としていった九重秀隆のを描いています。
しかし、日本と中国の間の感情がベースにある点が、李香蘭と共通しています。
若き秀隆が留学先で宋 愛玲との出会いのシーンは、ともするとウエストサイド物語のトニーとマリアのシーンを思い出させます。
バンドの演奏が入り、エネルギッシュなダンスの中、政略的とはいえ出会ってしまう2人。
しかも、民族的に感情的な位置付けにある日本と中国を祖国とする2人。
2度と会うことはないと言いながらも、心は離れることができない2人。
そんな2人を時代は翻弄し、悲しい結末へと流れていきます。
自由の国アメリカでの留学時代、切れのあるダンスを見せる荒川さん。
歌声がちょっとだけ私の好みではないものの、名家の御曹司でありながらグローバルなものの見方もできる青年を好演していました。
花代さんも澄んだ歌声を響かせ、思わず聴き入ってしまいました。
マリアの時の初々しさとは違った、中国高官令嬢としての落ち着きを持った美しさを感じさせてくれます。
時代が違っていたら幸福な未来が待っていたかも知れないというのは、どちらにも共通のポイントですね。
2人が上海と東京、それぞれの国へ帰国するとき、船上で互いの気持ちを歌い上げるシーンは、切なさを感じます。
回想シーンが終わると、シベリアの厳しい日常が描かれます。
氷点下40度での環境で、飢えと寒さと過酷な労働を強いられることを、私たちはどれほどの思いで想像できるものか。
冬山で遭難をし、生死の境を彷徨う状況以下だったのではないかと思えてきます。
再び回想のシーンで、秀隆と愛玲との和平工作。
無事終わるかとの思いを打ち破ったのも、民族間の憎しみが引き起こしたことが遣り場のない悲しみを募らせます。
日本人に憎しみをぶつける劉玄を演じている青山さんも演技も、とても印象的でした。
シベリアでの抑留生活の中、維田さん演じる平井の遺言を皆が復唱しならがら歌い上げるシーンは、泣けてきました。
ふと気付けば、周囲からも啜り泣きが聞こえてきました。
ラスト、日本に帰れるという日に、日本人としての誇りを重んじソ連の提案を拒み命を絶たれり秀隆。
対照的に学生時代の友でありながら、生きるためにソ連の命を受け入れた吉田の最期。
秀隆に署名を懇願した、ナターシャ。
それぞれの思いが、心の中に深く響いてきます。
千秋楽となったためか、カーテンコールはとても熱い拍手で始まりました。
何度も拍手に答える役者の皆さんの笑顔が爽やかだったのが、現代の平和を強く感じさせてくれるような気がしました。
荒川さんが花代さんをエスコートしながら下手に捌けて長いカテコは終了と思ったとき、2階席から「もう一度アンコールをしましょう!」という男性の声が。
客席は再び盛り上がり、再び幕が上がり役者の方々が客席に応えました。
最後はまた荒川さんが花代さんと2人で客席に応え、手を振りながら捌けていき、1人振り返った荒川さんの敬礼で長いカテコが終了しました。
李香蘭以上に泣かされたシーンが多かったものの、観て良かった作品でした。
再来週からは、三部作最期の南十字星が始まります。
この作品も、泣かされることになるのでしょうか?
今回の作品の遺言に関連しているのか、会員向けに特製スタンドペンのプレゼントがありました。
李香蘭観劇の時に受け取りを忘れてしまった「昭和の歴史三部作」観劇キャンペーンのカードも、無事発行してもらうことができ一安心です。
これで次回、南十字星初日に忘れずに持って行けば、プログラム引換券ゲットとなります。
それにしても、最近の四季はノベルティが多いですね。
四季劇場[秋] | 2008.6.30 千秋楽 |
九重秀隆 | 荒川 務 |
宋愛玲 | 木村花代 |
吉田 | 中嶋 徹 |
神田 | 深水彰彦 |
西沢 | 深見正博 |
大森 | 田中廣臣 |
杉浦 | 香川大輔 |
平井 | 維田修二 |
宋美齢 | 中野今日子 |
李花蓮 | 岡本結花 |
劉玄 | 青山祐士 |
宋子明 | 山口嘉三 |
蒋賢忠 | 中村 伝 |
九重菊麿 | 武見龍磨 |
アグネス・フォーゲル夫人 | 武 木綿子 |
クリストファー・ワトソン | 志村 要 |
メイ総領事 | 高林幸兵 |
ナターシャ | 西田有希(劇団俳優座) |
【男性アンサンブル】 | 井上隆司 |
平田郁夫 | |
武藤 寛 | |
川原信弘 | |
中村 巌 | |
村澤智弘 | |
奈良坂 潤紀 | |
田島康成(劇団昴) | |
高草量平(劇団昴) | |
北山雄一郎 | |
松本和宜 | |
【女性アンサンブル】 | 西田桃子 |
大橋里砂 | |
須田綾乃 | |
長島 祥 | |
駅田郁美 | |
宮尾有香 | |
コンダクター | 今西正和 |