CareNeTVでの岡先生のCOVID-19特講を繰り返して視聴した。これまでのプラチナレクチャー同様に歯切れのよい講義でわかりやすい。岡先生の病院は指定病院ではないので、鑑別のコンサルトをされているそうだ。さらに繰り返して視聴する予定。
CareNeTV
Dr.岡のプラチナレクチャーCOVID-19特講
ガードを固めて、正しく恐れる
そして、いつもの風邪・肺炎診療の応用だ
2020年3月現在 新型コロナウイルス感染症は指定感染症となっている
指定感染症
(感染症法第6条)
既に知られている感染性の疾病(1類、2類、3類および新型インフルエンザを除く)であって、感染症法上の規定の全部または一部を準用しなければ、当該疾病の蔓延により国民の生命及び健康に重大な影響を与える恐れがあるものとして政令で定めるもの
指定感染症になると
メリット
・法的な拘束力
・指定医療機関での診療
・医療費の公的負担
・流行状況の把握が容易
デメリット
・指定医療機関の負担
・患者プライバシー
新型コロナウイルス2019(COVID-19)
<特徴>
・コロナウイルスには感冒の原因になる4種類に加え、SARS、MERSが知られていた
・新しく見つかった王冠を意味する7つ目のコロナウイルスである
・ACE2レセプラー(肺)を介して感染する
新型コロナウイルス名称
病名:COVID-19
COrona VIrus Disease 2019
原因ウイルスはSARS-CoV2
2019年末
中国武漢を発端に中国各地、日本、韓国、イタリア、イランなど各地に感染拡大し欧州・米国でも流行(2020年3月現在)
WHOもパンデミックと認定している
・感染様式は接触飛沫感染により人から人へ感染する
・8割の感染者は他者への感染を起こさず、一部の患者が感染を拡大させているようである
・その要因として、クルーズ船、屋形船、ライブハウスなどの集団感染の事例から閉鎖空間のクラスター感染が懸念されている
・潜伏期間は2-7日、平均4日
11.5日97.5%で発症
最大14日を見積もる
・基本再生産数は1.3-2.5
(麻疹は12-18、SARSは3、インフルエンザが1-2)
・2次感染は濃厚接触者の
中国の報告で1~5%、米国の報告で0.45%
<臨床像>
・無症状~感冒症状~重症肺炎と幅広い
・80%は軽症にとどまる
・およそ半数で肺炎
・14%で重症化
・5%で集中治療を要するショック、呼吸不全、多臓器不全(心筋炎?、半数は死亡)
※日本におけるクルーズ船の感染では17%でウイルスが陽性であったが、半数で診断時は無症状
・集中治療を要する症例では死亡率は5割
・平均的な死亡率は0.7~高くて2%
・ただし80歳以上の高齢者では15%程度の死亡率と高い
・死亡者の多くが高齢者、心疾患や糖尿病を有している
・小児の発症者や重症者は少ない
・10名の小児患者の経過では発症しても24時以内に解熱し呼吸不全はなし
・妊婦での重症化や先天性感染のリスクは今のところ確認されておらず、羊水、新生児からのウイルス検出なし
・臨床症状は初期には4割ほどしか発熱しないことも多いものの、肺炎があれば経過の中で9割に発熱あり
・咳81%、息切れ31%と呼吸器症状が主体
-加えて、筋肉痛や倦怠感
-喀痰は27%と目立たない
-鼻汁や消化器症状はまれであるが、少数ではみられる
初期には感冒と区別がつかないだろう
接触歴がない場合には経過が感冒より長いことで疑うしかない
重症化のパターン
・発症から7日くらいの経過で症状が増悪し、数日のうちにARDSになる
・肺炎の回復には2週間程度、重症なら3~6週間要する
厚生労働省
新型コロナウイルス感染症診療の手引きより
風邪症状が3~4日までは、通常の風邪・インフルエンザと鑑別がつかない。(風邪、インフルエンザはここで軽快する)。
この時期は肺炎、尿路感染症など通常の感染症との鑑別を要する。
7日~10日で治まらなければ、新型コロナウイルス感染を考える。
他の肺炎との鑑別を要する
<検査所見>
・WBCは90%、正常から低下
-リンパ球数が35%で低下
-初期からWBC上昇しているとらしくない
・CRPは多くは上昇し5程度上がる
-あまり高いとらしくないかもしれない
・プロカルシトニンは6%でしか上昇しないたまめ、除外診断に有用な可能性
・WBC24%で低下、9%で上昇
・リンパ球は35%で低下
・LDHが76%で上昇
・軽度の鑑賞ギア35%
・腎障害13%
・CRP平均5g/dlと上昇 86%で上昇
・RCT6%で上昇
他のウイルス性肺炎、間質性肺炎と鑑別困難!
(Lancet Jan 29,2020)
・肝障害は35% 腎障害は初期にはまれ
・LDHはたいてい上昇
Dダイマー上昇、WBC上昇、リンパ球減少とともに重症化のマーカーになりうる
<診断>
胸部X線
・初期には異常を捉えにくい
-胸部X線異常は発症から10日ほどが最も顕著と遅れる
-肺炎の疑いが残ればしっかりした感染予防のもとで胸部CTを検討する
(初期に肺炎像がなくても否定できない)
胸部CT
・症状が顕在化する前やPCR陰性でも病変が検出されることがある
・初期の胸部CTの典型像は下葉優位に胸膜直下がスペアされない両側すりガラス陰影や斑状陰影
・重症例では発症10日ほどが最も悪く見える
・胸水、リンパ腫脹、胸膜肥厚はまれな所見
・ただし画像診断は初期には片側であったり、進行するとARDSになり非特異的
・画像だけで判断しない
・PCR陽性例での感度97%と除外に有用な可能性
・ただし特異度は25%と低い
ゆえに他のウイルス性肺炎、ニューモシスチス肺炎、他の間質性肺炎との鑑別を要する
実臨床では・・・・
・渡航歴、暴露歴のある患者
-インフルエンザ肺炎やマイコプラズマなどの非定型肺炎をまず鑑別
・経験的な治療が奏効しない肺炎
・原因不明の重症肺炎
-鼻咽頭や気道分泌物のPCR検査を行うのが現実的
・咽頭よりも鼻咽頭の方がウイルスぅが多い
-PCRは鼻咽頭スワブまたは喀痰をエアロゾル対策のもとで採取
・気道検体が取れない場合には便や尿も検体になる
・検出率はBALが最も優れ下気道>上気道=便
・尿は低い
PCR検査について
・疫学調査の目的を除き、本感染症が蔓延した場合に無症状はもちん、軽症者のウイルスPCR検査は行うべきではない
・ウイルスPCRの診断制度はそれほど高くないと考えられており、検査陰性で本疾患を否定できないばかりか陽性で確定しても有用な治療法は確立していない
・PCR検査陰性により
・感染防御がおろそかになるリスク
・検査をすることでかえって感染が拡大するリスク
・患者集中による医療施設の疲弊
・一定数に生じるであろう偽陽性による混乱
・検査コストの問題
などデメリットが大きい
・実際に明らかなウイルス肺炎像を呈しても、初期のPCRは陰性でも、のちにPCRが陽性となりうる
・重症例で疑いが強ければ、PCR検査は繰り返してもよい
-気道検体を複数箇所採取してもよい
-1回では51%しか陽性にならず
-3回目で11%陽性になる
PCR検査 必ずしも陽性にならない
検査陽性=COVID-19確定
検査陰性=疑い
(他疾患がなければ疑いは残る。他疾患との併発もある。)
診断するには?
・発熱83%
・咳81%
・息切れ31%
・筋肉痛11%
今までは、
・渡航歴
・流行状況
・接触暴露歴
を確認して診断できた
インフルエンザや市中肺炎と鑑別困難
さらに、病歴もあてにならなくなる
疑い患者の要件と検査の流れ
・発熱(37.5℃以上)または呼吸器症状 かつ 暴露歴(新型コロナウイルス感染症であることが確定した者と濃厚接触歴がある
・発熱(37.5℃以上)かつ呼吸器症状 かつ 暴露歴(発症から2週間以内に、流行地域に渡航または居住していた又は流行地域の渡航又は居住していた者と濃厚接触歴がある)
・発熱(37.5℃以上)かつ呼吸器症状 かつ 入院を要する肺炎が疑われる
・医師が総合的に判断した結果、新型コルナウイルス感染症を疑う
↓
・季節性インフルエンザ検査
・その他の一般的な呼吸器感染症の病原体の検査
↓(陰性)
PCR検査の実施について保健所へ相談
ガードを固めて、正しく恐れる
そして、いつもの風邪、肺炎診療の応用だ
肺炎?気管支炎?
身体所見のどこに注目する?
・最も師d何に有用なのは呼吸数
(高齢者では呼吸数>24は特に有用)
・体温<37.8℃、心拍数<100/分、呼吸数<30/分
・肺炎の確率はかなり低下(陰性尤度比0.18)
・ヤギ音が肺炎に特異的
・呼吸音減弱や呼吸音の左右差も重要な所見
・Cracklesが聴取できない肺炎が半分以上
Heckeling scoe
・体温37.8℃以上
・心拍数100/分以上
・Crackeがある
・呼吸音低下がある
・喘息がない
合計0-1だと肺炎の可能性は1%以下
肺炎? 気管支炎?
・バイタル異常
・胸部聴診異常
・免疫不全
いずれもなければ気管支炎
どれかあれば肺炎疑い
市中肺炎の原因微生物
細菌性肺炎
Streptococcus pneumoniae
Haemophilus influenzae
Moraxella catarrhalis
非定型肺炎
Mycoplasma pneumoniae
Chlamidia pneumoniae
Legionella pneumophila
肺炎球菌は常に考慮
緑膿菌、黄色ブドウ球菌はまれ!
どんな肺炎? 非定型、定型
1.年齢60歳未満
2.基礎疾患がない、あるいは軽微
3.頑固な咳がある
4.胸部聴診上所見が乏しい
5.痰がない、あるいは迅速診断法で原因菌が証明されない
6.末梢血白血球数が10000/μL未満
4項目以上合致した場合、非定型肺炎(感度77.9%、特異度91.0%)
市中肺炎 外来経験治療
・明らかな非定型肺炎
アジスロマイシン500mg1日1回
ビブラマイシン100mg1日2回
・通常の肺炎
アモキシシリン500mg1日3回
レスピラトリーキノロンは極力使用しない
市中肺炎経験治療 入院
中等症
・セフトリアキソン2g24時間ごと
重症
・セフトリアキソン2g24時間ごと
+
アジスロマイシン500mgまたは
レボフロキサシン500mg24時間ごと
(+抗インフルエンザ薬も考慮)
市中肺炎効果判定
原則72時間後に行う
よくなる順番(重要!)
1.循環(血圧、脈拍)
2.呼吸(呼吸数、SpO2)
3.体温
ここがピットフォール!
・画像所見は最も遅れる
・2週間でも半数は陰影が残る!高齢者は12週間も!
・重症例、複数肺病変、既存の肺疾患、高齢者では反応が遅い
ルーチンな72時間後のX線の再検は必要ない
市中肺炎 治療期間
最低5日間 解熱後2~3日
・バイタル安定化、食事が取れれば経口抗菌薬に切り替え可能
・抗菌薬投与期間中央値
5日間と10日間で効果に差はなし
・重症例、腸内細菌や緑膿菌、黄色ブドウ球菌ではエビデンス不足
・黄色ブドウ球菌、肺膿瘍、膿胸などでは長期治療
正しく恐れる・正しく備える①
これからは渡航歴や暴露歴によらず
・なかなか良くならない風邪
・抗菌薬が効かない肺炎
・原因不明の間質性肺炎
これらで疑い
隔離予防策を検査結果によらず、継続!
感染症専門医や呼吸器専門医へコンサルトを
PCR陰性でもガードを下ろさない
(繰り返して検査も考慮)
<治療>
・確立した有効な治療はない
・試験管内の効果からロピナビル・リトナビル(カトレラ)、ファビピラビル(アビガン)、レムデシビルRemdesivir、クロロキン、トシリズマブが期待されている
・吸入ステロイドの1つシクレソニド
-抗ウイルス活性があり期待されている
-他の吸入ステロイドにはその効果はない
・ステロイドの全身投与
-効果が乏しいばかりか、MERSにおいてウイルスの排出が遷延したことも踏まえ推奨されない
・診断未確定の軽症者の場合には可能な限り自宅静養、経過観察とする
・対症療法はイブプロフェン(などのNSAIDs)を避けてアセトアミノフェンの処方が無難かもしれない
・マイコプラズマ、細菌性肺炎、ニューモシスチス肺炎のように有効な治療の確立している疾患を見逃さない
・軽症の肺炎は極力入院させず、可能な限り外来治療を行う方がよい
・原因不明の肺炎は初期から接触飛沫予防策のもとでインフルエンザや市中肺炎として経験的治療を開始しつつ
↓
・ウイルスPCRを待ち、結果が陽性となり、病状が進行し重症化するようであれば、シクレゾニド、ロピナビル・リトナビル、ファビピラビルの投与を検討することになる(倫理委員会の承認を得て)
-シクレソニド200µg1日2回1回2吸入
14日間 あるいは
-ロピナビル・リトナビル2錠1日2回14日間
※薬剤相互作用に注意、HIV検査陰性を確認
いずれの場合も適応外使用である
ロピアビル・リトナビルの重症肺炎に対するRCTは生命予後の改善は証明できず、ウイルス量の減少も差はないが、1日ほど改善が早い
消化器症状(リトナビル)による中断が多かった
残念ながら・・・エイズの薬は劇的には効かなそう(多少差はある?。すべて重症例での結果。)
治療は?
?ロピナビル・リトナビル
?Remdesivir(エボラ治療薬)
✕?ステロイド
?クロロキン(マラリア治療薬)
?ファビピラビル(新型インフルエンザ治療薬)
現時点で効果が証明されたものはない
基本は支持療法
・現時点では確定例の治療は指定医療機関にて原則行われる
・2次細菌感染は10%程度
・重症化の際には院内肺炎に準じて抗菌薬投与を検討する
<予防>
詳しくはCDC Webサイトを!
感染しないためには
・病気の人と接触しない
・不潔な手で眼、鼻、口を触らない
・アルコールや流水で手洗い
・若年既往のない患者の死亡率は低い
・高齢者や既往のある患者の死亡率が高いことから、医療関連の感染の懸念が大きい
・接触、飛沫感染予防策を行う
→流水またはアルコールの手指衛生、顔を極力触らない、咳エチケットが大切
・市中において無症状者のマスク着用は感染予防のエビデンスに乏しく、不要なコストと必要時の供給不足を招くなめCDCは推奨していない
・症状がある患者とそのケアをするものはサージカルマスクを着用
・採痰、気管内挿管、NPPV、気管支鏡実施、CPRなどエアロゾル発生の恐れがある場合にはN95マスク、フェイスシールドを着用
・ただし物品が十分でない場合にはN95マスクは必須ではなくサージカルマスクで代用可(CDC)
・確定、疑い患者の入院加療の際
-可能であれば陰圧個室
-難しい場合には個室隔離
-適切なPPEの着用(手袋、ガウン、マスク、フェイスシールド)とアルコール手指衛生を行う
-医療器具は専用とし、高度接触面の定期消毒を行う
・濃厚接触者
-PCR結果によらず14日間の健康観察
・発症者
-隔離予防の解除は臨床症状の消失と2回の気道検体のPCR陰性が目安
-軽快後、48時間後のPCR
-さらに12時間後のPCR陰性で退院
-感染管理の責任者と相談のこと
院内感染を回避せよ!
・えっ!新型コロナだったの!?
・うち指定病院じゃないのに?!
・渡航歴あるなら受診拒否?
すべての気道感染(下痢も)に対して接触飛沫感染予防策を
正しく恐れる・正しく備える②
・手指衛生
・経路別予防策の実施
・調子が悪いなら、上司に速やかに相談
今のうちに、復習、見直し、対策を
ガードを固めて、正しく恐れる
そして、いつもの風邪、肺炎診療の応用だ