HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

潰れる前にできること。

2016-04-27 07:45:53 | Weblog
 帝国データバンクから2015年度のアパレル関連企業の倒産件数が発表された。それによると、倒産は前年比6.5%増の311件で、東日本大震災が発生した11年度以来4年ぶりに300件を上回ったとのことだ。

 データは負債額が1000万円以上、法的整理のみで、メンズ&レディス、子供、下着類の卸・小売りが対象になっている。テキスタイルや加工業者、1000万円以下の倒産、私的整理などは含まれていないので、これらを加えると倍以上に達するのではないかと思う。

 震災など大規模な災害で経済活動が沈滞すると、自己防衛による買い控えなどが影響して、卸も小売りも売上げ不振に陥る。ただ、東日本大震災から4年を経過し、売上げ回復が叫ばれていた中での倒産増加は、アパレル業界の需給バランスが完全に崩れていることも指し示す。売れないのに商品や店ばかりが多過ぎるのである。

 帝国データバンクはアパレルメーカーや問屋といった卸の倒産理由に「円高によるコスト上昇」と「消費低迷」を挙げている。しかし、消費が低迷するのは、コストを吸収できず、売れる商品が生み出せていないこともあるのではないか。

 確かに構造的不況によるデフレで、1着数万円もするような服はなかなか売れない。商品が売れないと、価格は下がっていくが、卸としては利益を確保しなければならないからコスト下げて原価率を圧縮する。当然、円高でコストが上がれば、粗利益が減って儲けが少なくなる。

 でも、こうしたビジネスはどこでも考えつくから、1着数千円の商品を作るところが次々と登場し、市場には同じような商品が出回ってしまう。その中で、儲けが少なくても耐えうる体力をもつところは生き残れるが、競争力がないところは受注不振に陥って、次第に体力を奪われていくのである。

 思いきって卸としての方向性を変えることもありかと思う。でも、企画スタッフから入れ替えてガラッと変えてしまえば、既存の取引先は迷うだろうし、営業サイドも売りにくくなる。だから、経営者にはどうしても迷いが生じ、決断のタイミングを逸してしまう。言うは易しだが、行動は難しである。気づいた時はもう手遅れなのだ。

 卸の自己責任だけとも限らない。取引先の小売店の経営悪化もある。手形のサイトを先延ばしされたり、買い取りをやめて委託に変えてきたり。次々と系列店を閉鎖し、スタッフも削減したり。経営が厳しくなると、様々な手を取らずにはいられない。それをいち早く察知した卸が取り引きをやめて商品を卸さなくなると、インターネット問屋を使って商品を探しまくる。こうなると、すでに末期症状だ。

 それでも、「長年のお付き合いがあるから」との温情で取り引きを継続するところは、売掛金を回収できず、連鎖倒産の憂き目にあうところもある。ドライになれない卸は、影響をもろに被ってしまうわけだ。

 一方、小売りの倒産は消費低迷が一番の理由かもしれない。だが、こちらも商品が売れないのは、卸が同じような商品ばかり企画するため、仕入れる商品が似通って来てどの売場も同質化してしまうこともある。似たような商品なら、お客は価格が安いお買得な方を選ぶか、買い控えるかのどちらかだ。同質化による埋没を避け、積極的に商品を手当てしたり、既存の品揃えでも販売や見せ方などで工夫するところは勝ち残り、そうでないところは潰れていく。小売りの宿命なのである。

 私事だが、昨年5月、叔母が経営していたレディス専門店の倒産した。創業50年の老舗だった。負債額1000万円以上で、弁護士を立てて法的整理を行った。帝国データバンクの倒産情報でも公開されており、311件中の1件に入る。

 負債総額は数億円だった。メーカーへの売掛金、賃貸店舗の家賃、従業員の給料、出店投資の借り入れ残等々があったと思う。バブル崩壊とマーケットの変化で、売上げはどんどん下がり、シャッター商店街を訪れるお客はまばら。一見客はほとんど来ない。来たところで専門店系アパレルの高額な商品など買う由もない。

 地域専門店にとって創業の地への思い入れは人一倍強い。経営が厳しくなれば、リストラが必要なのだが、中々踏み出せない。お客が来ないことはスタッフが何よりわかっている。「系列店を閉店して、本店のみに絞ってはどうですか」。スタッフの方から提案された意見に、経営者は「それはできない」とあっさり拒否したという。

 商栄会からは商店街の火を消さないでと、懇願されていたこともあるだろう。地域との柵があればあるほど、リストラは遅々として進まない。結果、負債は積もり積もって、億単位に及ぶ。その時はもう遅いのである。倒産のニュースを見る度に、いつも思うのだが、もっと早く手を打てなかったのかと。やるべきことはいくらもあったはずだと。卸にも、小売りにも言えることだ。

 卸が経営不振に陥らないためには、計画と販売後の2段階できめ細かく対策をとらなければならない。計画段階では、情報収集が何よりも重要になる。卸先の小売店をはじめ、業界全体、ライバルメーカーの動向や分析を行うことだ。計画とはシーズンの計画作成と服種や構成比率である。利益がとれる売り筋商品を作り、価格やプライスラインを明確にする。自社の中心価格は◯◯◯◯円と設定することがとても重要になる。しかも、いつまでその商品を引っ張るのか、である。

 卸営業の段階になると、バイヤー側は価格を重視する。あまりに高いと仕入れを迷うが、安過ぎても売上げ、利益とも取れないと二の足を踏む。大まかな予算枠があるだろうから、ごり押しはできない。筆者が勤めていたアパレルでは、「企画の段階で、この商品なら◯◯◯◯円はとれるはずと自信が持てるなら、その8掛けくらいで作る努力をして価格に反映する」と、 社長が常々言っていた。そうすると、バイヤーも感じてくれるはずで、仕入れ枚数が増えていきやすいからだ。

 もちろん、商品力は下げられない。潰れた卸の多くが経営体力を失っており、それが商品に現れていく。しかし、卸にとってもの作りは生命線だ。色、柄、デザイン、素材、サイズの劣化が商品力を下げていく元凶に他ならない。

 筆者が勤めていたアパレルも、商品が売れているときはこのような計画をさほぞ気にも止めず、独立独歩でもの作りを進めていた。しかし、経営が傾いて改めて「もっと緻密な計画が必要だった」との社長談を、辞めた後に人伝に聞いた。

 小売り店側の対策はどうだろうか。基本は卸とは逆の立場になるから、ここではあえてふれない。倒産理由である消費低迷は景気や増税の影響によるものだが、お客が求める商品がないこともある。だから、この際、仕入ればかりに頼るのではなく、商品づくりも考えていかなければならないと思う。
 
 小売りにとっての商品づくりは、ものづくりから処理に至るまでの仕組みが重要だ。仕入れオンリーでは損益分岐点が高いから、SPAでない成り立ちにくいとの意見もある。だが、まずは中小の小売りは卸から仕入れという形をとる中で、どんな商品が作り出せるかを考えることだと思う。そのためには販売期間、単品管理、最終処分、ロスの責任などあらかじめ決めておかなければならない。
 
 当然、取り組むメーカーや卸を絞り込み、アイテム別、ゾーン別で設定する。深く取り組めば組むほど、相手も小売りの意図を理解してくれるし、クオリティもさらに上がっていくはずだ。ある程度のシェアをとれば、生産の面で融通が利くだろうし、小売りにとっても安定したデリバリーにつながると思う。

 作る商品は自店が強いアイテムに絞り込んだ方が良いと思う。それに加え、素材、デザイン、価格、色も限定し、量を売りながら、確実に売り切って粗利益を確保する。カギになるにはメーカーや卸と綿密なコミュニケーションをとること。ネットでのやり取りするだけではなく、卸と一緒に工場にまで入り込んでスペックを詰める覚悟もいるだろう。

 小売店が倒産するのは、他と差別化できずに埋没するケースが多い。だからこそ、同質化を早めに察知することが重要で、危機感をもちそこから脱することが、倒産を回帰することにつながる。商品づくりは決して大手にしかできないわけではない。小売り側からの提案、取り組むスタンス、買い取る量がしっかりしているなら、対応してくれるメーカーや卸はいくらもあるはずだ。お客さんに一番近いのは店頭なのだからである。
 
 セオリー通りに商品を企画し、展示会、ルート営業で卸販売する。売れれば期中にフォローし、不振在庫を抱えれば粗利を削って叩き売るだけの卸。展示会に出かけて、商品を見つけて仕入れ、売場で編集して販売するだけの小売り。それでは立ちいか無くなっているところが倒産に突き進んでいく。その結果が昨年は300件以上もあったということだ。
 
 プロモーションの仕事をしたあるアパレルメーカーの社長がこんなことを言っていた。「キミたちは服を売るのに『表現』にこだわるけど、『売れる表現』はちゃんとあるんだよ」。売上げは全てを物語るということだ。このメーカーは業界が厳しい中で、倒産などどこ吹く風と頑張っている。

 卸も小売りも潰れる前にもっとできることが、いくらもあるのではないか。それに取り組むか、取り組まないかが存続できるか否かの分岐点になると思う。
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