夢幻泡影

「ゆめの世にかつもどろみて夢をまたかたるも夢よそれがまにまに」

「シーボルト博物学」    雑感

2010年07月30日 13時44分44秒 |  オランダ
出版社をやっている知人から電話がかかってきた。
「本を送ったけど戻ってきちゃった。住所を教えて」
はいはい、住所不定ですみませんね~
ってことで、今朝、その本を頂きました。
東大の大場秀章教授と田賀井篤平教授の共著で「シーボルトの博物館」というもの。
前半を大場教授の植物、後半を田賀井教授の鉱物という構成。


本題の植物にしても、鉱物にしても、私のような門外漢にはちょっと難しすぎる。おまけに頂いて、斜めに読んだだけだし。
でもこの二つの章のそれぞれ前半を飾る、シーボルトのコレクションの生まれた状況から、なぜあんなにあちこちに分散されていったのかと言うような話、そしてシーボルトの研究の意義などは簡潔に纏められていて素晴らしかった。

ところで、この本を受け取って、知人にお礼の電話を入れたときに、日本の植物の紹介に尽くした大きな名前がいくつか抜けているなんて申しておりました。
一人は針灸をヨーロッパに紹介した人として有名で、医者としての評価が高いけど、いくつかの植物を紹介した業績もある。でも、これはシーボルトよりも200年近く前の人。やはりこの本とは関係なかったかな。
おまけに、もう一人はシーボルトの直前に来ていた人、民俗学的な資料の持ち帰りには相当な意味があったけど、植物はそれほどでもなかったか、、、
なんて、思いなおしておりました。
許されて。


書評を書けるような知識もないので、本については「本を買ってあげてよ」ってことで済ませちゃうけど、、って、いいながら、出版社の智書房で検索を掛けたらでてこなかった。
ほんとうは、智書房のアドレスはこちらにちゃんとあるんですけどね。それにしても、更新日 76/07/14 ってのはひどすぎない?
社長さんの話では、改訂作業中だとか。この本に関しても載っておりませんでした。
ちなみにこの本を買いたい方は下のアマゾンのリンクから購入できますので、興味のある方はどうぞ。
(アマゾンのリンク、表示がなんだか変ですね。一応私が四角の部分をクリックしたらこの本のところに飛びましたので、そのままにしておきますが、他の方がクリックしても大丈夫でしょうか。もし飛ばないようでしたらコメントを入れておいてください。別な通販サイトにリンクを変更いたしますので)



シーボルトはいろんなエピソードを残していますね。
たとえばシーボルト・スパイ説。
あれは別な知人が言い出したことで、ジャーナリスティックな言い方。
フランスに占領されて、日本との交易ができなくなっていたのが、やっと独立して交易を再開できるようになった。長い間日本との関係がなかったので交易を再開する上で日本のことを研究しなければってことで、国が助成金を出してシーボルトに研究させたってことが、そのスパイ説のもと。
当時、国禁だった地図を持ち出したことなどが背景にあるのですけど、まあ日本研究をする場合には地図は必需品ですよね。
それをもらって喜んで船に乗せたのはいいけど、台風が来て船が沈んでしまい、その荷物が岸に流れ着いて、ばれちゃったのはまずかった。
オランダでも、ヨーロッパの国々でも、昔は、国の地図やポルトラーノ(航海図)はトップシークレットの一つだったんですから、、、
言い出した当人はその辺は百も承知であんなことを言っているのだろうけど、、、、面白おかしい言葉って独り歩きしちゃうからね~

シーボルトが長崎に来て、出島の外の鳴滝というところで医学を教え始めた。日本としても最新の医学を学びたいという要求があったのですね。
江戸への参府の道筋や、彼の弟子達の集めた資料が、シーボルトの情報源になっていたのですけど、当時の弟子達の手紙なども結構素晴らしいオランダ語で書かれていて、いい弟子達に囲まれていたのだなって思います。

シーボルトやその弟子達の活動が、長崎大学の医学部、、、そしてひいては大阪大学(こちらはもう一つの流れがありますけど)や東京大学の医学部の土台になっていった。
もちろんシーボルト以前にもたくさんのオランダ商館の医師達の医学の伝習の歴史があるのですけど、その量と質からいっても日本の医学の基礎を作った功績は大きいのですよね。


ところでこのブログでも、オウムに言葉を教えるときに「オタケサン」って呼びかけるのは、シーボルトがオウムを持ち込んで嫁さんの名前をオウムに教え込んだのが始まりなんて書いておりましたけど、、、、さて、リンクを張ろうにもどこに書いたか忘れてしまった。

そのオタケサンの名前は、紫陽花をヨーロッパに紹介したときに「オタクサ」って名づけたのでも有名ですよね。長崎市の市の花はそれが縁で紫陽花になっています。

そのオタケサンとシーボルトの間の子孫とヨーロッパに帰った後の子孫たちも今、日本とヨーロッパに現存していて互いの交流もあるんですね。長崎市がシーボルト博物館を作ったときにはその二つの流れの子孫達が一同に会して友好を深めておりました。

シーボルトの(ヨーロッパの)子供も、日本の赤十字の黎明期にいろいろと手伝ったりした人。

もし、貴方が花や鉱物に、そして日本の学術史に興味がおありなら、この本、ぜひ一読されてみてください。

また、シーボルトの持ち帰った資料。標本類はあちこちに分散してしまいましたが、その一つの柱が、それを展示、研究するために作られたライデンの民俗学博物館。世界で始めての民俗学博物館です。

シーボルトが日本を離れてまだ150年ちょっと。でもシーボルトが集めた植物のいくつかは日本で絶滅してしまいました。大場教授は重複している標本を日本に持ち帰る準備をなさいました。私も1990年くらいからそれの受け入れ先を探すことに少しだけ関わっておりまして、長崎市や東京大学とも話をしておりました。
ちなみに、そのときに大阪のオランダ総領事館で文化を担当していたカイパース氏がオランダに戻り、シーボルトハウスの館長を勤め、来週あたりから東京のオランダ大使館内の企業誘致局の担当として戻ってくることになっています。

長崎の風物を書いた絵巻や、集めた民具、、、そのいくつかの風習や道具ももう見られなくなってきている。以前、民具の展覧会をやった博物館の学芸員が、「何の目的で使われていたものか分からない」って嘆いているものもありました、、、
長崎市へ非常に貴重な文化遺産だから何とかして欲しいって常々言ってはいたのですけど、これも厳しい状況。

以前、砺波市とリセ市が姉妹都市を結んだときに、砺波市の市長さんとご一緒しました。リセの球根博物館を訪ねたときに、今なら、古い農具はいくらでも手に入るから、互いに農具を交換したらって言いましたけど、砺波にはその後チューリップの博物館のような施設ができましたけど、さてあの話は、どうなったでしょう。
50年したら手に入れることが難しくなり、100年、200年したら、はて、何の目的で使われていた、、、、になってしまうかもしれません。


シーボルトが来日したとき、これは別に彼だけではないのですけど、日本へたどり着くのは決死の事柄でした。そんなことを思えば、先人達が努力し、研鑽してきた道筋を見ていくのはとても大切なことに思えるのです。
図版を見たり、その実物や、標本、レプリカを見たり、説明書きを見たり、それだけでなく、その後ろに隠れているものを見るのも、大切なことかな。

長崎楽会というのがあります。それの長崎と東京の責任者がきしくも出版関係。長崎では長崎文献社、東京ではこの智書房、一般受けするはずもないような歴史の研究資料などをこつこつと出版されています。
その活動を見ていて嬉しいし、がんばって欲しい。そしてその活動でさまざまな人たちがこの方面にもっと目を向けてもらえるチャンスを与えて欲しいそんな気持ちでおります。




シーボルト博物学―石と植物の物語
大場 秀章,田賀井 篤平
智書房




最新の画像もっと見る

4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown ()
2010-07-31 21:01:16
実は、父が鉱物のコレクターでして。
早速、購入しました。
車椅子ですと出かける機会がどうしても少ないので、刺激になる読書はありがたいですわ♪
良書のご紹介、感謝。
返信する
鉱物 (赤い風車)
2010-07-31 21:09:01
実は私も鉱物が好物でして、
ずいぶんと探し回りました。
武田の金山とか、、、、、
返信する
ありがとうございます (cha)
2010-08-01 17:14:11
シーボルト博物学雑感,ありがとうございました。
大変楽しく読ませていただきました。ホームページの更新日、ありゃいかねぇ(笑)。実際はそれほど古くないのだけど、実はホームページ担当者が辞めちゃって、私がいじれないソフトだったので、とうとうほったらかして、今やり始めたところ、みっともない話でごめんなさい。
(姐)様にはお買い上げいただきありがとうございました。
編集してて楽しい本でした。ではまた。cha
返信する
ソフト (紅い風車)
2010-08-01 23:25:35
ブックマークの一つは、私がHPを請け負ったんですけど、そのHPをいじったのが、知人の時代物のソフト。おまけにそれをHPのオーナーがまた別なソフトで編集しなおし。
何ヶ月にいっぺんくらい、変更してなんていってきますけど、下手にいじったら全部が狂ってしまうことにもなりかねないってことで、お断りしています。
読み込めなかったり、いじったらデザインがめちゃめちゃになって泣いたりってことありますもんね、、、、

でも、頂いたもう一冊の方が私には興味がありました。普通の農民や町民の生き様、考え方、行動の仕方、、、、そんなのが垣間見える本でしたので。
キリスト教徒の受難史なんて本題のほうは私には余り興味のない分野なんですけど、、、、おこぼれがとても楽しい。農民達もお役人に対してけっこう主張しているし、お役人も、奉行や江戸幕府一辺倒かと思えば、間に立ってなんとか治めようと努力していたり、、、、
いや、面白い本でした。
返信する

コメントを投稿