高校を卒業して暫くカッコ付けるためにパチンコや麻雀なんかもやってみたけど、賭け事が心にも身体にも合わないので還暦間近のこの歳になっても馬券さえ買ったことがない。
それ故にこの映画の主人公郁男が抜け出せない博打依存症がピンとこないのだ。
内縁の妻から止めるように諭されるくらいでは改心できるようなものではなく、妻の実家へ移り住んでからもますます依存は募っていく。自分の経済力の範疇で解決できるなら何も問題ないのだろうけど、それが出来ないから依存症なんだろう。
妻の父親から身辺整理するよう言われて受け取った大金も結局博打につぎ込んでしまう。そのことがいけないことで、自分の弱さだらしなさをも分かっているのがかえって始末が悪い。自分の周りにそんな人がいないから想像するしかないけど、本人もそれなりに辛いのだろうが関わる身内としてはたまったものじゃない。
わたくしはこの映画の主人公に思い入れをすることは出来なかった。
心の弱さもだらしない生活も優柔不断な性格も、可哀想な人だとは思うけど同情する気にはならない。
だから、そんな彼を最後まで見捨てず寄り添う血の繋がらない(戸籍上も繋がらない)義理の父親と娘の情愛に涙してしまうのだ。
彼らを繋いでいた唯一の存在である内縁の妻が殺害され、結びつくはずの無い歪な形の家族が形成されてゆく。昨年の「万引き家族」みたいに不完全なパーツが寄り添いあうことで、家族の形を作り出そうとするところは最近の日本映画の主題なんだろう。
白石監督の優しさが映画の余韻を穏やかなものにしている。ラストクレジットで海に堆積した津波の残骸を写し取っているが、園子温監督作品「ヒミズ」の残骸の荒々しさとは違い、明日を信じていいように思えるのはあの災害から8年も過ぎ去ったからだろうか。
この家族が穏やかな凪の時間を迎えられるよう願う。
作り物だからドラマチックじゃなきゃ観客を喜ばせられないと思い込み過ぎの設定が気になった。
先ずは妻が知人に殺されるってほとんどありえないが、この設定がないとそもそもこの映画の本質が描けないから仕方ないとして、犯人がリリーフランキーってのはなぁ。「凶悪」のリリーを知っていると、やっぱりと思ってしまった。
義理の父親がヤクザの親分に貸しがありましたってのも、ご都合ぽい設定でちょっとしらけた。
あんなに大っぴらなノミ行為をしていれば警察の介入がありそうなものだが、その辺も触れられる事無く無法者地帯のようだった。
色々な方が褒めているけど、香取慎吾のダメっぷりは下手な誇張も無く褒められるべき存在感だった。娘役の恒松祐里が頑張っていたのが印象的だった。「くちびるに歌を」でリーダー的な中学生を演じていた時に比べ随分大人になったものだ。これからが楽しみな女優だとマークしておこう。