大人になって良かったなと思うことがこのところ増えている
20代や30代では分からなかった生きることの深みが漸く分かりかけてきている
生きることは自分以外の何かを好きになること、愛することに前向きに悩めることなんだ
窓辺でお茶する心の余裕ができた今、正直な感想は
ああなんて遠回りをして生きてきたんだろう
でも、このゆったりとした映画を観ながら、その遠回りがなくては気付くこともないまま老いて行くところだったのも事実。今泉監督はわたくしよりふた回り年下のようだけど、生きることの意味を軽やかに語ってくれた
現実の生活の中でこんなに色々な感情が交錯する事はないけど、一つくらいは見聞きしたような話だからどこかに自分を重ねてしまっている。派手な事件なんて起きない淡々とした映画なのに143分の長尺が全く気にならない。若い頃に観ていたらこの映画の素晴らしさをわからないまま過ごしてしまったかもしれない
主人公は妻の浮気を知っているのにその裏切りがショックなのではなく、ショックを受けていない自分の感情に落胆している。妻への愛情が無いとか感情の薄い冷たい人だとかの問題じゃないから悩ましい。この感覚、分かる
わたくしの実生活に置き換えたとしたらこんなに冷静にいられないだろうけど、なんだか似たような落胆をしそうだ。大人になって、とうとうその域に足を踏み入れたのかな?
物覚えが悪いから物語の中でいくつも印象的な台詞に頷いていたんだけど、忘れちゃった。そんな凄いこと言ってる訳じゃなくても、日々の生活の中でふと過ぎる感情の断片が散らばっていて、いちいち納得していた。後世に残る名台詞ってカッコ良いけどそこのフレーズだけひとり歩きしてしまいがちで本来の意味が薄れてしまう。その点こういう映画の台詞って脳味噌や心のどこかにそっと仕舞われていて、あるとき鮮明な色で露出してくるような気がする
今泉監督、昨年の傑作「街の上で」以上の傑作
今年脚本を提供した「愛なのに」の方が分かりやすい恋の映画だったけど、同じ線上に位置する恋愛映画だと思う。「寝ても覚めても」を観たとき感じたのと同じ感想になるけど、角度は違えど正直で真っ直ぐな恋愛映画だと思う
稲垣吾郎だから完成したんだな。あの無機質な白痴美は感情を表に出さない(出せない?)からピッタリだった
中村ゆりの薄幸そうな佇まいと相反するエキセントリックな感情も凄い
物語のキーポイントになっている玉城ティナって結構使われているけど、ちゃんと認識したのは初めて。冒頭のナレーションが稚拙で心配したけど、あれも味なんだろうか。彼女の登場がこの映画にリズムを与えていたことは間違いない
レビューとかには、だから何?とかのお子様感想で溢れそうだけど
いつか大人になったら分かるかもよ
そう言ってあげよう