映画と渓流釣り

物忘れしないための処方箋

「来る」の怖さ

2018-12-18 21:55:49 | 新作映画






怖かった。
「シャイニング」で狂ってゆくジャック・ニコルソンの顔より、よっぽど怖かった。

もの心ついた子供の頃から、夜になると漆黒の闇に包まれる山峡の地で育ったからか、ほんの先には見ることは叶わないが得体の知れない強い力を持った何かがいると信じていた。都会で30年も過ごしてしまうと感知する能力は失われてしまったけど。
昔から、日本人は妖怪の類が悪さをして子供をさらうのだとしてきたが、実際は飲む食うに困り果てた末の子捨て子殺しだったと映画の中でもいっている。そうにして子供を亡くしたことを正当化し、鬼畜との線引きを図ったのだろう。今のこの世でも繰り返される子捨て子殺しはかなり様相は違ってきたけど、中には経済的にも環境的にも選択肢がなくて子供を妖怪に委ねてしまっている親がいるのかもしれない。

妻夫木聡演じる似非イクメンパパと黒木華演じた育児ノイローゼ気味の奥さんが面白かった。こんな家庭あちらこちらにあるように思う。イクメンパパの子供の頃体験した幼馴染の失踪と、「あれ」がこの家庭を襲う因果関係が今ひとつ分からなかったのは残念だった。と、言うかイクメンパパが呼び寄せたみたいな描かれ方より、結局パパからもママからも可愛いわが子というオブジェとしか扱われなかった子供が、寂しさゆえに呼び寄せた魔物であったほうが説得力がある。パパもママも妖怪に子供を委ねたために壮絶な最期をむかえたのだとしたら自業自得だろう。
黒木華が不満をためながら壊れてゆく奥さんを気持ち悪く演じていて、今年演じた沢山の役の中でも出色だった。

霊媒師の姉妹が面白かった。松たか子の最強霊媒師が淡々と除霊をする姿が、「告白」の女教師を髣髴させる。国の権力者をも簡単に動かせる力を匂わせながら、悪霊と対峙することを単なる仕事と呼ぶところは、決して熱くならない語り口調と共に印象的だった。「あれ」との戦いは結局どうなったのか?霊媒師は生き残ることができたのか?本題ではないけれど、戦いの結末があやふやなのも中島作品らしい。小松菜奈の妹霊媒師が見てくれと違い可愛らしかったのも意表をついたキャラクターだった。もっとエキセントリックなギャルとして暴れまわるのかと思っていたから、姉に憧れ、子供を持てない自らの過ちに悔いる業をかかえた女の子を甲斐甲斐しく演じていた。「あれ」に殺されちゃったかと思ったけど、ラストに菩薩として子供を抱くシーンに安堵した。

青木崇高演じたイクメンパパの友人や柴田理恵の老霊媒師も面白かったのに、主役(クレジットでは一番先に出てくる)の割には岡田准一のゴシップ屋が物足りない。除霊をネタに阿漕なことでもやるのかと思えば、昔の女に堕胎させたトラウマを抱えた普通の良い人でしかない。特別に活躍するわけでもないから、霊媒師を紹介するだけの端役でも構わなかったのではないか。ラスト、子を持てない妹霊媒師と生き残った子供を守るために居るのは分かるけど、今までの中島監督ならどぎつい人物設定をしたはずだ。もしかして、ジャ○ーズのしょうもない圧力がかかったとか・・・?あんまり考えたくないけど、あそこなら作品の質を落としてでもタレントのイメージを守ろうとするだろうから油断がならない。(そんな事務所の役者使うなよ。と言っても、日本の薄い役者層を見るとなぁ。沈黙)

中島作品をカテゴライズすること自体がナンセンスであることは、監督の過去に撮った傑作群をご覧になれば分かること。ホラーだとかファンタジーだとかは全く関係ない。そんなジャンルわけできないから中島ワールドなのだし。冒頭に書いたようにニコルソンの狂気は怖さの裏に爆笑物の滑稽さを含んでいる。除霊のために僧侶神主はもとより沖縄のユタや韓国の霊媒師まで総動員する滑稽さは、怖さの裏返しのための演出なんだろう。得意の遊園地シーンもゴタゴタに混ぜ合わせながら本当の意味で子供を「あれ」から守りきれるのは誰なのかを覚めた目で問うエンターテイメントになっている。
それが今日的な「来る」が描いた怖さだ。

今までの中島監督メジャー長編5作品は全部映画館で鑑賞しているので、今回の作品も楽しみにしてた。
「下妻物語」は田舎に住むロリータ浮世離れ女子高生と同い年のヤンキーレディース暴走族のゆるく熱い女子バトルだけど、下手に甘々な友情物語なんかは排除した爽快な作品だった。
「嫌われ松子の一生」も原作が語る松子の裏目に出る生涯を見せてはいるけど、描かれ方は合成処理を多用したポップなミュージカル仕立てになっていて映像の優位性を存分に生かした作品だった。
「パコと魔法の絵本」に至っては舞台と絵本と映画が一体になったような空間を創り出し、後期フェリーニ作品のように閉ざされた世界と無限に広がるイマジネーションを堪能できる。
「告白」は一番ヒットした作品。悪魔性を内包した無邪気な子供たちを等身大に描きながら対極に女教師の狂気じみた正論をぶつけ合うという離れ業を楽しめた。
「渇き。」だけは物語そのものに入り込むことができず、暑苦しく騒々しい画面に辟易した。
先日、CS放送で「下妻物語」「嫌われ松子の一生」「告白」の三作品を放映したので再見してみたが、特に「嫌われ松子の一生」は本当に良くできた傑作だと惚れ直した。



秋ドラマも終了

2018-12-18 20:57:46 | 旧作映画、TVドラマ

「獣になれない大人たち」
傑作といわれている映画でも良くあることだけど、食が進まないものってある。丁寧にしっかり作られているのに、はっきり言っちゃえば(つまらない)作品。(つまらない)という言葉を誤解されたくないからあえて書くけど、別に暗いとか辛いとかということではなく、無理に時間を作り出してまで観ようと心が動かされない作品のこと。
ぐだぐだ書いたけど、「獣になれない大人たち」はそんなドラマだった。野木亜紀子と新垣結衣のカップリングでなきゃ絶対途中で投げ出していたな。日々の生活なんて変わり映えのしない同じことの繰り返しだけど、ドラマはそんな繰り返しの断片を違う角度で切り取って見せてくれるものだろうし、視聴者はそこに類似した自分との接点を見つけ出して共感したいのだ。暗かろうが辛かろうが共感できて、少しだけ明日が違う光に照らされていることを示して欲しいのだ。
元彼のお母さんの過去挿話もそうだったけど、税理士のお兄さんの話も面白かった。どちらも映画を観ているような質感があり、メインストーリーの散漫さに比べ感情が掴みやすかった。唯一の楽しみがそれじゃなぁ。黒木華演じる引きこもり女も菊池凛子のイケイケ女もせっかく面白い設定なのに活かせていない。伊藤沙莉なんか、うるさいだけの使えない社員でしかない。今までの野木脚本では掘り下げられていた人物像がどれもこれも半端だった。「逃げ恥」のように端役に至るまで命が吹き込まれる作品を作ってきた野木亜紀子だけに失望は大きい。
松田龍平、田中圭、黒木華、伊藤沙莉、菊地凛子、松尾貴史、山内圭哉、田中美佐子 これだけの上手い役者を並べても(つまらない)ものは(つまらない)。

「大恋愛」
結婚した二人が徐々に進む病気と折り合いながら泣いたり笑ったりの日々を描いてゆくのかと思ったら、異分子の登場によってサスペンスの色合いがでてきた。今時の視聴者は小技を挟み込まないとすぐ飽きてしまい、手のひらを返すように視聴率に反映されてしまう。小池徹平の薄笑いがよかったので、もう少しこの灰汁の強さを引っ張るのかと思ったら、何となく無難に落としどころに着地させてしまった。本筋じゃないし10年に及ぶ二人の大恋愛を描くとなれば脇道にばかり構ってもいられないんだろう。
子宝を授かり、悪化する病状とは反比例した幸せの日々があり、ちょっと無理がある主治医と母親の結婚も詰め込みながら行き着くところにドラマは進んでゆく。記憶を失いながらも子供と愛する男のために自分のできることをやろうとした姿に痛ましさと悲哀を感じてしまう。編集担当者の使い方が上手くできており、下手に悪人フラグを立てないのも良い。
最後は最愛の連れ合いを亡くしてしまうけど、幸せな日々の記憶は残った。

「今日から俺は」
近所の悪ガキ同士の喧嘩ばかりじゃ飽きてしまうけど、東京の狡賢い不良と戦ったり、意外な頭脳戦を繰り広げたりと中々楽しませてくれる。清野菜名がアクションできる女優だと喧伝されていたけど、このドラマでその片鱗が見えてきた。できれば橋本環奈と清野菜名の活躍ももっと観たいものだ。
福田雄一の脚本演出はその癖の強さが相乗効果になれば怖いもの無しになる。悪ふざけが本気であればあるほど、役者が吹っ切れれば切れるほどに観ている視聴者はのめり込める。何処となく高校生の素人映画を観ているようなドタバタ劇が、かなり計算された笑いになるところは流石だ。不良の物語だけど、1980年代であるからこその長閑さがあり、(やんちゃ)という表現が使えるような可愛気があるから愛されるドラマになったのだろう。今までの福田作品での賀来賢人は、はしゃぎ過ぎで助演としては邪魔な感じがしたけど、主役ではちょうど良く感じるのも不思議ではある。

「まんぷく」
起業してからも進駐軍に疑われたり、主力商品を塩から栄養食品に切り替えたりで、中々落ち着いて物語が進まない。これから後半に向かってインスタントラーメン作りに移ってゆくのだろうけど、そこにヒロインがどんな風に絡むのかが気にかかる。内助の功を描くしかないのは分かるけど、ただ頑張れと後押しする女房じゃ物語りにならない。ますます安藤サクラの、のっぺりした大きな顔が不気味に思えてくる。松坂慶子のわがままな武士の娘がとても良いアクセントになっているから、どうにか毎日観続けることができている。
やっぱりヒロインは可愛くなくちゃダメだよ。





おっさんずat箱根

2018-12-09 07:46:52 | お遊び


気の置けない友人達と、箱根湯本で湯浴みを楽しんだ

殆ど貸切のような茶店で呑みながら昼食をとり、

露天風呂が充実した日帰り温泉に浸かる

手にシワが寄るくらい堪能して、

ちょい呑みセットで非日常へワープ



山は、もう冬の始まり


小田原の小さな居酒屋でも杯を重ね、

帰りの東海道線でも呑んだくれたから、

おっさん三人何しに箱根まで行ったんだ

そんな大人のだらしない旅

今年もそうやって年が暮れてゆく

また、そのうちにね