むぎわら日記

日記兼用ブログです。
野山や街かどで見つけたもの、読書記録、模型のことなどを載せております。

『介護士K』久坂部 羊(角川文庫)

2024年12月03日 | 読書
南木佳士、帚木蓬生など、医師の兼業作家を愛読しているのですが、久坂部洋もその一人です。この三人の中で、文学賞からもっとも遠く、もっともえげつない作家であると、賞賛の言葉を送りたいのです。
作者は在宅医療や老人医療に携わっているのですが、この作品でも、「こんなこと、お医者様が書いていいの!?」と思うようなことを平気でバンバン書いてきます。もちろん、自分の意見としてではなく、小説の登場人物の言葉を通してです。ある介護施設の老人の三人連続の不信死を巡り、介護現場・福祉制度の問題点をえげつなく取り上げていきます。建前をぶち壊す本音の部分をぶち込んでくるので、ある意味、爽快感があります。
この小説では主人公が二人いて、視点を交互に移しながら、ストーリーが進んでいきます。一人は疑惑のイケメン看護師K、もう一人はそれを追うルポライターの女性というエンタメの王道です。2視点交互切り替えはプロの小説家でも難しいのですが、ひっかかりなく読めるのは、プロ中のプロの文章力を持っている証ですね。
途中で、「この辺りの緊迫感とか、『罪と罰』を彷彿とさせる、久坂部羊版罪と罰を書く気なのか?」と思えるところがあったのですが、あとがきで、『罪と罰』のマニア向けオマージュをちりばめたと書かれており、「やられた、さすが羊先生!」とうならされました。
そして、最後のオチの一撃が、何がほんとうで何が嘘なのか、人は自分が作ったストーリーを信じてしまう生き物だと思い知らされることになりました。
これから、介護を受けることになるご老人方(自分も他人事ではない)、読んでおいて損はありません。

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