むぎわら日記

日記兼用ブログです。
野山や街かどで見つけたもの、読書記録、模型のことなどを載せております。

『冷血』トルーマン カポーティ (新潮文庫)

2024年12月29日 | 読書
作者であるカポーティは、この小説を書き終えたのち、一作も小説を書かずに亡くなっていることを知り、興味を持って読みました。
アメリカ合衆国のほぼ中央のカンザスで起きた、品行方正で周りの人たちからも尊敬され慕われている裕福な農家の家族4人が、縛られたあとに猟銃で打ち殺された事件の真相に迫ります。カポーティは、調査に3年を費やし、さらにまとめるのに3年を経て、この大作を描き上げました。
自ら、ノンフィクションノベルと言うように、ドキュメントタッチに、再現ドラマのようなノベル風の描写を交えているため、迫力を感じるのです。2人の犯人の生い立ちから処刑まで、周りの住人や捜査官などもきめ細かく調べられていて、どれも映画のシーンのように脳裏に浮かびました。
さて、なぜ、これを書き上げた後に、他の作品を書けなくなったのか考察になります。この事件の特徴は、偶然に偶然が重なっていて、フィクションとして書こうとした場合、いくらなんでも、こんな偶然に頼ったストーリーはダメだよと、企画の段階で没になるでしょう。犯人は同じ刑務所に入っていた仲間から、彼が以前雇われていた犠牲者の家族の話を聴き、刑務所を出たらそこを襲って金品を奪うと言っています。会ったこともない遠く離れた農場の家を襲うなど誰が考えるでしょう。捜査は怨恨説が有力で、まったく接点のなく遠く離れたところに住んでいる犯人が怪しまれることもなく遅々として進みませんでした。それが、以前、刑務所で彼に話した囚人が刑務所長にそのことを伝えたことがきっかけで捜査が動き出します。
事実は、小説よりも奇なり。完全なフィクションでは書けない世界観なのです。
これでは、次に小説(フィクション)を書くことを躊躇してもしかたないかなと思いました。また、殺人犯の心の底や、周辺の人たちの心情などをリアルに心の中に描くことも、精神的には大変な作業であり、それに加え、莫大な資料をまとめ上げる労力も並大抵のことではないので、これ以上の作品を書くことは出来ないと思っても無理はないと納得しました。
最後に、横道にそれますが、本作の中で、殺人犯の母親が、自分が非難されて当然だと思っていたのに、周りの人がみんな親切に接してくれる、息子の共犯者も自分に対して思いやりを示してくれたことに涙するシーンに、日本人も見習わなくてはならないアメリカのいい意味での個人主義を見たことを記しておきます。



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