2012年07月06日 毎日新聞「はがき随筆」掲載
錦帯橋そばの吉香公園に「美しき天然」の作曲者で岩国市出身、田中穂積の銅像がある。その前を通ると曲が流れ始める。
年配の観光客の男性。右手で拍子を取り、リズムに合わせ体を左右にゆっくり振りながら聞いている。その姿は何かを回顧しているように見える。背後から連れ合いがその姿を撮っている。主人が何を思い出しているのかよく分かっている、そんな仕草を感じる。
訪れた地で夫婦共有の思い出に出会えるとは素晴らしい。そんな目の前の温かな雰囲気に穂積の海軍帽にひげの軍人顔が少しほほ笑んでいるように思えた。