星野道夫という写真家がいた。
17歳の時、移民船「アルゼンチナ丸」に乗ってロサンゼルスヘ行き、約2ヶ月間一人旅をしている。彼は高校生にして、誰にもできないことへの挑戦を開始したのだった。
彼の思いは、写真家になるのではなかった。彼が野宿をして出会ったアラスカの自然は、彼を驚かせ、彼の新たな人生哲学を醸出させた。
雪解け。また、野生動物たちが冬眠から眠りを覚まし、活動を始める季節がやってくる。雪解けの頃の本州でも、雪に閉ざされていた山奥へのアクセスが可能になり、野生動物たちとの遭遇の機会が増えてくる。冬眠から覚めた野生のクマは非常に危険だ。山奥に捨てられたハイカーたちの残飯に味をしめた彼らは、人間をエサと見なして襲うようになる。
一度でも、彼らが人間から痛いしっぺ返しを食えば、彼らは人間を怖い存在として認識するようになる。だが、その時はすでに遅い。人を襲った野生動物は、有害動物として駆除される。
ヒグマを知り尽くした星野道夫氏であった。しかし、最北のロシアの地で、地元のテレビ局のオーナーが餌付けしていたヒグマに襲われて亡くなった。そのヒグマは処分されたらしい。
山歩きの人々(山やさん)たちに、野生のクマの恐ろしさを聞き、昨年、屋久島でクマよけ用にカウベルを購入した。だが、それはまだ包みに入ったままだ。往々にして、ナチュラリストたちは、「自分が襲われるはずはない」という根拠のない確信のまま、たいした準備もせずに山に出かけていく。カウベルなど、山の中でシカやクマなど野生動物と突然出会うことを避けることができるかもしれないが、人間をエサと見なして襲ってくるクマに対しては無力だ。
あえて武器としての銃を携行せず、単独でテント泊をして、自然に対するポリシーを貫き通した星野道夫氏のご冥福を祈る。
また、ぼくらは彼が遺したアラスカの大自然の写真に、できなかったことに対する思いを馳せるしかない。
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