tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

金融資産保有が安全でなくなった理由

2012年11月07日 10時10分12秒 | 経済
金融資産保有が安全でなくなった理由
 一国経済が稼いだカネを金融資産として保有し、それが安全である社会というのは、どのような経済社会システムを持つ社会でしょうか。
 最低限の必要条件は、為替が安定していること、そして金融がギャンブルに走らないということでしょう。

 これはアメリカが世界に広めてきた、変動相場制、金融自由化、マネー資本主義とは正反対のシステムです。固定相場制を原則に、国民の生活水準は生産性の上昇が基準で、金融機関はインカムゲインをベースに活動をするというイメージです。
 まさにそれは1960年代までの世界経済、ジャパンアズナンバーワンに至る日本経済社会のイメージです。

 今アメリカでも、一部に野放図な金融自由化と金融機関の巨大化への反省が出ているようですが、それも当然です。
 実は、アメリカも、第二次世界大戦のさなか、それを考えていたのです。第二次大戦が終わる前年、いわゆるブレトンウッズ体制を構想する中でアメリカが考えていたのは、こうした実物経済の健全な発展をベースに据えて、金融は実物経済の安定した発展のための潤滑油の役割を果たすという堅実な経済社会像だったと思われます。
 それこそがこうした悲惨な戦争を繰り返さないための世界経済社会の体制だ、と考えていたからこそでしょう。

 しかしこのブログでも繰り返し述べて来ていますように、アメリカ自体が、この健全経済路線を踏み外し、赤字国に転落し、ポピュリズム化した政治の下では、その矯正が至難だと思い始めた時、つまり1970年のニクソンショック以降、アメリカは嘗て自ら選んだ道を捨て、今日のような誤った世界経済の在り方を選択することになってしまったと言えるでしょう。

 つまり、赤字の国があるのなら、黒字の国がある。黒字の国の蓄積資産がアメリカに流れ込むような体制を作れば、良いのではないか、という路線です。
 そのために世界経済、国際金融システムは、国際会計基準も含め作り直されていきます。
 変動相場制・為替自由化の推進、財務健全性よりキャッシュフロー重視、時価会計原則、キャピタルゲインとインカムゲインの非差別化、金融の自由化・規制緩和の推進、そして金融工学の開発・活用などなど。

 全ては周到に構想されたようです。自由化や規制緩和は、もちろん正当な論理も含みます。自由化・規制緩和こそが正義という理論も大いに活用されました(されています)。

 こうして、世界経済社会は「良識と健全なディシプリン」という資本主義を支えるべき人間性やモラル(アダムスミスの言う道徳情操、福沢諭吉の「論語とそろばん」の論語の部分)を欠いたものに堕すことになったようです。

 結果は皆さんご経験の通りです。国際経済の不安定化、国際・国内での格差社会化の拡大、社会の不平等化の進展、ひいては国際関係そのものの不安定化です。