tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

同一労働・同一賃金: 賃金より「雇用」に視点を

2016年12月23日 11時42分25秒 | 経営
同一労働・同一賃金: 賃金より「雇用」に視点を
 日本経済がプラザ合意による大幅円高以降の長期不況で20年余の長期低迷を続ける中で、それまでは雇用労働力の20%に満たなかった非正規従業員が40%という異常な高さに達したことはご承知の通りです。

 「 プラザ合意なかりせばの日本経済」で指摘しましたように、日本経済が正常な為替レートの動きの中で安定的な経済成長を続けていれば、恐らく非正規雇用は今日でも25%程度か多くても30%以下のものではないでしょうか。

 残念ながら、いわゆる「失われた20年」を通じて非正規雇用は急速に増えました。企業は円高で国際的には2倍になったコスト引き下げのために正規従業員を減らし、非正規を増やし、平均人件費の水準を下げて、円高によるコストアップに対抗したのです(日本経済の総コストの7割は人件費)。

 日銀の政策変更で、2014年以降、行き過ぎた円高は解消し、企業経営はまともな状態に戻ってきています。企業の収益性も高まりました。
 しかし一旦安価な非正規労働力に頼った企業が、本来の日本企業の在り方である「正規重視」に戻るのに、時間が「かかり過ぎて」いるように思われます。

 今、本当に問題になっているのは、正規社員としての雇用を望みながら、非正規雇用に甘んじている人たちでしょう。多くは家計に責任を持つ人たちです。地域のマーケットで決まる非正規雇用の賃金では、家計を支えるのは至難でしょう。

 しかし、それ以外に自ら非正規を望んでいる人たち、働きたい時に働いてプラス・アルファの収入を得ることを目指す人たちも大勢いるわけですです。
 一家の稼ぎ手は別にいる方、学生アルバイト、年金も受給する退職高齢者、新型の在宅就業者、多様な地域や職場を楽しむ人、などなど、労働の性格も多様化しています。

 こういう人たちには、その要望に応える雇用形態、職場、仕事を提供することが必要です。賃金は職種や地域のマーケットで決まる賃金が納得性を持ちます。当然正社員としての雇用や賃金体系は適用すべきではありません。
 
 今、同一労働・同一賃金問題に背景になっている問題は、非正規労働の増え過ぎによる格差社会化でしょう。非正規の時給は正規より大幅に低い、それが世代を通じて拡大再生産されると大変だといった意見まで出てきています。

 そうみてくれば、本当に必要なことは、家計を担い、家族に責任をもって働こうという人たちに、確り稼げる場、正規雇用の場を提供することが最も重要です。
 これは賃金問題ではなく、雇用問題なのです。そうした基本的視点を見過ごし、同一労働・同一賃金を政策の柱に据えるというのは、些か見当違いと言わざるを得ません。

 雇用とか賃金とか家計といった問題は、職場の問題より、「社会」の問題です。日本の労使は常に、「雇用が最重要」といってきました。勿論これは雇用の数だけではなく、適切な雇用の質を重視するものでなくてはなりません。
 なぜなら、人は多く仕事によって育つからです。そして、子は親の背を見て育ちます。

 今重要なことは、労使が協力して(政府も後押しして)正規従業員をできるだけ増やすことです。戦後、 日本の経営者はそれをやってきました。そして、「正規にはなりたくないから非正規」という人たちだけが非正規になれば、この問題は自然に解決していくことになるでしょう。