tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

支払能力シリーズ14: 中間まとめ

2016年12月25日 09時28分43秒 | 労働
支払能力シリーズ14: 中間まとめ
 年が明ければ2017年春闘の時期に入ります。
 この支払能力シリーズは、1つ大きな目的をもって書いていきました。

 最初に「真理は中間にあり」と書きましたが、労働分配率、正式に言えば、付加価値の労働と資本への分配(労働分配率+資本分配率=100%)は、どちらが多すぎても、少なすぎても企業経営や、経済運営はうまく行かない、真理、つまり適正労働分配率、裏を返せば適正資本分配率は労使の主張の中間にあるという事です。

 この考え方は、今なお、あまり一般的ではありません。欧米でも途上国でも、企業は少しでも多くの利益を確保しようとし、労働組合はより高い労働分配率を目指します。理論的な整合性、合理性の検討は、ごく単純なラッカ-プランやスキャンロンプラン以外は、殆どなされていません。

 しかし、もし労使が「いかなる労使の分配が一国経済あるいは企業の成長を最も高めるか」という視点に立てば、一国の経済計画でも、企業の経営計画でも、与えられた内外の経済・経営環境の中で、目指すべき成長率、国なら経済成長率、企業なら売上高(正式には付加価値額の成長率あるいは、労働生産性の伸び率)は計画可能で、その中で最も適切な労働分配率(労働と資本への分配)は具体的な数字として算出可能です。

 その根底にある考え方が、このシリーズの最も重要な概念として提起してきた「今日の分配が将来の成長を規定する」という経済・経営(経済活動一般)に共通するメカニズムです。

 計画の展開の順序で言えば、成長目標を立てれば、その成長目標を実現するための必要な資本分配、それと整合的な労働分配が計画可能です。
 そして、それが実現すれば、目指す「成長に支えられた」年々の賃金上昇(人件費の増加)の計測が可能になり、長期的な積算で見た「総受取賃金の極大化」を可能にする人件費計画が可能になるのです。

 これこそが、まさに労使双方のwin=winの関係という事でしょう。
 日本的経営の発展プロセス中では、高度成長期以来、「従業員の経営参加」、「全員経営の理念」が熱心に語られてきました。 

 現場のQC、5S、カイゼンから、工場、店舗、企業全体の公式・非公式の労使協議制といった場で、企業のベストのパフォーマンスが、従業員待遇のベストパフォーマンスを生むという考え方、企業経営は労使の信頼関係が基盤という認識が基本になっています。

 かつて、日本の労使協議制は世界に有名でした。それを真似ようと法律で労使協議制を定めた国すらありました。
 残念ながら、この伝統は「失われた20年」の中で、些か影が薄くなったようです。

 今日のブラック企業問題などという現実は、こうした日常の労使の話し合いの欠如の結果であることは明らかです。
 円高不況があまりに長すぎ、深刻過ぎて、コストカット、企業のサバイバルだけが企業経営者の至上命題になったからでしょうか、経営者は、労使関係の大切さを忘れ、当面の利益の極大化に目を奪われるようになったのでしょうか。

 アメリカ流の利益至上主義の経営思想の影響もあったかもしれません。しかし伝統的な日本企業の社是・社訓、経営理念は違っていたはずです。

 経営者が、本来の日本企業の経営の在り方に改めて思いを致し、従業員(労働組合)が、強く責任ある企業経営のパートナーとしての意識をもって従業員の総意を担って活動を始めれば、「企業の成長と分配」の問題は、最重要の課題として、春闘の中で労使で話し合われることになるでしょう。

 そしてそれが、改めて、新たな日本企業、日本経済の再生、発展の大きな力になるはずです。
 「企業の人件費支払能力」というごく身近な問題は、実は、日本企業、日本経済の将来に大きな、しかも主要な関係を持つ重要課題だと考えています。
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 具体的な、企業レベルの「経営計画と人件費支払能力」の問題(経営計画と人件費支払能力測定)については、また、機会を改めて検討していきたいと思っています。