tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

非正規雇用増加と同一労働・同一賃金

2016年12月22日 12時58分45秒 | 経営
非正規雇用増加と同一労働・同一賃金
 前回、日本の企業における賃金制度は、欧米で一般的な企業の在り方と異なる「日本的経営」、日本的企業観の中から生まれてきたことを見て来ました。人間中心の日本的経営と職務をベースにした欧米の 企業観の違いについては繰り返し述べてきています。

 ところが日本でも、一企業に専属せずに、企業は収入を得るための手段として利用し、自分の生き方の方を大事にする人たちも増えてきました。
 豊かな社会の実現をベースに、生き甲斐、価値観の多様化、都市化による現金収入の必要性、電化による家事労働負担の軽減など様々な要因があるのでしょう。

 一時は縁辺労働力などと呼ばれた、パート、アルバイト、季節労働者、高齢労働者が増加すると同時に、いわゆる「ハイタレントマンパワー」と呼ばれる人びとの中には、自分の能力をより高く売るという視点から(プロ野球のFAのように)一企業専属を選ばない人たちも出てきました。

 こういう人たちは、一企業に縛られる「新卒採用から定年まで」といった勤務を好みませんから、日本的経営を前提とする(いわゆる終身雇用の)賃金体系にはうまく適合しません。
 その結果、こうした「一企業専属」を望まない人たちの賃金は「マーケット決まる」ことになります。

 もう皆様ご承知のように、パート、アルバイトといった非正社員の賃金は(新聞折込みの求人広告に見られますように)、職種と地域などで区分されるマーケットで決まります。
 最近の報道では「求人難で平均時給が1000円を超える」などという形です。

 ハイタレントマンパワーの方は、マーケットがまだ小さいので、個々の「交渉と契約」で決まっている(これにもマ―ケット相場はあるようです)という事でしょう。

 こうした「大きく3種類」に分かれてきた労働力の構成についって、1995年に、当時の日経連(現経団連)は「 雇用ポートフォリオ」という概念を提起しています。
 正社員は「長期蓄積能力活用型」、パート・アルバイトは「雇用柔軟型」、ハイタレントマンパワーは「高度専門能力活用型」としています。(これが非正規増加の元凶という意見もあります)

 ところで、「同一労働・同一賃金」で問題になっているのは正社員とパート・アルバイトの賃金格差でしょう。「並んで同じ仕事をしていて賃金が違うのはおかしい」というのです。

 実はこれは難題です。基本的な理由は「企業がそれぞれに定めている労働協約や就業規則の中で決まっている賃金(年功色があり、企業別に大きな差もあります)と、その地域のマーケットで決まる賃金を、仕事が同じなら「合わせる」といったことは、(決定基準の違うものを合わせるのですから)どう考えても不可能でしょう。

 政府が20日発表した指針案でも、例えば、基本給について、正社員とパートで「同一の能力を蓄積」していれば、「その能力に応じた部分について」同一の支給をしなければならないなどとしていますが、同時に、「業績成果などに応じて」という言葉も使われていて、能力があれば払うのか、業績成果によるのか企業も判断に困りそうです。

 今、政府がやろうとしていることは、結局形だけの辻褄合わせに終わるのでしょうが、それでは全く問題の解決にはなりません。
 次回は、なぜこんなことになったのか、本当の解決策は何なのか、を考えてみましょう。