tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

支払能力シリーズ13: 教育訓練費をどう考えるか

2016年12月19日 13時46分37秒 | 経営
支払能力シリーズ13: 教育訓練費をどう考えるか
 ここまで考えてきた適正労働分配率の考え方を整理してみますと、労使の配分というのは名目的な表現で、「使用者」は「資本家」ではありませんから、現実には使用者は、付加価値(人件費+資本費)のうち、資本費を資本家の取り分として考えるのではなく、企業の安定した発展のための資金と考えていることが解ります。
  
 株主配当は資本家へのリターンですが、現実には、株主の提供した資金に対する金利程度が一般的です。今はゼロ金利という異常な状態ですが、アメリカに見るように、銀行の預金金利にも、いつか正常化の動きが出るでしょう。

 という事になりますと、資本分配率の分は何を基準に分配するかという事になりますが、「人間が資本を使って付加価値を生産する」という立場から考えますと、「人間が使う資本」をより大きくするという事で、その中心は今後の企業活動の高度化、今後の企業成長のための資金ということになります。

 このシリーズの9で書きましたように、労働の生産性は「資本装備率」の向上で高まるのです。
 利益(正確には内部留保)は「企業成長のための肥料」といういい方もありますが、こうした視点からは、労働分配は「今日への分配」、資本分配は「将来への分配」という言い方も可能です。

 James Burnhamの「経営者革命」で書き、P.ドラッカーも指摘していますように、今日の経営者は企業というシステムの「システム・マネジャー」として、企業の永続的成長を実現するために、創出した付加価値を「現在のコストと将来コスト」に如何に分配するかを考えるべき存在で、労使交渉は、労組(従業員)と「現在と将来の配分比率」の在り方を共に考える場なのかもしれません。

 そこで問題になるのは従業員の教育訓練費です。教育訓練費は、会計上は現在のコストですが、その実は人間に関わる将来への投資です。最近よく使われる言葉で言えば「人的資本への投資」でしょう。

 会計基準は多分に形式的なもの、税金の計算用のものといった色彩があります。
 「人間が資本を使った付加価値を創る」ことが企業の役割という基本的な立場に立てば、教育訓練費は人件費ではなく資本費に入れて付加価値分析をすべきでしょう。

 付加価値分析というのは本来、企業の動態的な成長を分析するためのものです。
 ですから分析の目的は、付加価値の分配と、企業の成長が如何なる関係にあるかを明らかにすることです。
低めの労働分配率が成長率を高めると書いてきましたが、教育訓練費については資本分配に入れて計算することがより実態に近いと考えられます。おそらく、教育訓練費の増加は、その後の生産性の向上に有意な相関を持つはずです。