昨日今日、経団連の「労使フォーラム」です、マスコミは「春闘のキック・オフ」と言っていまいます。
今年は、労使が共に賃上げの必要で一致していて、連合は5%以上、経団連は昨年以上と言い、十倉会長は「働き手への還元は経営者の責務」と言っています。こんな発言はかつての日本的経営理念全盛時代を彷彿させます。
加えて特に中小企業の賃上げや非正規の賃上げの必要性についての議論が盛んになっています。特に中小企業の大多数を擁する日商の小林会頭は、中小企業にとって、人件費・原材料費の価格転嫁は不可欠と言っています。
今回は、この人件費などのコストの価格転嫁について整理したいと思います。輸入原材料の価格が上がったから納入価格が上がりましたというのは通り易いのですが、「従業員の賃金が上がったので」というと「君のところの賃金上昇分をウチに払えと言うのか」などと言われえそうで・・・、ということになりそうですが、親会社はそう言ってはいけない、「解った、その分の価格引き上げは認めよう」と言いなさいという事です。
それだけではありません。今の話が3次下請けと二次下請けの間の事だとしますと、その二次下請けは1次下請けのところへ行って、「うちも賃上げをしてコストが上がりました。うちの下請けも賃上げをしてコストが上がったので、それは見てやりました。その分は材料費に含まれています。それにプラスしてウチの賃上げ分がこれだけです。原料費の上昇とウチの賃上げ分の両方を見て頂くことになりますが宜しく」となります。
第一次下請けは親会社の所に行って、同じような説明を3段階分することになります。図式的に言えばこうなるわけです。
という事で経団連や日商が言うように、大企業(親会社)が率先して値上げを認めないと中小は価格転嫁が出来ないから、大企業が率先して理解する事が大事となるわけです。
こうして結局日本の物価水準が上がります。しかし「今の日本」ではそれでいいのです。理由は、これまで日本の中小企業は、人件費が上がっても価格転嫁が難しく、結局賃上げを抑えて価格を抑えてきました。それが長く続き、その上に、円安になって、日本は世界でも物価の安いという事になりました。当然賃金も割安の国になっているのです。
お陰で企業の利益は結構増えてきました。今、経団連や日商が「企業としても賃上げが必要」といっているのは賃金レベルが低くなり過ぎて消費者が節約志向で消費が伸びない。それでは企業も困る、という状態になっているからです。
そうした中で積極的な賃上げをすれば、国内の消費需要も増えて、デフレ脱出、経済成長に貢献し、国際的には多少物価が高くなっても、競争力は十分確保できるという、企業も消費者(従業員)ともに喜ぶという事になるのです。
勿論、こんな状態は国際的にも極めて稀なものですから、いつまでもこんな事は出来ません。賃金が上がれば物価が上がって国際競争力が落ちるから賃上げは程ほどにというのが何処の国でも当たり前の状態です。
元はと言えば、円高で徹底して賃金を抑えた時代が長く、それが習慣の様になって、円安になっても賃金を上げなかったことが大きな原因なのです。
ですから、当面、春闘では大手を振って賃金を引き上げましょう。そして、賃金水準が国際的に見て「まともな水準(注)」になったら、それからは、生産性が上がった分に添った賃上げにするという、経済状況への柔軟な応が、本当は一番重要なのです。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
(注)この判定はかなり難しいものです。多分経営者が、賃上げを奨励しなくなる事で解るでしょう。客観的判定は、国際収支のバランスで決まるのです。