障害者総合福祉法 2012年2月16日(神奈川新聞社説)
提言の無視は許されぬ
法案の方向性を示す概要だが、昨夏に同部会がまとめた骨格提言をほとんど無視した内容ともいえよう。部会の委員や障害者団体は強く反発しており、徹底した再検討が必要だ。
厚労省案は、わずか4ページの簡略な中身だ。例えばサービス支給について、骨格提言は障害程度区分に代わる新たな支給決定の仕組みを求めた。これに対し、同省案は「法の施行後5年を目途に、障害程度区分の在り方について検討を行い、必要な措置を講じることとする規定を設ける」とした。現行の障害程度区分を維持したまま、部分修正のみ検討するという姿勢だ。
新法制定ではなく、障害者自立支援法の一部改正にとどめようとする同省の姿勢が表れている。
佐藤久夫部会長の整理では、骨格提言の内容60項目のうち、同省案で全く触れられていない事項が48項目にも上った。検討されているが、その内容が不明確なのは9項目。不十分ながら骨格提言を取り入れている事項は3項目にすぎなかった。
委員からは「骨格提言を無視した内容であり、到底認めることはできない」「(国と障害者自立支援法訴訟原告との間で結ばれた)基本合意に反する。国は詐欺を働くのか」などの激しい反発の声が上がったという。
骨格提言は、障害者、関係団体の代表らが一堂に会し、18回もの会合を重ねた末に一定の共通見解に達した歴史的な文書だ。
障害者の地位を保護の客体から権利の主体へと転換し、障害者権利条約の精神を実現させるものだ。提言に基づく新法は、障害者福祉を大きく前進させるものとして期待されていた。
厳しい財政状況下で、具体的なサービス支給には柔軟な対応もやむを得ないだろう。しかし、骨格提言が示した障害者の権利の在り方、制度の骨組みの具体化を法案で目指さなければ、部会を設置した意味がなくなる。
障害者らは裏切られた思いだろう。深刻な不信感、政治・行政との亀裂は、今後に禍根を残す。政府与党は骨格提言に基づく制度づくり、工程表作成に真剣に取り組むべきだ。
当事者の声無視し応益負担延命
■「障害者総合支援法」で阿部知子衆院議員 質疑の中で阿部議員は、政府側が利用者負担は原則無償の応能負担に転換したとすることに関して「原則応益負担の考え方が残っているのではないか」と指摘。関連して、本来は障害当事者個人の権利保障を柱とする障害者権利条約を批准する前提としての法整備が行なわれるべきだとした上で、政府が介護保険(40~64歳の第2号被保険者)との並びを意識して収入認定の対象を世帯主のままとしていることについて「今のようなやり方では批准できなくなる」と懸念を表明し、骨格提言の実行に向けた工程表を作るべきだと強調した。 (社会新報)