降って来るもの

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1Q84とねじまき鳥クロニクル

2018-03-14 06:18:25 | 随想

                   1Q84とねじまき鳥クロニクル

 

 孫娘に音の出るおもちゃを買ってあげようと、女房と連れ立って先日アウトレットの店を訪れた。沢山の中古のおもちゃが並んでいる中から”動作確認済!!”のラベルが貼られ、彼方此方にアンパンマンとその仲間たちを配置したピアノ型の、”おかあさんといっしょ”でよく耳にする曲が流れるおもちゃを¥800で買い求めた。

 「他に見たいものが有るからうろうろしてて」と女房が言うので、仕方なく僕は何を買うのでもなく広い店内の徘徊を始めたのだ。

 其処ら辺を歩いていると、その大きなリサイクルショップには「ブックオフ」が併設されているのが分かったので、僕は膨大な古本の棚を見ながら約束のない時間を潰そうと決めた。

 本当に其処は古本の森という風情で、若しかしたら役目を終えた本たちの霊安室のような静けさが漂い、誰も人の居ないその一角は、人間が忘れてしまった知識の墓場のような感慨さえ起こさせるような、数多の雑音の中で其処だけ静謐の中に屹立し、悠久の時を内包して鎮っているかのような佇まいだった。

 高さ2mほどの書架が向かい合わせにずらっと並ぶ本の森を巡るように、長さ10mほどの通路が3本。実業書からコミックまで、凡そ考えられるありとあらゆる分野の一通りの役目を終えた本たちが、所狭しとその左右の棚に並べられ、端の一角にはCDやゲームソフトもこれでもかとばかり置かれている。

 若しかしたら何かに出合えるかも知れないと、僕は微かな期待を膨らませて棚の上下を見渡し少しずつ左へ右へと移動を繰り返しながら、僕は古本並木の散策で割りと容易く待ち時間を解消しつつあった。

 そうこうしている時の間に間で、小説家の単行本ばかり集めて並べられた一つの棚の前に僕は釘付けになったのだ。ついに宝物を見つけ出した!!

 まさしく僕がこの作家に首ったけになった、訳もなくのめり込んでゆく契機になった、2009年発刊、3年前に文庫本で出合って一気に6冊を読破した「村上春樹」の長編小説「1Q84」が、その単行本がBOOK1からBOOK3まで3冊揃って並んでいるのを発見したのだ。

  何人も並んで長い列を作った発売当時(それがNHKのゴールデンタイムのニュースにまでなった!)の価格が、1冊¥1800。それだから3冊揃えると何と5400円の出費に為る所だが、それから8年経過しただけというのに、此の棚にはたった¥200で、つまり3冊600円で陳列されているのだ。僕は破格の、夢のような価格で、想い100%の品物を競争相手のいないオークションで悠々と落札したことになった。

 数日前に、我が町にある書店で買った同じ作家の長編「ねじまき鳥クロニクル」文庫本第1部(第3部まであるが)の価格が¥670だったから、恐ろしいほどの価格破壊を体験したことになる。

               

     

 ともあれ僕は価値の不思議に因って、最高の宝物を手に入れ、その本たちは僕の書架に並べられて第二の、本来の在るべき姿で自らのイノチを更新することになった。僕にも愛でたく大団円の結末を迎えたのだが、そんな今になっても狐に化かされたような違和感が拭えない。

 monoの価値とは?それぞれの人の価値感とは?値打ちというものについて思案すればするほど混迷は広がる。個人の裁量に任される問題で、その事の基準に確定したものは何も無いのだ!!と改めて思い知らされた出来事ではあった。

 ともあれ現在読み進めている「ねじまき鳥クロニクル」第1部から第3部までを読み終えたら、たった200円で夢のように手に入れた「1Q84」をもう一度読んでみたいと思っている。その後で、此れも古本屋で半分の価格で手に入れた同じ作者の最新の長編小説「騎士団長殺し」にとりかかろうと腹づもりしている。

 僕は今、とにかくハルキストなのだ。             03/14 07:42 まんぼ

コメント (4)
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