人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

モーツアルト「レクイエム」,バーバー「アダージョ」が流れる中で~園子音監督「ヒミズ」を観る

2012年01月19日 06時30分06秒 | 日記

19日(木).昨日はヴァイオリニスト南紫音(みなみ・しおん)について書きました.今日は映画監督・園子温(その・しおん)について書きます.新宿ヴァルト9で園子温監督の最新映画「ヒミズ」を観ました 最初に結論を言います.凄い映画です.感動しました

この作品は漫画家・古谷実が2001年から03年まで週刊ヤングマガジン誌に連載した「ヒミズ」を映画化したものです.園子温の監督映画は最近「冷たい熱帯魚」と「恋の罪」を観てただならぬ衝撃を受けていたので,こんどの作品はどうか,と期待して観ました これは将来の明るい展望がない前2作とはまったく違う作品です.なお,ヒミズとは”日不見”(不と見は漢文でいうレ点でひっくり返る)で,土の中で日のめを見ない”もぐら”のことです ストーリーの概要は次のとおりです.

15歳の中学生・住田祐一(染谷将太)は自宅の貸しボート屋で,近くに住む夜野,圭太たちと平凡な生活を送っています.一方,同級生の茶沢景子(二階堂ふみ)は,住田に恋焦がれ付きまといます 住田は,借金を作って蒸発していた父親が帰ってくると,口のききかたが悪いと言われ殴る蹴るの暴行を受けます おまけに母親は中年男と駆け落ちして一人ぼっちになってしまいます.茶沢も親から虐待を受け,家に居られない状況下にあります.住田は,父親から「お前はいらないんだよ」と罵られて,ついに切れて父親の頭をブロックで殴りつけて死なせてしまいます

”普通の”人生を諦めた住田は,それからの人生を「オマケの人生」と名付け,自分より悪い人間を探し出して自分の手で殺すことを人生の目的として街を彷徨います.茶沢はそんな住田を,まともな人間にとどめようと説得に当たります.そして,最後に,住田はそれまではねつけていた茶沢に心を開き「自首しよう」という説得を受け入れます 2人は「住田がんばれ!」「がんばれ住田!」と叫び合いながら走り続けます.監督はこの言葉に被災地への応援メッセージを込めました

園監督は3.11の大震災を受けて,急きょ,脚本を書き換えたといいます.パンフレットに監督のインタビューが載っています

「ラストシーンは特に大きく変更した部分だ.原作は非常に暗い終わり方をするが,3.11以降の終わりなき非日常を生きねばならない子どもたちのラストシーンとしては,あまりにも酷だ.それで,絶望の中で考える希望の未来みたいなことを考えていった結果,あのようなラストシーンになった.住田の”絶望”が茶沢の”希望”に敗れる.絶望に勝つというほど荘厳な感じではなく,希望に負けたという敗北感みたいなところがある」

この映画で特筆すべきは主人公の2人,住田役の染谷将太と茶沢役の二階堂ふみの体当たり演技です ピンタの応酬は本気でした.2人は第68回ヴェネチア国際映画祭で,日本人としては初の最優秀新人俳優賞(マルチェロ・マストロヤンニ賞)を受賞しました

さて,私がいつも言っているように,映画を観るときに気にかけているのは,どんな音楽がどんなシーンで使われているかということです この映画ではクラシック音楽が3曲使われていました 残念ながらパンフレットにはいっさい使用音楽について触れていません

冒頭,今回の東日本大震災の被災地の瓦礫となった海辺の町が映し出され(宮城県で撮影),そこに住田が登場します.そこで流れていたのはモーツアルトが作曲した最後の未完の大作「レクイエム」の第1曲「レクイエム 入祭文 アダージョ」です 「レクイエム」とは死者のためのミサ曲のことです.引きずるようなリズムに乗ってバセット・ホルンとファゴットが歌い始めます.この曲は,全編を通じて,この映画のテーマのごとく何回も繰り返し登場します.被災地への追悼メッセージなのでしょう

次に,貸しボート小屋を皆で協力してリニューアルした後,食べて飲んで踊るシーンがありますが,その時に流れていたのはワルトトイフェルの「スケーターズ・ワルツ」です この曲は「冷たい熱帯魚」でも使われていました.園監督はこの曲がお気に入りのようです

そしてもう1曲,住田が茶沢に父親を殺したと告白するシーンで流れていたのは,アメリカの作曲家サミュエル・バーバーの「弦楽のためのアダージョ」です 静かに流れるこの曲も「レクイエム」と同じ意味合いをもっています.この曲は住田と茶沢が「住田がんばれ!」「がんばれ住田!」と叫び合いながら走り続けるラストシーン,そしてエンドロールでも流れていました

ひょっとすると,この映画は私が今年観るであろう何十本かの映画のベストスリーに入るかも,と直感しています

 

        

コメント (4)
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