24日(月)。昨日の朝日スポーツ面に「イチロー打った~入った~懐に」という記事が載りました
21日のヤンキース対アスレチックスの試合で,イチローが第1打席で撃った打球がワンバウンドしてパーカー投手の正面を突き,ボールが胸のあたりからユニホームの中(懐)に入って送球できず,セーフになったということです パーカー投手は「一番上のボタンをとめておくべきだった」と苦笑いしたといいますから,”懐の深い”選手なのでしょう
一方のイチローは「(今後)一生に一度もないでしょう」と語ったとのこと.嘘のような出来事ですが,イチローはいつでも真実一路ーです
閑話休題
昨日は雨の中、紀尾井ホールに出かけました ”暑さ寒さも彼岸まで”とはよく言ったもので,昨日は長袖がちょうどよいくらいの肌寒い一日になりました
同ホールのレジデンス・オーケストラ「紀尾井シンフォ二エッタ東京」の第86回定期演奏会を聴きました
オ―ル・モーツアルト・プログラムで①交響曲第36番ハ長調”リンツ”K.425」、②クラリネット協奏曲イ長調K.622」、③交響曲第39番ホ長調K.543」の3曲です。指揮はトレヴァー・ピノック、②のクラリネット独奏はパトリック・メッシ―ナです
チケット購入の出足が遅れたため,自席は2階C4列1番と,通路から一番遠い左端の席です 会場はほぼ満席.オケがスタンバイし,コンサートマスターの長原幸太が登場します.一昔前はひょろっとしていたのに,最近はすっかり貫録が出てきました
オケは向かって左から第1ヴァイオリン,ヴィオラ,チェロ,第2ヴァイオリンと,ヴァイオリンが向かい合う”対向配置”を取ります.管・打楽器は左からホルン,オーボエ,ファゴット,ティンパ二,トランペットと並び,中央最後列にコントラバスが控えます
総勢35人の少数精鋭です.モーツアルトの演奏にはこれくらいの規模がちょうどいいと思います
チューニングが済んで,いよいよ指揮者トレヴァー・ピノックの登場です.ミスター・ビーンではありません.写真を見て勘違いしないように ピノックは1970年代からイギリスのピリオド楽器演奏をリードしてきたチェンバロ奏者・指揮者として有名です
ピノックの合図で,交響曲第36番”リンツ”の第1楽章が始まります.アダージョの序奏から入り,若干暗い雰囲気が続きますが,途中から視界が開け明るい曲想が展開します ピノックは速めのテンポでオケをグイグイ引っ張ります.第2楽章はアダージョ楽章にもかかわらず,トランペットとティンパ二が鳴り響き,意外性を感じさせます
曲の途中で,男性客が急に咳き込んで退席しました.お気の毒様でした
咳には正露丸がいいですよ.効かないと思いますけど
第3楽章はメヌエットなのでテンポを落とすと思ったら,それまでの速めのテンポで押し通しました オーボエのソロが美しく響きます.第4楽章プレストは文字通り最速のテンポで突っ走ります.会場いっぱいの拍手とブラボーを受けてピノックは満面の笑みを浮かべています
オーボエ,トランペット,ティンパ二が退席して,代わりにフルートが入ってきました.そして,ピノックに伴われてクラリネットのメッシーナが登場します.かなり背が高く大柄な人です フランス・ニース生まれの彼はパリ音楽院,クリーヴランド音楽院などで学び,現在,フランス国立管弦楽団の首席クラリネット奏者を務めています
ピノックのタクトで「クラリネット協奏曲」の第1楽章アレグロが始まります.ピノックはリンツと同様,速めのテンポを取ります メッシーナは明るい音色でメロディーを奏でます.この曲は第2楽章アダージョが白眉です.最初からクラリネットが弱音で入ってきますが,オケが絶妙のバランスで付けています
いつ聴いても天上の音楽です.途中,クラリネットが主旋律をピアニッシモで演奏するところがありますが,メッシーナのピアニッシモは最高です
よくコントロールされた美しい音でモーツアルトの”天上の音楽”を奏でていました
第3楽章アレグロは,一転喜びに満ちた快活な音楽が展開します.メッシーナは身体全体を使って生き生きと演奏します
終演後,何度も舞台に呼び戻されたピノックとメッシーナは,お互いに肩を叩きあって,いかにも嬉しそうにしていました
休憩後は,いよいよ私がすべての交響曲の中で一番好きな「交響曲第39番変ホ長調K.543」です.この曲は第40番(ト短調K.550),第41番(ハ長調K.551)とともに1788年の夏に成立したといわれています この曲はオーボエが居ないのでクラリネットでチューニングをします
ピノックのタクトが振り下ろされ第1楽章が始まります.この曲も,最初の行進曲風のアダージョこそはゆったりとしたテンポを取りますが,徐々にテンポアップして彼独自のテンポにもっていきます 第2楽章アンダンテも同様に速めのテンポを取ります.さて,問題は第3楽章です.私はこの楽章が大好きで,できればテンポを落としてじっくりと聴かせてほしいのです.しかし,ピノックは甘くはありませんでした
この楽章も最速のテンポで突っ走っていきます.レントラ―風のトリオではクラリネットが気持ちの良いソロを吹くのですが,これも最速のテンポです.かと言って,説得力がないかと言えば,まったく逆で,ピノックのテンポは考え抜かれた上での設定です
最終楽章のフィナーレを迎え,ますますテンポアップしてオケを煽ります
終演後,ブラボーと拍手の中,ピノックは弦楽器の首席クラスの6人と握手,管楽器奏者を立たせて賞賛します
ピノックのモーツアルトの演奏の特徴は”速めのテンポでメリハリをつける”スタイルということでしょう.この日のK.425とK.543の演奏は,私が今まで聴いた中で最も速い演奏でした.そのテンポについて素晴らしい演奏をしてくれた紀尾井シンフォニエッタ東京のメンバーに惜しみない拍手をおくります