3日(日)。昨日の日経朝刊「文化」欄に日経編集委員の小池潔さんが「吉田秀和 存在感なお~音楽評論の巨人 生誕100年」と題する記事を書いています その中に次のような一節があります
「音楽評論家、諸石幸生氏は『評論は本来、文学の域に達すべきものだが、聴き手は解説としての関心が高い。そうなった責任は評論家側にもある』と語る。」
先日もこのブログで「コンサートのプログラムにおける曲目解説に芸術はいらない」と書いたばかりです曲目解説は、あくまで「これからその曲を聴く人の手助けになる知識を与えるもの」でなければならないと思います したがって、曲の時代背景や性格などを分かり易く解説して欲しいと思います。事実関係を中心に書けばよいのですから、必ずしも音楽評論家が書く必要はないと思います
一方、コンサートにおける音楽評論は「そのコンサートが終わってから、自分がその演奏をどう聴いたかを主観を交えて披瀝するもの」でしょう ここが音楽評論家の出番です。しかし、ネットが発達した現代においては、コンサートに関する感想や批評が音楽評論家を抜きにして日常的に飛び交っています このブログもその一つです。個人的なことを言えば、音楽評論家の専門用語で固めた訳の判らないコンサート評を読むよりも、自分で観て聴いた演奏を自分の視点で書いている方がよほど楽しいのです したがって、私はプロの音楽評論家が書かれたものを含めて他人の書いたブログは見ません
閑話休題
いよいよMETライブビューイング2013-14シリーズが始まりました このシリーズは、今年10月からニューヨークのメトロポリタン歌劇場で上演されたオペラのうち主要な演目をライブ映像で世界に公開するもので、日本では11月2日から来年6月6日までの間に10作品が各1週間ずつ上映されます 今シーズンの幕開けはチャイコフスキーのオペラ「エフゲニー・オネーギン」です
昨日、上映開始時間ちょうどの朝10時に新宿ピカデリーの7階3番スクリーンに滑り込みました 自席は先日予約したJ列4番です。このライブビューイングも世間に知られてきたせいか、会場はシニア層を中心に結構お客さんが入っています
オペラ「エフゲニー・オネーギン」は、チャイコフスキーがプーシキンの原作を基に1877~78年にオペラ化したものです
キャストは、ヒロインのタチヤーナにMETの看板ソプラノ歌手アンナ・ネトレプコ、タイトル・ロールのオネーギンにバリトンのマリウシュ・クヴィエチェン、オネーギンの友人レンスキーにテノールのピョートル・ベチャワ、タチヤーナの妹オリガにメゾソプラノのオクサナ・ヴォルコヴァ他です 指揮はサンクトペテルブルクのマリインスキー劇場を世界的なレヴェルに引き上げたワレリー・ゲルギエフです
演出はイングランド生まれのデボラ・ワーナーですが、公式ガイドブックによると、演出の途中で健康を害し、フィオナ・ショウがワーナーの意向を受け継いで舞台づくりを行ったようです。オーソドックスな演出・舞台づくりで安心して観られます
物語は、社交的な生活に飽きた浮気な性格のオネーギンと、自然豊かな田舎育ちで夢見る文学少女のタチヤーナとの実らない恋を描いたものです この曲は観るのも聴くのも初めてです
このオペラはタイトルこそ「エフゲニー・オネーギン」ですが、本当の主役はタチヤーナであることは明らかです それを確信させるのがアンナ・ネトレプコの歌であり演技です 第1幕ではオネーギンに熱を上げて熱烈な手紙を書きながら歌う無垢な少女を、そして数年後に人妻となって社交界の淑女に変身した大人の女性を、見事に歌い演じ分けます 彼女の最大の特徴は役に成りきるということです
このライブビューイングは、休憩時間に指揮者や歌手にインタビューするのですが、ネトレプコを見出して世に送り出したワレリー・ゲルギエフは、歌手デボラ・ボイトの質問に答えて「彼女が20歳くらいの時に見出したが、その当時、彼女がほんの2~3週間で大きなオペラのヒロイン役をマスターした裏に、どれ程の努力があったかを知る者はいない」と語っています
そして、タイトルロールのオネーギンを歌ったクヴィエチェンの深みのあるバリトンと、見事な”女たらし”ぶりは適役です 彼はMETオペラでも日本の新国立オペラでもモーツアルトの「ドン・ジョバンニ」のタイトルロールを歌っていますが、役柄としては共通しています 要するにイケメンのプレイボーイですが、声にも演技にも魅力がなかったら務まりません。セクシーです
もう一人、レンスキーを歌ったベチャワのよく通るテノールと生真面目な演技 彼は何を歌わせても素晴らしい さきのライブビューイングではヴェルディの「リゴレット」で、女たらしのマントヴァ公爵を歌い演じていました
唯一、事前に聴いて知っていたのは第3幕冒頭の舞踏会シーンの「ポロネーズ」ですが、華やかな舞踏会に相応しい華麗な音楽です 今でもあのメロディーが頭の中をグルグル回っています
ところで、休憩中のインタビューの中に「いま上演中の『ノルマ』の公演~」という発言がありました。ベッリーニの「ノルマ」のことを言っているのですが、「ノルマ」が大好きな私としては滅多に上演されない作品だけに、是非ライブビューイングで取り上げて欲しい演目です 残念ながら今シーズンではパスされているようですが
10分休憩2回、インタビュー等を含めて3時間47分の長丁場、11月8日(金)まで上映中です これから今シーズンの全10作品を観るので、帰りがけに劇場のショップで日本語版の公式ガイドブックを購入しました。これで予習は完璧