7日(木)。昨日の朝日朝刊にカジモトの「アンドレ・ワッツ来日中止のお知らせ」広告が載っていました 中止の理由は「本人の手首の負傷による」としています。11月19日、同21日、同23日のリサイタルはすべて中止で、払い戻しに応じるとのこと。私の関心は次の2行にあります
「なお東京交響楽団11/15(金)東京、11/17(日)新潟公演についてはソリストを変更して行う予定です」
ワッツは11月15日の東響オペラシティ・シリーズ定期公演でブラームスの「ピアノ協奏曲第2番」を弾くことになっていました 近々、東京交響楽団からワッツの代演者についてダイレクト・メールが届くと思いますが、11月か12月に他のオケでブラームスの「第2ピアノ協奏曲」を弾く予定のピアニストがいればその人が選ばれるような気がします。誰かいるか
閑話休題
昨夕、浜離宮朝日ホールで萩原麻未(ピアノ)と成田達輝(ヴァイオリン)のデュオ・リサイタルを聴きました プログラムは①ベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調”春”」、②ストラヴィンスキー「協奏的二重奏曲」、③酒井健治「カムス」、④グリーグ「ヴァイオリン・ソナタ第3番ハ短調」です
萩原麻未は2010年の第65回ジュネーヴ国際コンクール・ピアノ部門優勝者、成田達輝は2012年のエリザベート王妃国際コンクール第2位という実力者コンピです
会場は8割方埋まっている感じです。自席は1階13列14番、センターブロック右通路側席です。拍手に迎えられて萩原麻未が黒を基調にシルバーのベルトラインを配したオトナチックなドレスで登場します もちろん成田君も上下・黒です
1曲目のベートーヴェン「ヴァイオリン・ソナタ第5番ヘ長調”春”」(スプリング・ソナタ)は、1800年から翌年にかけて作曲された傑作です ベートーヴェンというと、小学校の音楽教室に飾られた肖像画のように、しかめ面した小難しい音楽を想像しがちですが、この曲は明るく、優しく、聴いていると幸せになる、そんな名曲です
伸び伸びとヴァイオリンを弾く成田に対し、ビロードの上を水玉が転がるような鮮やかなピアノを弾く萩原麻未が対等に対峙します モーツアルトの時代の「ヴァイオリン・ソナタ」は、あくまでも「ヴァイオリン伴奏を伴ったピアノ・ソナタ」という性格の曲でしたが、ベートーヴェンのそれは「ヴァイオリンとピアノのためのソナタ」で、両方の楽器が対等に演奏されます この二人の演奏を聴いていると、そうしたことがよく分かります
私は萩原麻未ファンなので、どうしても集中的に彼女の演奏を聴いてしまいます 彼女の演奏をひと言で言えば「直感的に弾き切る躍動感」です。一つ一つのフレーズが生き生きとしています。いま生まれたばかりの音楽がそこにあります
2曲目のストラヴィンスキー「協奏的二重奏曲」は1931年から翌年にかけて作曲されました。1913年のバレエ音楽「春の祭典」の前衛的な音楽づくりから、新古典主義に転じた時代の所産と言われる5楽章構成の曲です
第1曲「カンティレーネ」はせわしない動きの曲で、「これが新古典主義?まるで古典音楽に殴り込みをかけるような曲じゃないか」と思うほど刺激的な音楽です。第5曲「ディティラム」は酒神バッカスへの賛歌ですが、題名と違って静かで清らかな曲で、さすがは皮肉屋のストラヴィンスキーだな、とほくそ笑んでしまいます 成田はベートーヴェンよりもストラヴィンスキーの方が個性を発揮しているような気がします
休憩後の1曲目は、成田達輝がオーロラを題材とした曲を若手作曲家・酒井健治に依頼して出来た「カスム」です。プログラムに書かれた作曲者自身の解説によると「カスムは古代ローマではオーロラを意味していたが、現在では亀裂を意味する。それに触発されて、美しいビロードのような音楽というよりも、静寂をつんざく短いパッセージをモチーフに書いた」としています。5分程度の短い曲です
それぞれ独奏によるカデンツァがありますが、成田のヴァイオリンは七色に輝き、萩原麻未のピアノは自由自在に躍動します 演奏後、二人が客席にいる作曲者に舞台に上がるよう促しますが、若き酒井氏は「いや、こんな格好だから」と普段着を指差して遠慮します。結局、成田に引き上げられ、一緒に拍手を受けていました
さて、最後のグリーグ「ヴァイオリン・ソナタ第3番ハ短調」は1886年から翌年にかけて作曲された3楽章から成る曲です 第1楽章は冒頭から情熱がほとばしる力演です。第2楽章はファンタジックなピアノ独奏で始まります。第3楽章は舞曲風の変化のある曲です
私がこの曲を聴くのは今回が初めてです。グリーグってこんな激しい情熱的な曲を書いたのか、とあらためて感心しました
鳴り止まない拍手 とブラボーに、アンコールを2曲演奏しました。1曲目はストラヴィンスキー「ペトルーシュカ」から「ロシアの踊り」を鮮やかに、2曲目はグリーグの「抒情小曲集」より1曲を静かな感動とともに演奏しました
終演後、ロビーでサイン会があったので列に並びました 「本日CDをお買い上げの方に限ってサイン会に参加できます」ということだったのですが、賢い私は10月11日に池袋の東京芸術劇場で開かれた「エル・システマ」のコンサートの際に買ったCD(萩原麻未の初CD)を持っていたので、それを持参してきたのです あの時、彼女はグリーグ「ピアノ協奏曲」を演奏しました(CD収録曲)。終演後、指揮者のパレデスと萩原麻未のサイン会があり、二人からサインをもらったのですが、最初にパレデスがど真ん中にデカデカとサインをしたので、萩原麻未のサインするスペースが狭くなってしまいパレデスを恨みました 下の写真がそのCDジャケットで、彼女のサインは左上の太字です
サインの順番は5番目くらいだったのですが、係りの人が「萩原麻未さんのサインの方はこちらにお並びください」と案内してくれたので、何と私がトップ・バッターになりました 2人のアーティストが所定の位置に座りいよいよサイン会が始まりました
前回、池袋でもらったサインが分かるようにCDジャケットを見開きにして、裏面にあたる写真にサインをしてもらうことにしました。
tora:(CDジャケットのサインを見せて)これは池袋でいただいたサインです。
麻未:(自分のサインを見て)あ~。ありがとうございます。
tora:(サインを)ありがとうございました。
彼女はニコッと笑ってくれました それにしても彼女のサイン、音符のマーク以外は1カ月前とほとんど違いますね
長蛇の列を後に気分よく家路に着きました。素晴らしいコンサートでした