16日(土)。昨夕、東京オペラシティコンサートホールで東京交響楽団オペラシティシリーズ第76回定期演奏会を聴きました オール・ブラームス・プログラムで、①運命の歌、②悲歌、③ピアノ協奏曲第2番変ロ長調です
指揮は大友直人、③のソリストはケガにより出演出来なくなったアンドレ・ワッツの代演、韓国のクン=ウー・パイクです
会場に入ると正面に「出演者変更のお知らせ」が掲げられています。「出演予定のアンドレ・ワッツは、転倒した際に手首を負傷し、医師の判断により12月末までの公演を全てキャンセルすることになった。代わって、白建宇(クン=ウー・パイク)が出演する」という内容です
1曲目の「運命の歌」は1868年夏、ブラームスは当時滞在していた北海に近いオルデングルクでヘルダーリンの詩と出会い、その感動のあまり書き上げたと曲です
まず東響コーラスの面々が舞台後方にスタンバイします。向かって左サイドに女声陣約70名、右サイドに男声陣約50名という陣容です。オケが入場し、コンマスの大谷康子が拍手に迎えられて登場します。指揮者・大友直人はいつも通りタクトを持たずに指揮をします
冒頭部分はオケのみで演奏されますが、これが静かな感動を呼ぶ美しいメロディーです そしてコーラスが入ってきますが、短いながらも感動的な曲です
2曲目の「悲歌」は、シラーの詩に拠っていますが、ブラームスの友人で画家のアンセルム・フォイエルバッハの死を悼んで作曲されました タイトルこそ「悲歌」ですが、曲想としてはむしろ明るく、歌詞を無視して聴いている限り、希望さえ感じることができます
ブラームスの合唱曲はCDで何枚か持っていますが、まともに聴いたことがありません この日、短いながらも美しく感動的な合唱曲を生で聴いて、あらためてブラームスの良さを再認識しました。アマチュア合唱団である東響コーラスの皆さんに感謝です
休憩後の「ピアノ協奏曲第2番変ロ長調」は、1881年11月にブラームス自身のピアノ、アレクサンダー・エルケル指揮ブタペスト・フィルハーモニーによって初演されました ブラームスはベートーヴェンに匹敵するほどピアノの名手だったと言われているので、さぞかし名演奏が繰り広げられたことでしょう
ピアノ協奏曲は通常3楽章から成りますが、この曲は交響曲のように4楽章から成ります。曲全体としては「ピアノをソリストに迎えた交響曲」といった印象です
ソリストのクン=ウー・パイクが登場し、大友の合図で第1楽章が始まります。彼の演奏の特徴は「強靭なピア二ズム」とでも言うべき力強いピアノです 揺るぎない確信のもと「これがブラームスだ
」と強く主張します。第1楽章があまりも圧倒的な迫力で終わったことから、会場の一部から拍手が起こりました
大友=パイクのコンビは、第2楽章を間を空けずに演奏します。集中力を絶やさないためだと思われます
第2楽章でも強靭さに変化はありません。パイクは確信を持って音楽を進めます。第3楽章に入ると、冒頭部分でチェロの独奏がありますが、首席の西谷牧人の演奏はメロディーをたっぷりと歌わせた素晴らしいものでした 第3楽章から第4楽章へは再度、間を空けず続けて演奏しました。最後まで聴いて、演奏を振り返ってみると、前半の2楽章と後半の2楽章とに大きく2つに分けて演奏したことに必然性を感じます
最後の一音が鳴り終わるや、会場一杯のブラボーと拍手がパイクを包み込みました 彼は大友とハグし、演奏が成功裏に終わった安堵感からか満面の笑みを浮かべて聴衆の歓声に応えました。そしてチェロの西谷牧人を中央に誘い握手をします
韓国の演奏家に惜しみのない拍手を送る日本の聴衆。コンサート会場に竹島問題も日韓問題もありません
この日、ワッツが聴けずパイクの演奏が聴けたのは、かえって良かったのではないか、と思います 少なくとも私にとっては、以前からパイクを聴きたいと思っていたので、今回の代演は絶好の機会になり、予想通り素晴らしい演奏をするピアニストであることが分かりとても良かったと思います