11日(月)。昨日、飯田橋のギンレイホールで映画の2本立てを観ました 今日は2010年アメリカ映画「ビル・カニンガム&ニューヨーク」について書きます
ビル・カニンガムは1928年生まれ。ハーヴァード大学中退後ニューヨークに渡り帽子サロンを開きます兵役後、シカゴ・トリビューンでファッション記事を書き始め、ゴルティエなどのブランドをアメリカに紹介します その後、ニューヨーク・タイムズに移り、ニューヨークの街でごく普通の人々のファッションを写して紹介した名物コラム”ON THE STREET”を連載します
この映画は1年中、青い作業服に身を包み、50年以上にわたり自転車でニューヨークの街に繰り出して市井のファッション・スナップを撮り続ける82歳の精力的なファッション・フォトグラファーを追ったドキュメンタリーです
彼の私生活は知られていませんでした 彼は50年以上もカーネギーホールの上のスタジオアパートで暮らしていますが、部屋にはキッチンもクローゼットもありません。あるのは小さなベッドと、これまで撮影してきた全ネガフィルムを収容したキャビネットだけです 蛇足ですが、そのアパートには、かの大指揮者レナード・バーンスタインも住んでいたとのこと
彼はパーティーに出かけてセレブや有名人を撮りますが、「一杯いかがですか?」「あなたも召し上がりませんか?」という誘いには乗りません。「水1杯も飲まないようにしている」と語っています また、他の専門誌に写真が掲載されても一切お金を受け取りません。小切手を目の前で破り捨てたという証言も紹介されます あくまでニューヨーク・タイムズの給料だけで生活します。ニューヨーク・タイムズで紹介されたファッションが数か月後に流行り出すというエピソードもあります
ファッション界の人々は彼に撮られることが名誉なのです。しかし、彼を知らない者からは冷たい仕打ちを受けます。たまたま街で出くわした女子学生数人にカメラを向けると「無断で撮るな!そのカメラぶち壊してやるからな」と罵声を浴びせられます。ビルは肩をすくめ「こういうこともあるよ」とでも言いたげに、次の被写体を探すため自転車を走らせます
インタビュアーは個人的なことに立ち入って訊きます。「今まで恋愛の経験はありますか?」。ビルは「ナッシング」と答えます。「後悔していませんか?」と問われると「後悔はしていない。私はファションと結婚したようなものだ」と答えます 正直なところ「楽しくもあり、寂しくもあり」ではないかと推測します
ひとつ気が付いたのは、デジタル・カメラ全盛の現代に、いまだにフィルム・カメラ(ニコン)をぶら下げて撮影していることです デジタルでは表現できない何かがあるのでしょうか。だから狭い部屋がネガフィルムのキャビネで占領されてしまうのです この映画ができた当時は2010年なので、それから3年経った今、彼は相変わらずフィルム・カメラを使用しているのかどうか、気になるところです
愛すべき82歳のプロフェッショナル 同じ年齢になって、あれだけ精力的な活動ができるだろうか