人生の目的は音楽だ!toraのブログ

クラシック・コンサートを聴いた感想、映画を観た感想、お薦め本等について毎日、その翌日朝に書き綴っています。

飯野ビル ランチタイムコンサートで今村洋子のピアノを聴く/中川右介著「怖いクラシック」を読む

2016年05月19日 07時32分51秒 | 日記

19日(木)。わが家に来てから599日目を迎え、テーブルの下で明日のわが身を考えるモコタロです

 

          

              来週の伊勢志摩サミットが気がかりだ・・・嘘だピョーン 

 

  閑話休題  

 

昨日、内幸町の飯野ビル1階エントランスロビーで第50回ランチタイムコンサートを聴きました 出演は武蔵野音大院卒の今村洋子さんです。演奏曲目は①ショパン「エチュード変イ長調”エオリアン・ハープ”」、②同「スケルツォ第2番変ロ短調」、③同ワルツ変ニ長調”子犬のワルツ”」、④ラフマニノフ「楽興の時」より第1番変ロ短調、⑤同「同」第3番ロ短調、⑥同「同」第4番ホ短調です

 

          

 

12時5分開演なので15分前にロビーに行ってみたのですが、すでに何人もの人が椅子に腰かけていました それでも前から2列目中央の席を確保しました

時間になると主催者側の挨拶があり、「今回のランチタイム・コンサートはお陰様で50回目を迎えた もともとは旧・飯野ホールに備え付けてあった『ベーゼンドルファー』を無駄にしないようにと、新しいビルが出来た際にロビー・コンサートをやろうということで始まったものである」との説明がありました 以前 飯野ホールの支配人K氏に聞いたところ、「旧・イイノホールのベーゼンドルファーを採用した時はピアニストの深沢亮子さんにアドヴァイスをもらったが、新しいホールに新しいピアノを採用する時も深沢さんに相談し、結局新しいベーゼンドルファーを採用した」とのことでした

今回のピアニスト今村洋子さんはマリン・ブルーの鮮やかなドレスです 演奏に先立つ挨拶の中で、「ベーゼンドルファーはオーストリアのメーカーのピアノですが、ここにあるピアノは『ベーゼンドルファー・インペリアル』と言って、低音部が普通のグランドピアノよりもオクタープ広く取ってある独特のピアノです。こういう素晴らしいピアノを弾く機会を与えていただき感謝しています」と語っていました 後で実際にピアノの鍵盤を見てみましたが、最低音部の7鍵がすべて黒色になっていました

前半はショパンの曲が3曲演奏されます。最初に「エチュード変イ長調”エオリアン・ハープ”」を演奏しました この曲については今村さんから「風が吹くと自然に鳴り出すと言われるエオリアン・ハープに因んで、シューマンが名付けた曲名です」という説明がありました 音と音の繋がりがまるでハープのようです。ロビーの雑踏の中を美しい調べが響きわたります

次に「スケルツォ第2番変ロ短調」を演奏します。この曲については「ベートーヴェンは4つの楽章から成る交響曲の第3楽章に『スケルツォ』を置きましたが、ショパンはそれだけを抜き出して単独の曲として作曲しました」という解説がありました 冒頭の叩きつけるような和音は、ベートーヴェン時代の「おどけた」とか「諧謔的な」といった意味の『スケルツォ』とはまったく性格が異なります 今村さんのメリハリの効いた演奏はロビーを行きかう人々の足を止めていました

次に「ワルツ変ニ長調”子犬のワルツ”」を演奏します 「子犬が自分のしっぽをくるくると追いかけ回す様子をみて、後の人が名付けたものです」という解説がありました

後半はラフマニノフの「楽興の時」から3曲が演奏されます。最初は「第1番変ロ短調」です 「『楽興の時』はシューベルトが作っていますが、彼の曲は楽しい曲想なのに対して、ラフマニノフのそれは ほの暗い感じの曲です。彼がこの曲を作曲した時は経済的に苦しい時代でした」という解説がありました。ゆったりしたメロディーが奏でられます。次の「第3番ロ短調」もゆったりした曲想で低音部に乗って高音部が静かに歌います 一転「第4番ホ短調」では速いパッセージで駆け抜けます

今村さんはピアノの演奏も良かったのですが、曲目の解説も非常に分かり易く好感が持てました 人前で弾く機会も多いのでしょう。ある程度”場慣れ”しているようにお見受けしました

こうした無料のコンサートは企業メセナ(社会的貢献)として高く評価すべきものです 飯野海運とイイノホールには これからもずっと続けてほしいと思います

 

   も一度、閑話休題  

 

中川右介著「怖いクラシック」(NHK出版新書)を読み終わりました 著者の中川右介氏は1960年生まれ、早稲田大学第二文学部卒。出版社アルファベータ代表取締役編集長として音楽家や文学者の評伝などを編集・発行してきました

 

          

 

この本の主眼は、「クラシック音楽は今や『癒しの音楽』と喧伝されるようになっているが、その王道は『怖い音楽』なのだ 父、死、孤独、戦争、国家権力・・・名だたる大音楽家たちは、これらの『恐怖』と格闘し、稀代の名曲を作り上げて来た。そこで、モーツアルトからショスタコーヴィチに至るまで『恐怖』をキーワードに西洋音楽の歴史を辿ることとする」というものです

著者は「はじめに」の中で、この本のタイトルについて、

「本書の署名を見て、中野京子氏のベストセラーシリーズ『怖い絵』を思い出す方も多いだろう。もちろん、この本は、中野氏の一連の本からヒントを得ての企画である」

と、正直に告白しています さらに、

「『音を楽しむ』と書いて『音楽』という。もっともこれは日本語(もとは中国語)だからこそで、英語やドイツ語の「music」や「Musik」に、『音』とか『楽しむ』という意味はない 一語で『音楽』という意味の言葉になる」としてわれわれ一般人の先入観を排除しています

著者は8つの恐怖を取り上げ、それぞれに該当する作曲家と作品を紹介しています。すべてをご紹介するわけにもいかないのでいくつか選んでみます

第1の恐怖「父」 モーツアルトによる『心地よくない音楽』の誕生

著者はここで、ピーター・シェーファーの映画「アマデウス」におけるオペラ「ドン・ジョバンニ」第2幕のクライマックスで宴会に騎士長の亡霊が出てくるシーンを例に解説します

「モーツアルトは指揮しながら、恐怖に慄いている。それを見たサリエリは、騎士長の亡霊は、モーツアルトが怖がっていた父親のメタファーだと気付く ドン・ジョバンニは『地震、雷、火事、親父』のひとつ、『父親は怖い』という音楽なのだろうか」

モーツアルトが一晩で書いたという「ドン・ジョバンニ」の序曲の冒頭の和音を聴くと、確かに「怖い」と感じます 何かとんでもない悲劇が起こる前兆のような恐怖の音楽です しかし、このオペラは悲劇ではなく喜劇(ドラマ・ジョコーソ)です。そこが一筋縄ではいかないモーツアルトのモーツアルトたる所以でしょう

第2の恐怖「自然」 ベートーヴェンによる「風景の発見」

ここでは、ベートーヴェンの交響曲第6番「田園」の第4楽章「雷雨、嵐」を取り上げています。著者は次のように語っています

「やがて市民階級のための演奏会が登場する。その最初期も心地よい音楽が演奏されていたが、ベートーヴェンの登場により、『重苦しいもの、激しいものが、至高の芸術である』ということになる その過渡期に生まれたのが、『田園交響曲』と『第5番』だった

この本は、単にどんな作品が「怖い音楽」なのかを解説するにとどまらず、上記のように、その作品の歴史的な位置づけなども併せて解説しているので、興味が拡大し勉強になります

第3の恐怖「狂気」 ベルリオーズが挑んだ「内面の音楽化」

著者はここでベルリオーズの「幻想交響曲」の第4楽章「断頭台への行進」について語ります。最初にベルリオーズ自身の書いた曲の解説を引用します

「彼は夢の中で恋人を殺してしまう。死刑を宣告され、刑場にひかれていく。その行進は、時に憂鬱で荒々しく、時にきらびやかに、とくには厳粛に、そして間断なく重い足音を伴って進んでいく 最後に一瞬、固定楽想が閃く。それは最後の愛の思いのように斧の落下によって遮られる

そして次のように解説します

「1789年に始まったフランス革命では国王ルイ16世とその王妃マリー・アントワネットをはじめ、多くの者が断頭台で処刑された その大革命から40年近くが過ぎた1830年、『断頭台』は芸術あるいは娯楽としての音楽になった

著者は、「断頭台への行進」の後に来る第5楽章「サバトの夜の夢」も相当”怖い音楽”だとしていますが、聴く限り、グロテスクな音楽で本当に怖いと思います

この本では以下、第4の恐怖「死」としてショパンの葬送行進曲を、第5の恐怖「神」としてヴェルディのレクイエムを、第6の恐怖「孤独」としてラフマニノフとマーラーの音楽を、第7の恐怖「戦争」としてヴォーン・ウィリアムズの音楽を、第8の恐怖「国家権力」としてショスタコーヴィチの音楽をそれぞれ取り上げています

音楽の歴史を「恐怖」という独特の視点から語った非常に興味深い本です クラシック音楽にかなり詳しい人にも、入門者にも自信を持ってお薦めします

【追伸】

この本にミスプリを見つけました。123ページの後ろから6行目です

「ショパンがパリで暮らし始めたのは1830年の七月革命の1年後だったが、亡くなったのは1948年の2月革命の1年後だ」

言うまでもなく、亡くなったのは”1848年”の2月革命の1年後の1849年です ”いや~よく”見つけたね、と言われるか、な

コメント
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