20日(金)。わが家に来てから記念すべき600日目を迎え、かしこまって挨拶をするモコタロです
tora家に来てからもう600日も過ぎたんだって これからもよろピク!
閑話休題
昨日、築地の浜離宮朝日ホールで「浜離宮ランチタイムコンサート ピアノ・トリオ~珠玉の室内楽」を聴きました プログラムは①モーツアルト「ピアノ三重奏曲第7番ト長調K.564」、②チャイコフスキー「ピアノ三重奏曲イ短調”偉大な芸術家の思い出に”」です 演奏はヴァイオリン=豊嶋泰嗣、チェロ=富岡廉太郎、ピアノ=菊池洋子です
自席は1階最後列の一番端っこです 会場は文字通り満席 開演に当たり新日本フィルのソロ・コンマス豊嶋泰嗣氏がマイクを持って登場、挨拶します
「以前このホールで演奏した時も思ったのですが、このホールは音響が素晴らしい 今回はピアノ三重奏曲を2曲演奏しますが、ピアニストの菊池洋子さんとチェロの富岡廉太郎さんには 是非共演したいということで私が声を掛けました 共演は今回が初めてですが、今後このメンバーで演奏できたらと思っています 1曲目のモーツアルトの作品はモーツアルトが作曲した7つのピアノ三重奏曲の最後の曲です 素晴らしい音楽で、もっと演奏されても良いのではないかと思っています 一方、チャイコフスキーのピアノ三重奏曲の方は、『昼間からビーフステーキ』という感じのベビーな曲です それでは最後までお楽しみいただきたい」
豊嶋泰嗣氏といえば十数年前に すみだトリフォニーホールで、故・園田高弘氏と組んで演奏したベートーヴェンのヴァイオリン・ソナタ全曲演奏会が忘れられません。とくに初期のソナタの軽妙洒脱な演奏は円熟の極みでした
豊嶋氏が一旦舞台袖に引き上げ、三人の演奏家が登場します。菊池洋子は鮮やかなローズ・レッドのドレスです この人は背丈がありスマートなので何を着ても映えます
この曲はここ数日、ウィリー・ボスコフスキーのヴァイオリン、ニコラウス・ヒューブナーのチェロ、リリー・クラウスのピアノによる演奏で予習しておきました
この曲は、豊嶋氏の解説にもあった通り、モーツアルトのピアノ三重奏曲の中では最後の曲です 1788年10月27日にウィーンで完成したということですから、モーツアルトの死の3年前の年に当たります。この年は経済的には借金生活のどん底にあった反面、6月から8月までの約1か月半の間に三大交響曲(第39番K.543、第40番K.550、第41番K.551)が作曲された”豊潤な年”でした 上記のCDの解説によると、このK.564のピアノ三重奏曲はもともとピアノ・ソナタとして構想したものにヴァイオリンとチェロのパートを付け足したらしいということです しかし、実際に聴いてみると、「ピアノ・ソナタ」から構想した曲というよりも、「ピアノとヴァイオリンのためのソナタ」にチェロを加えて作曲したのではないか、と思いました いずれにしても、とても三大交響曲を作曲した同じ年に作られたとは思えないほど、曲自体に複雑さがなく単純で明るい表情に溢れています
”単純で明るい”ということでは、もともとモーツアルトの曲は、10代で作ったのか、20代で作ったのか、30代で作ったのか分からないところがあります それは、いかにモーツアルトが少年時代から円熟していたかという証左に他なりません
モーツアルト国際コンクール優勝者の菊池洋子のピアノが軽やかに歌い、豊嶋泰嗣のストラディヴァリウスが優しく奏で、東京シティ・フィル客員首席奏者・富岡廉太郎のチェロがそっと寄り添います
豊嶋氏の言われた通り、この曲はもっと取り上げられても良い名曲だと思います
休憩後は、チャイコフスキー「ピアノ三重奏曲イ短調」です この曲は「偉大な芸術家の思い出に」というサブ・タイトルが付いていますが、ロシアの偉大なピアニストであるアントン・ルービンシテインの弟ニコライ・ルービンステインが45歳の若さで他界したのを偲んで作曲したものです
ニコライはチャイコフスキーの身の回りの世話するなど何かとチャイコフスキーの力になった人ですが、チャイコフスキーが 彼に助言を求めることなくピアノ協奏曲第1番を作曲した時には、曲を酷評し、初演も拒否しています 本人に言わせれば「あれほど普段から面倒をみてやったのに、何の相談もなく作曲して、それを初演してくれと言うなどもってのほかだ」ということだったのでしょう。現代に置き換えれば、「あれほど経済援助をしてきたのに、最近はまったく言うことを聞かず、ミサイル開発に勤しんでいる北朝鮮はけしからん」という金正恩に対する中国の習近平首相の言い分と同じだったのでしょう しかし、そこはニコライは”大人の対応”で、自分の器量の狭さを認め チャイコフスキーに謝罪、この曲を積極的に演奏するようになったとのことです そんな彼が他界したのですから、チャイコフスキーの悲しみも大きかったことでしょう
この曲はピアノ三重奏曲としては珍しい2楽章形式で作曲されています 第1楽章はペッツォ・エレジアーコ(悲歌的楽曲)です。ピアノ伴奏に乗ってチェロが哀しみのテーマを奏でます。それをヴァイオリンが受け継ぎます。次に、昔ニコライとピクニックに出掛けた時に耳にした旋律と言われるテーマが演奏され、そのテーマが12種類の変奏曲として展開します ある時は楽しい思い出が、ある時は悲しい思い出が語られ、ある時は喜びの曲として、ある時は踊る様なワルツとして、最後には、慟哭の曲として演奏されます 最後は葬送行進曲が奏でられ、ピアノ独奏が静かに和音を奏で、静かに静かに曲を閉じます
三人のアンサンブルが見事で、感動的な演奏でした とくに第1楽章と第2楽章の第12変奏以降は白熱の演奏で、チャイコフスキーの慟哭が聴こえてくるようでした
再び、このトリオで別の曲を聴いてみたいと思います