5日(木・祝)。わが家に来てから585日目を迎え、ゴールデン・ウィークも普通の日曜・祭日も関係なく、ただ食べることに困らなければ良いと思っているモコタロです
そんなことないよ おいらだって悩みがあるんだから
閑話休題
昨日は、東京国際フォーラムで開かれている「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン2016」第2日目でした 私はこの日4公演を聴きました
最初に聴いたのは午前10時から「ホールC」で開かれた「四季を巡る旅~モスクワの冬の幻想」(公演番号241)です プログラムは、チャイコフスキー「交響曲第1番ト短調”冬の日の幻想”」。演奏はドミトリー・リス指揮ウラル・フィルです
自席は1階21列16番、左ブロック右通路側です。指揮のドミトリー・リスはモスクワ音楽院でキタエンコに師事し、現在はウラル・フィルの芸術監督・首席指揮者を務めています 私は数年前にこの音楽祭で初めてこのコンビで聴いてからすっかりファンになりました L.F.Jでこのコンビが演奏したラフマニノフ「交響曲第2番」の名演が今でも忘れられません
この公演の演目はチャイコフスキー「交響曲第1番ト短調”冬の日の幻想”」のみです。この作品はチャイコフスキーがペテルブルク音楽院卒業の翌1866年、モスクワ音楽院の教師になった26歳の年に完成しました タイトルの「冬の日の幻想」は彼自身の命名によるものです。4つの楽章から成りますが、第1楽章を中心にロシアの荒涼たる土地の寒い冬の情景を感じさせる曲想です
ステージに登場するオケのメンバーは1年ぶりですが、何人かは見覚えがあります 男性奏者は全員が上着を脱いだワイシャツ姿で統一しています。暑い日でしたから 大柄なリスが登場、指揮台に上がります
第1楽章は冒頭から特徴的な民謡風のメロディーが流れますが、これがテーマと言ってよいでしょう 第2楽章のアダージョはロシアの冷たい空気を感じます。第3楽章のスケルツォを経て、第4楽章のフィナーレを迎えますが、”メロディーメーカー”チャイコフスキーを強く感じさせる抒情的な曲想です チャイコフスキーの交響曲で”名曲”と言えば、第4番、第5番、第6番というのが定説ですが、リス+ウラル・フィルで第1番を聴くと、間違いなく名曲に思えてきます
リスの指揮の大きな特徴はエネルギッシュな動作によるダイナミックな音楽作りです この演奏でも、時に楽員に喧嘩を売るような挑発的な動作を見せながら、楽員から求める音を紡ぎ出します。楽員も良く応えていました
ところで、第1楽章後、第2楽章後の間に後方の扉から遅刻者がドヤドヤ入場してくるのには閉口しました そもそも遅刻すること自体が不心得だと思いますが、曲の途中で入場するのなら静かに行動すべきです。少なくとも声は出すな、と言いたいです
2番目に聴いたのは11時45分から「ホールA」で開かれた「動物たちのカーニバル~室内楽版”動物の謝肉祭”」(公演番号212)です プログラムは①小曽根真と江口玲の”ア・ラ?ナチュール”-koto song 春の海、②小曽根真「アグア・デ・ラ・ムジカ」、③サン=サーンス「組曲”動物の謝肉祭”」です 演奏はピアノ=小曽根真、江口玲、ヴァイオリン=ドミトリ・マフチン、矢部達哉、ヴィオラ=ジェラール・コセ、チェロ=宮田大、コントラバス=山本修、フルート=工藤重典、クラリネット=吉田誠、打楽器=安江佐和子です
自席は1階45列55番、5,000人以上入る大ホールの後ろから3列目なのでステージがすごく遠く見えます これでもS席で3,500円ですよ、奥さん とは言うものの、出演者の魅力からか満席状態です
最初にピアノの江口玲、ヴァイオリンの矢部達哉、クラリネットの吉田誠の3人が登場、”ア・ラ?ナチュール”と題する音楽を始めます 最初はクラリネットとピアノで純日本的な音楽を奏で、クラリネットが退場し、今度は江口のピアノの伴奏で矢部が「春の海」を演奏します 何に驚いたかと言って、ピアノの音が”琴”そのものなのです
演奏が終わると、小曽根真がマイクを持って登場、「皆さん 明けましておめでとうございます」と挨拶し、会場の笑いを取ります 直前の演奏が「春の海」だったのですから”お正月”ですよね 小曾根が江口に「ピアノがすごい音してましたね」と尋ねると、「実は1912年製の古いピアノでして・・・・・」と答えましたが、それはウソで、ピアノの中から幅広のテープを取り出して、「実はこのテープをピアノ弦に貼ってあったのです。その状態で弾くと琴の音が出るんですよ」と解説、小曽根が「皆さん、マネしないでくださいね。普通のテープを貼ったら後で剥がすのが大変ですから」とアドヴァイスしていました そして、プログラムに載っていない彼自身の曲「アグア・デ・ラ・ムジカ」というラテン風のピアノ音楽をソロで演奏し、拍手喝さいを受けました
舞台の再セッティングが終わり、10人のソリストが登場します。ステージ奥にグランドピアノが向かい合わせに設置され、左に小曽根、右に江口がスタンバイします 他の8人は、左から安江、マフチン、矢部、コセ、宮田、吉田、工藤、山本という配置に着きます
サン=サーンスの「動物の謝肉祭」は休暇中の内輪の会合のために1886年に作られた気軽な音楽だったので、彼は公開で演奏することや楽譜を出版することを禁じていました それでも”名曲”はいつの日か明るいところに出る運命にあるようです
第1曲「序奏と獅子王の行進曲」から第14曲「終曲」までの14の音楽から成ります。第2曲は「メンドリとオンドリ」ですが、マフチンと矢部の「鳥の鳴きマネ」競争は聴きごたえがありました 第4曲「亀」はオッフェンバックの有名な「フレンチ・カンカン」の賑やかなメロディーを 超スローモーションで演奏するものですが、皮肉屋サン=サーンスの面目躍如です 第9曲「森の奥のカッコー」では、吉田があちこち歩き回りながらクラリネットでカッコーの鳴きまねをします 「カッコー」以外の音を出さないので音楽家としてカッコー悪そうです
一番傑作だったのは、第11曲「ピアニスト」です。下手くそなピアニストを皮肉った曲で、わざと下手に演奏するわけですが、途中で小曽根がアドリブでジャズの即興演奏を始めました あれれ???と思っているとサン=サーンスに戻ってきて安心させます 第13曲の「白鳥」は宮田大が美しいメロディーを奏で満場の聴衆を魅了します そして最後の第14曲「終曲」は登場した動物たちの賑やかなオンパレードです
鳴り止まない拍手に、小曽根が江口に何やらアンコールを持ち掛けています 二人が再度ピアノに向かい、ほとんどアドリブで小曾根がピアノを弾くと、江口がそれに応えて違うメロディーを弾く、といったやり取りが始まります 他のメンバーは「いったい俺たちゃどうすりゃいいんだい」という顔付きで椅子に座って二人のやり取りを眺めています しばらくして小曽根が「動物の謝肉祭」の”終曲”のメロディーを弾き出したので、他のメンバーは慌てて楽器に向かって演奏に加わります
アンコール演奏の終盤になると、舞台の左袖から、パフォーマーのフィリップ・エマールが人工の蝶々 をヒラヒラと操りながら登場、音楽に合わせて舞台を走り回ります これには出場者も予定外だったらしく、終演後は出演者ともども拍手喝さいでした
実に楽しいコンサートでした。舞台が遠かったとは言え、S席3,500円は高くなかったですね
終演後、ホールE(旧・展示場)に行くと、出演者のサイン色紙が飾られていました
12時半を回っていたので、昼食を取ることにしました。私の場合、いつも同じお店です 新東京ビル地下の和食0で「鶏と野菜の黒酢あんかけ」を食べました
3番目に聴いたのは同じ「ホールA」で14時から聴いた「鳥たちのファンタジー~ロシアの超名曲をカップリング」(公演番号213)です プログラムは①ストラヴィンスキー「バレエ”火の鳥”組曲」、②チャイコフスキー「バレエ”白鳥の湖”」から4曲です 演奏はドミトリー・リス指揮ウラル・フィルです
自席は1階34列32番、左ブロック右通路側です。5000人以上収容のホールAもほぼ満席です リス+ウラル・フィルの演奏で聴くのはこの日2回目です
ストラヴィンスキーの「火の鳥」は、言ってみればストラヴィンスキーの名前を世界に知らしめた出世作です 1909年、ロシア・バレエ団の主宰者ディアギレフは当時27歳のストラヴィンスキーの才能を確信し、パリ・オペラ座での公演のために「火の鳥」を委嘱したのです これが大成功を収め、これに基づく組曲が作られました もし、これが失敗に終わっていたらディアギレフは「火の鳥」どころか「火の車」になって、「逆切れ負」になっていたことでしょう
曲は第1曲「序奏」から第11曲「終曲の賛歌」までの11曲から成りますが、一番強烈な印象を残すのは第9曲「凶悪な踊り」でしょう もし、このホールで居眠りをしていた人は、この曲の冒頭のフォルティッシモで身体をビクッとさせて目を覚ますことになるでしょう
ドミトリー・リスはスケールの大きな指揮ぶりで革新的なバレエ音楽を色彩感豊かに描き、聴衆を魅了しました
次いで演奏されたのは、チャイコフスキーのバレエ音楽「白鳥の湖」ハイライトです 演奏したのは1.情景、2.ワルツ、3.白鳥たちの踊り、4.マズルカです。「情景」はクラシック・バレエ音楽の代名詞的な曲ですね 「ワルツ」はゴージャスで優雅です 「白鳥たちの踊り」はちょっとユーモラスです そして「マズルカ」は勇壮です この曲でも、”メロディーメーカー”としてのチャイコフスキーの魅力が溢れています
リス+ウラル・フィルの熱演に大きな拍手が送られました
4番目に聴いたのは15時15分から「ホールC」で聴いた「イギリス・バロックの自然~テムズの舟遊び」(公演番号244)です プログラムは①ヘンデル「水上の音楽 第1組曲」、②同「水上の音楽 第2組曲」です 演奏はカンマー・アカデミー・ポツダムです
自席は3階8列14番、左ブロック右通路側です。会場は満席です
カンマーアカデミー・ポツダムは2001年創設の室内オケです。指揮者を置かず、チェロとチェンバロを除いて立ったまま演奏します 総勢22名が舞台に乗っています。指揮者的な立場のコンマスは女性ですが、日本人みたいです。3階席なのでよく分かりません
ヘンデルはJ.S.バッハと同じ1685年にドイツで生まれました バッハと違うところは、バッハが一度も国外に出なかったのに対し、ヘンデルはイタリアでオペラを学び、イギリスで国籍を取得して約50年もその地で活躍したところです
「水上の音楽」は、1717年夏のイギリスのジョージ1世の舟遊びと、1736年春のフレデリック皇太子の舟遊びの時に演奏された曲です
野外コンサートという位置づけなので、音が遠くまで届くように「第1組曲」は主にホルンが、「第2組曲」は主にトランペットが活躍します さすがに、このオケは弦もさることながら、管楽器群は充実しています。管弦楽に押されてチェンバロの音が聴こえないのが残念なくらいです
1717年の舟遊びでは50人もの楽師の乗った船が、王の御座船に続き「水上の音楽」を演奏したそうです 1717年は「いーな、いーな」と読みます。この年代を覚えても音大入試には出ません。悪しからず
この公演で滅多に聴く機会のない曲を聴くことができてラッキーでした
速いもので今年のラ・フォル・ジュルネ音楽祭も今日で終わりです 今日は5公演を聴きますが、どんな発見があるか楽しみです