22日(金)その2.よい子は「その1」から見てね。モコタロはそちらに出演しています
昨夕、サントリーホールでNHK交響楽団第1908回定期演奏会(Bプロ)を聴きました オール・ストラヴィンスキー・プログラムで、①幻想曲「花火」作品4、②「幻想的スケルツォ」作品3、③「ロシア風スケルツォ」、④「葬送の歌」作品5、⑤バレエ音楽「春の祭典」です 指揮はパーヴォ・ヤルヴィです
オケは左から第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、その後ろにコントラバスという編成。左奥にはハープが3台スタンバイします。コンマスはマロこと篠崎史紀氏です
1曲目は幻想曲「花火」作品4です この曲はイーゴリ・ストラヴィンスキー(1882-1971)が1908年に、作曲の師匠リムスキー・コルサコフの娘の結婚祝いのために書き始めた作品ですが、何と師匠は死去してしまい、楽譜は戻されてきたそうです。「花火」は不発に終わったことになります しかし、この曲が 次に演奏される「幻想的スケルツォ」とともに1909年2月6日にサンクトペテルブルクで初演された時に、ロシア・バレエ団を率いる伝説の興行師セルゲイ・ディアギレフが聴いていたのです 彼こそ、ストラヴィンスキーに「火の鳥」「ペトルーシュカ」「春の祭典」のバレエ三部作を書かせたその人です その意味では「花火」は後で大倫の花を咲かせることになります
曲を聴いた範囲では、花火と言っても打ち上げ花火のようなものではないように感じます しかし、ヤルヴィの指揮で聴くこの曲は、管弦楽の鳴り方がすでにストラヴィンスキーそのもので、色彩感豊かな演奏が展開します
続いて演奏される「幻想的スケルツォ」作品3は、幾分おとなしめの作品です
3曲目は「ロシア風スケルツォ」です この曲はロシアからアメリカに渡ったストラヴィンスキーが、新大陸で作曲した意欲作です 「プログラム・ノート」によると、「最初、ある戦時プロパガンダ映画のために用意されたものが、次にジャズ・バンド用に仕立て直され、最後にフル・オーケストラ用に編曲された」とのことです どこか「ペトルーシュカ」をジャズ風にアレンジした曲のような感じがします 演奏がのってきて速いテンポで絶好調に達したと思ったら急に音楽が止まってしまいます われわれ聴衆は、急ブレーキをかけて止まった車から慣性の法則によって前に放り出されたような感覚に襲われます こういう感覚はストラヴィンスキーの他の作品にあったような気がします
前半最後の曲は「葬送の歌」作品5です この曲は師と仰ぐリムスキー・コルサコフを亡くしたストラヴィンスキーが、1908年の夏に、彼の死を悼んで作曲した音楽です 「プログラム・ノート」によると、楽譜は初演後、革命の混乱のなかで失われたと言われてきたそうです その後、2015年のサンクトペテルブルク音楽院の図書館改修工事の折に、初演から100年以上の時を経て「葬送の歌」の楽譜が発見されたそうです
ヤルヴィの指揮で演奏が開始されます。冒頭の低弦によるトレモロが不気味な雰囲気を醸し出します 曲想は異なるものの、私にはムソルグスキーの「禿山の一夜」や、ベルリオーズの「幻想交響曲」に近い不気味な音楽に思えました。暗く重い音楽です
プログラム後半はバレエ音楽「春の祭典」です 前述の通り、この曲はロシア・バレエ団の主宰者・ディアギレフの依頼により「火の鳥」「ペトルーシュカ」に次いで作曲され、1913年5月29日にパリのシャンゼリゼ劇場でピエール・モントゥーの指揮、ロシア・バレエ団のバレエにより初演されました 初演当日は、支持派と反対派の怒号が飛び交い、ろくに演奏が聴こえなかったと言われています
ヤルヴィの指揮で第1部「大地の讃仰」の演奏に入ります 冒頭の「序奏」はファゴットの独奏で始まりますが、この演奏が異様に長く感じました。今まで聴いた中で一番長いと思います 第1部の終曲「大地の踊り」は速いテンポで絶好調に達したところで急にストップします 前半で聴いた「ロシア風スケルツォ」と同じで、慣性の法則で前に放り出されたような感覚を覚えます
第2部「いけにえ」を含めて全体を通して聴いた印象は、当初の予想通りメリハリの利いた明快な演奏でした キャッチフレーズ的に言えば「スーパー・ドライ」な演奏です ビールの「超辛口」ではありません。「アサヒ・スーパー・ドライ」の宣伝文句を思い出してください。そう、「コクがあるのに キレがある」です 歌わせるところは十分に歌わせて「コクがある」一方、ファゴット、オーボエ、イングリッシュホルン、フルート、クラリネットといった木管楽器、トランペット、トロンボーン、ホルンといった金管楽器、ティンパニ、大太鼓、シンバルといった打楽器の個々の楽器の演奏にキレがありました N響の楽員はヤルヴィの指揮に俊敏に反応してスピード感あふれる演奏を展開しました
終演後、若手の女性ヴァイオリン奏者からヤルヴィに花束が手渡されました 次に定期公演を振るのは6月なので、今回で一段落といったところでしょう
コンサートに先立って、サントリーホール窓口で、6月に「サントリーホール チェンバーミュージック・ガーデン」の一環として開かれる「クス・クァルテット ベートーヴェン・サイクル Ⅰ~Ⅴ」の引き換え券と5枚のチケットとを引き替えました 今年もベートーヴェンの弦楽四重奏曲を全部聴くぞ