30日(火)。昨日の朝日朝刊「文化の扉」のページは「はまる ブルックナー」と題してアントン・ブルックナー(1824‐1896)の魅力に迫っていました 超訳すると、
「音楽評論家の許光俊氏は『最短距離で効率よく目的に到達するという現代的な思想や態度の対極にある』と話す 指揮者で音楽学者の金子健志氏は、『当時の著名な作曲家たちは文学に通じ、文章を分かり易くする論理や方法論を作曲に採り入れたが、ブルックナーは聖書以外ほとんど本を読まなかった 作品もベートーヴェンの交響曲のような起承転結はなく、音楽はファンファーレや総休止で分断される。ストーリー性が欠如した音楽といってもいい』と語る それでは物語に代わる魅力はなにか? 音楽評論家の故・宇野功芳氏は『逍遥』にたとえ、『大宇宙の秩序と神の摂理こそが作品の本質だ』という ブルックナーが17歳で最初に就いた仕事は、田舎の小学校の補助教員だった。オーストリアのリンツ大聖堂のオルガニストを経て、43歳でウィーン国立音楽院教授となったが、人付き合いの下手さ、場の空気の読めなさは終生変わらなかった 自分の曲を初演してくれる高名な指揮者に『一杯やって』と、チップを渡すように銀貨を握らせたこともある」
ブルックナーらしいエピソードです 記事は、ブルックナーの曲の特徴として、①長い!(1時間〜1時間半) ②繰り返しが多い! ③途中でブツブツ切れる ④叫ぶ金管、音量の洪水 ⑤「音の建築物」と称される ⑥豊潤な響きに聞き手は陶酔・・・ を挙げています また彼の音楽への評価について、ブラームスは「あれが交響曲だと? お笑いぐさだ」、指揮者のアーノンクールは「ブルックナーの音楽は、いきなり月から降ってきた石のようだ」と語っているそうです
まだブルックナーを聴いたことのない人は、取りあえず交響曲第4番「ロマンティック」、同第7番あたりから聴いてみてはいかがでしょうか
ということで、わが家に来てから今日で2271日目を迎え、新型コロナウイルスの影響で昨春の入学式を中止とした大学が今春、新2年生向けに「1年遅れの入学式」を行うケースが相次いでいる というニュースを読んで感想を述べるモコタロです
だからと言って 1年遅れで卒業する必要はありません 予定通り卒業してください
昨日も息子が夕食を作ってくれました メインは「真鯛とアサリのアクアパッツァ」で、あとは「ベーコンとブロッコリーとマッシュルームのチーズ和え」「玉子とほうれん草のイタリア風オムレツ」「フランスパンのオイルサーディン&チーズのせ」です 私はとてもこんな手の込んだ料理は作ろうとも思いませんが、息子は根気よく時間をかけて作っていました それだけのことはあって、どれもとても美味しかったです
昨日、TOHOシネマズ新宿でクロエ・ジャオ監督による2020年製作アメリカ映画「ノマドランド」(108分)を観ました
この映画はジェシカ・ブルーダーのノンフィクション「ノマド 漂流する高齢労働者たち」を原作に、北京生まれで米国在住の女性監督クロエ・ジャオ(38歳)が手掛けた作品で、アメリカ西部の路上に暮らす車上生活者たちの生き様を、大自然の映像とともに描いたロードムービーです
2011年。米ネバダ州の企業城下町で暮らす60代の女性ファ―ン(フランシス・マクド―マンド)は、リーマンショックによる炭鉱閉鎖の影響を受けて町が寂れたため、長年住み慣れた家を処分する キャンピングカーに家財道具一式を積み込んだ彼女は”現代のノマド(遊牧民)”として、苛酷な季節労働の現場を渡り歩きながら車上生活を送ることになる 行く先々で出会うノマドたちと心の交流を重ねながら、ファ―ンは毎日の厳しい生活を懸命に乗り越え、誇りを持って自由な旅を続けていく
いくつか印象的なシーンがあります ファ―ンはかつて代用教員を務めていたことがあり、スーパーで会ったかつての教え子から「先生はホームレスなの?」と訊かれます ファ―ンは「いいえ、ハウスレスよ。ホームレスとハウスレスとは違うの」と答えます 彼女が言いたかったのは、「住む家はないけれど、家でなくても生活する場はもっている」ということでしょう また、映画の終盤ではキャンピングカーが故障してしまい、自動車整備工場に修理を依頼に行きますが、工場側は「走行距離も長く経年劣化が激しいので、修理をするより車を売って、それを元金にして新しい車を買った方がいい」と提案しますが、ファ―ンは「それだけは絶対にしない。オンボロ車だけど、住みやすいように自分で何カ所も改造を加えて、そこで生活してきたの」と答え、売却を拒否します。これは彼女のノマドとしての矜持でしょう
ファ―ンがお金に困って、姉のところにお金を貸してほしいと頼みに行った時、ファ―ンの生活を心配する姉から「一緒に住まない?」と誘われます また、ノマド仲間のディヴィッドが子どもたちのいる家に帰ることになった時、「一緒に暮らさないか?」と誘われます ファ―ンはそのたびに心が揺れますが、孤独からの不安を感じながらも自由に生きる道を選びます 海岸の岩に打ち寄せては砕ける荒波を乗り越えて、一羽の鳥が大空を滑空していくシーンがありますが、監督は厳しい人生を乗り越えていくファ―ンの姿を鳥に重ねたのかもしれません
舞台は2011年のアメリカですが、ファ―ンが生活費を稼ぐために「アマゾン」の集荷・配送センターで働くシーンは、現在のアメリカの姿でもあるでしょう リーマンショックを乗り越えて業績を伸ばす大企業「アマゾン」と、経済恐慌の犠牲になり 生活費のためにそこで働かざるを得ない賃金労働者との力のギャップを表しているように思います
ファ―ンは多くのノマドと出会いますが、エンドロールを見て分かる通り、登場するのは多くが俳優ではなく本物のノマドです 彼らの顔には、それぞれの長い人生が刻まれています
それにしても・・・と思うのは、アメリカ大陸の広大さです ノマドたちはキャンピングカーで移動し、次のキャンプ場に移動していきますが、行く先々にキャンプ場があるのには驚きます 狭い日本ではアメリカのようなノマド生活は難しいでしょう
この映画はコロナ禍になる前に撮影され、ヴァネチア国際映画祭で最高の金獅子賞を受賞しています 今年の米アカデミー賞の作品賞・監督賞・脚色賞・主演女優賞など6部門で候補に挙がっているそうですが、全部取るのではないでしょうか
コンピューター・グラフィックス満載のド派手な映画はスカッとするので たまには良いですが、いつも見ていると馬鹿になります 本作のような”考えさせられる”映画こそ観たいものです