出生数 過去最少72万人

2025年02月28日 21時11分05秒 | 社会・文化・政治・経済

去年の出生数 統計開始以降最少 72万人余に 住宅事情も要因か

去年1年間に生まれた子どもの数は、速報値で72万人余りと前の年より3万7000人余り減少し、統計を取り始めて以降、最も少なくなったことが、厚生労働省のまとめでわかりました。

記事後半では少子化の要因の1つとして指摘されている「住宅事情」について、詳しくお伝えしています。

目次

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厚生労働省によりますと、去年1年間に生まれた子どもの数は、外国人なども含めた速報値で72万988人となり、前の年より3万7643人、率にして5%減少しました。

出生数が減少するのは9年連続で、1899年に統計を取り始めて以降、最も少なくなりました。出生数はすべての都道府県で減少しています。

国立社会保障・人口問題研究所がおととし公表した将来予測では、外国人などを含めた出生数が73万人を下回るのは2039年と推計していて、想定より15年早く少子化が進行しています。

日本人だけの確定値はまだ公表されていませんが、初めて70万人を下回る可能性が高くなっています。

日本人の出生数は、戦後の第1次ベビーブーム期(1947年~49年)に大きく増え、1949年には最多の269万人余りに上りました。

また、第2次ベビーブーム期(1971年~74年)の1973年にも209万人余りの子どもが生まれました。

しかし、その後は減少に転じ、2016年には97万人余りと初めて100万人を下回り、その後も出生数は減り続けています。

一方、去年1年間に死亡した人は速報値で161万8684人と前の年より2万8181人増えて、過去最多となりました。

この結果、亡くなった人の数が生まれた子どもの数を上回る「自然減」は、89万7696人と過去最大となりました。

また、結婚の件数は49万9999組で、前の年より1万718組増えました。

離婚の件数は18万9952組で2154組増えています。

厚生労働省は「出生数が過去最少となったのは、若い世代の減少や晩婚化、それにコロナ禍で一時、結婚の数が減ったことなどが影響したと考えられる。若い世代の所得の向上や、子育てと仕事を両立しやすい環境作りなどに取り組んでいきたい」としています。

“住宅の狭さ”も大きな要因か

 

毎年、出生数が過去最少となり、急速な少子化に歯止めが掛からない日本。経済的な不安や若い世代の意識の変化など複合的な理由があるとされていますが、子育て世帯の住宅の狭さも大きな要因の1つと指摘されています。

「国立社会保障・人口問題研究所」が2021年に行った出生動向基本調査では、妻の年齢が35歳未満の若い世代で理想の子どもの数を持たない人にその理由を複数回答でたずねたところ
「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」が最も多く77.8%
「これ以上、育児の心理的・肉体的負担に耐えられないから」が23.1%
3番目に多かったのが「家が狭いから」で21.4%と、およそ5人に1人が要因に挙げていました。

その前の2015年の調査では家が狭いからと答えた人は18%で、6年間で3.4ポイント増加しています。

住宅費の高騰や住宅面積の縮小進む

 

実際、「住まい」に目を向けると、都市部を中心に住宅費の高騰や住宅面積の縮小が進んでいます。

「不動産経済研究所」によりますと、首都圏の新築マンションの平均価格は、資材費や人件費の高騰などで増加傾向にあり
▽4年前の2021年には6260万円とバブル期だった1990年の6123万円を上回り
▽さらに去年は7820万円まで上がっています。

一方で、1戸あたりの専有面積は縮小していて
▽2000年には74.76平方メートルでしたが、
▽去年は66.42平方メートルと20年余りで11%減少しています。

また、家の広さと子どもの数の関係を分析した調査もあります。

財務総合政策研究所が2021年に公表した調査では、住宅の面積や通勤時間と子どもの数などのデータを分析した結果
▽第2子を望む夫婦では、住居の延べ床面積が1平方メートル大きくなれば第2子が生まれる確率が3%高くなるとしています。

一方で
▽東京23区と政令指定都市の場合、夫の通勤時間が10分増えると第2子が生まれる確率が4%減るとしています。

広い家に住むためには郊外に引っ越すことも考えられますが、そうすると通勤時間が長くなり、子育てをしづらくなるという難しい側面が浮き彫りになりました。

研究では、子育て世帯への住まいの政策の提言として「家族構成や年齢を勘案して対象者を絞ったうえで、住宅手当や持ち家手当の増額、それに都心部の社宅や公営住宅の建設促進などが有効だと考えられる」などとしています。

住宅の広さで2人目出産をためらう人も

 

住宅の広さが十分でないため、2人目の子どもの出産をためらう人もいます。

都内に住む泉琴李さん(33)は、夫と共働きで3歳の娘を育てています。

現在、住んでいるのは1LDK・38平方メートルの住宅で、家賃は管理費などを含めておよそ10万円です。

リビングの隣にある1部屋を家族の寝室と娘の遊び場にしていますが、布団をしまうスペースがないうえ、おもちゃや絵本などを収納する場所も限られることが悩みだと言います。

娘の成長とともに手狭になってきたことに加え、2人目の出産も考えて今より1部屋多い2LDKのマンションに引っ越すことを検討しましたが、周辺で探すと家賃は月に4万円から6万円ほど上がります。

泉さん夫婦の年収は合わせて600万円ほどで、引っ越すと娘の教育費など将来への貯蓄ができなくなる心配もあり、難しいといいます。家賃が比較的低い郊外に住むことも検討しましたが、泉さんも夫も基本的に在宅勤務が難しい仕事のため、今の場所から遠く離れるわけにはいきませんでした。

泉さんは、もともと子どもを3人欲しいと考えていましたが、今のままでは2人目の出産も難しくなるのではないかと考え始めています。

泉琴李さん
「手取りが増えない中で、家賃が上がればどこか削る必要が出てきますがそれが非常に難しい状況です。子どもが増えたら家やお金のことを考えなければならず、不安な気持ちが大きいので、2人目が欲しいけど今は無理かなと思っています」

「空き家」を子育て世帯に提供する取り組み

家が狭く、理想の数の子どもを育てられない夫婦が増える中、全国で増加する「空き家」を活用しようという取り組みが始まっています。

東京都や横浜市などで住宅のリノベーションを手がける工務店は、10年前から築30年以上の空き家を借り上げ、子育て世帯などに賃貸で提供しています。空き家の改修費用は会社が負担し、数年間運用した後には所有者に返す仕組みで、これまでに100件ほどの物件を手がけています。

このサービスで去年、東京 練馬区の一軒家を借りた河原知子さん(35)は、夫と共働きで1歳の息子を育てています。以前は月の家賃が13万円の1LDK・45平方メートルのマンションに暮らしていましたが、いまは月の家賃が18万5000円で、広さは4LDK・103平方メートルあります。

これまで置き場所に困っていた子どものおもちゃや衣服を保管する場所もできました。十分な広さのある家に住めていることで、2人目の出産も考え始めているといいます。

河原知子さん
「以前は子どもが走ったりジャンプしたりして、よく注意していましたが、一軒家なので伸び伸びさせられます。今までは2人目の子どもの寝る所や衣服などを収納する場所も無かったので、子どもを増やすことは考えられませんでしたが、この広さがあればよいかなとも思っています」

総務省によりますと、高齢化などを背景に日常的に人が住んでいない空き家の数は増加していて、おととしは全国で900万2000戸と過去最多となり、このうち東京都が最も多く89万7000戸と1割程度を占めています。

こうした空き家の活用は行政も支援していて、この会社では現在、東京都の補助金を活用して子育て世帯向けの空き家の改修も行っています。

空き家などを子育て世帯に提供する試みは、ほかでも、京都市で市営住宅の空き部屋を民間の事業者が改修し所得制限なしに比較的安価で貸し出すなど、全国各地で広がりつつあります。

ルーヴィス 小井沼修司取締役
「本当は広い家で声や音を気にせずに子育てしたいと思う人はたくさんいますが、そもそも賃貸では広い家の数自体が少ないので、空き家を有効活用して子育てに適した住宅を提供していきたい」。

社員の住宅手当・通勤手当を拡充する企業も

 

社員がライフスタイルにあわせて住む場所を選びやすくしようと福利厚生を充実させた企業もあります。

千葉市に本社がある大手ファッション通販サイトを運営する企業は、おととし、福利厚生を見直し住宅手当と通勤交通費を拡充しました。

具体的には、これまで拠点がある千葉市や茨城県つくば市などに限っていた住宅手当の対象を全社員に拡大し、一律で5万円を支給することにしたほか、通勤にかかる交通費の支給額の上限を5万円から15万円に引き上げ、飛行機や新幹線を使った通勤も認めました。

9歳と4歳の子どもを育てている38歳の男性社員は、実家があり、子育て環境が整う静岡県富士市に自宅を構え、新幹線で通勤しています。会社では、週に3日リモートワークができる制度も同時に導入したため、出勤は週に2回ですみ、子育てにも十分参加できているといいます。

男性は「経済的な面で負担が減るのは大きいです。子育ても充実し、安心して働き続けられます」と話していました。

制度の導入に携わったZOZO人自戦略部 三原正久ディレクター
「住みたい場所に住むことは精神的にも体力的にも安定して仕事や育児に取り組むことにつながる。今後も制度をアップデートしていきたい」。

専門家「住宅補助制度の拡充が必要」

 

社会保障が専門 少子化対策に詳しいみずほリサーチ&テクノロジーズ 藤森克彦主席研究員
「現在は都市部を中心に住宅費が高騰し、広い家を借りづらくなっている。それが理想の子どもの数を持つ難しさにつながっている」

「日本はこれまで子育て支援についての財源が乏しく、若い人たちにとっては子育てに負荷がかかってしまっている。外国では家は生活の基盤という考えのもとで、借家に住む人たちの支援を充実させている国もある。日本は社会保障制度の中で住宅にもっと目を向けて、家賃補助制度の充実などを考えていく必要がある」

「オンライン業務などのリモートワークを整備し、例えば地方に住みながら、月に何回か都市部の本社に通うなど子育てしやすい働き方を推進していくべきだ。地方では家賃が低くても十分な広さの家が多くあり、子育て環境にもプラスで企業にとっても人材の獲得につながると思うので、住まいの支援に目を向けるべきだと思う」

石破首相「少子化対策 子育て支援に注力」

 

石破総理大臣は27日夜、総理大臣官邸で記者団に対し「出生数の減少に依然として歯止めがかかっていないことはよく認識をしなければならない。一方で婚姻数は増加している。婚姻数と出生数が極めて密接な関連を持つ以上、この数字も注目すべきものだと思っている」と述べました。

そのうえで「児童手当の抜本的な拡充など、長年指摘されながら実現できなかった施策が本格実施を迎えるところであり、引き続き、少子化対策、子育て支援に政府として注力していきたい。若者や女性が地方にとどまり、地方で出生数の増加が図られるよう引き続き努力していきたい」と述べました。

林官房長官「安心して子育てできる社会に向け施策推進」

 

林官房長官は27日午後の記者会見で「多くの人たちの子どもを産み育てたいという希望が実現しておらず、少子化に歯止めがかかっていない。政府としては、児童手当の抜本拡充など経済的支援の強化や若い世代の所得向上といった『こども未来戦略』に基づく取り組みを着実に進めており、希望する誰もが子どもを持ち安心して子育てができる社会の実現に向け、総合的に施策を推進していく」と述べました。

 


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