新型コロナウイルス 治療薬・ワクチンの開発動向まとめ【COVID-19】
(11月13日)
治療薬
開発中のCOVID-19治療薬は、ウイルスの増殖を抑える抗ウイルス薬と、重症化によって生じる「サイトカインストーム」や「急性呼吸窮迫症候群(ARDS)」を改善する薬剤に分けられます。いずれも既存薬を転用するアプローチが先行していますが、COVID-19向けに新たな薬剤を開発する動きもあります。
抗ウイルス薬(既存薬の転用)
現在、COVID-19に対する抗ウイルス薬の候補に挙がっている既存薬は、▽レムデシビル(米ギリアド・サイエンシズ)▽デキサメタゾン(先発品は日医工の「デカドロン」)▽ファビピラビル(富士フイルム富山化学の「アビガン」)▽シクレソニド(帝人ファーマの「オルベスコ」)▽ナファモスタット(先発品は日医工の「フサン」)▽カモスタット(先発品は小野薬品工業の「フオイパン」)――など。
このうちレムデシビルは、5月7日に日本で新型コロナウイルス感染症治療薬として承認(製品名・ベクルリー)。デキサメタゾンはCOVID-19治療薬としての承認されているわけではありませんが、厚生労働省の「診療の手引き」に標準的な治療法として掲載されています。
レムデシビル(米ギリアド)
レムデシビルはもともとエボラ出血熱の治療薬として開発されていた抗ウイルス薬。コロナウイルスを含む一本鎖RNAウイルスに抗ウイルス活性を示します。
米FDA(食品医薬品局)は5月1日、レムデシビルについて、COVID-19の重症入院患者を対象に緊急時使用許可を与えました。日本では、米FDA(食品医薬品局)による使用許可を受けて特例承認を適用する方針が示され、ギリアドが5月4日に承認申請。同7日に開かれた厚生労働省の薬事・食品衛生審議会医薬品第二部会が特例承認を了承し、厚労省は即日承認しました。FDAも10月22日に正式に承認しています。
ギリアドは10月8日、米国立アレルギー・感染症研究所(NIAID)主導で行われたレムデシビルの臨床第3相(P3)試験で、同薬を投与された入院患者はプラセボに比べて回復までの期間を5日短縮(レムデシビル群10日、プラセボ群15日)したとの最終結果を発表。同試験は軽症から重症までの患者1000人以上を対象に行われ、重症の患者では回復までの期間が7日早まりました(レムデシビル群11日、プラセボ群18日)。
一方、WHOは10月16日、レムデシビルなど4つの薬剤について、患者の入院期間や死亡率にはほとんど影響を与えなかったとする臨床試験の結果を発表。WHOの試験は、世界30カ国405病院で1万1266人を対象に行ったものですが、まだ査読は受けていません。これに対してギリアドは、「厳密なレビューを受けていないことを懸念している」とした上で、「(WHOの試験は)幅広いアクセスを優先して設計され、結果的に試験の採用や実施、管理、患者母集団の異質さにつながった。これに基づいて結論を導き出せるかどうかは不明」と指摘する声明を発表しました。
デキサメタゾン(日医工など)
デキサメタゾンは重症感染症や間質性肺炎などの治療薬として承認されているステロイド薬。先発医薬品「デカドロン」(日医工)のほか、複数の後発医薬品が販売されています。英国で行われた大規模臨床研究で重症患者の死亡を減少させたと報告され、厚生労働省の「診療の手引き」にレムデシビルとともに標準的な治療法として掲載されています。
英国の臨床研究では、人工呼吸器を装着した患者と酸素投与が必要な患者で死亡率を有意に低下させた一方、酸素投与の必要ない患者では効果が見られませんでした。米NIHのガイドラインでも、人工呼吸器や酸素投与を必要とする患者に対する治療薬として推奨されています。
ファビピラビル(富士フイルム富山化学)
ファビピラビルは2014年に日本で承認された抗インフルエンザウイルス薬。新型インフルエンザが発生した場合にしか使用できないため、市場には流通していませんが、新型インフルエンザに備えて国が備蓄しています。
富士フイルム富山化学は10月16日、非重篤の肺炎を有する患者を対象に行った国内P3試験の結果に基づき、ファビピラビルを新型コロナウイルス感染症の治療薬として申請しました。試験は患者156人を対象に行い、主要評価項目の「症状の軽快かつウイルスの陰性化までの時間」はアビガン群11.9日、プラセボ群14.7日で、アビガンは症状を統計学的に有意に早く改善。安全性上の新たな懸念も認められなかったといいます。
ファビピラビルは、インフルエンザウイルスの遺伝子複製酵素であるRNAポリメラーゼを阻害することでウイルスの増殖を抑制する薬剤。COVID-19を引き起こす新型コロナウイルスもインフルエンザウイルスと同じRNAウイルスであることから、効果を示す可能性があると期待されていました。ただし、動物実験で催奇形性が確認されているため、妊婦や妊娠している可能性がある人には使うことができず、妊娠する可能性がある場合は男女ともに避妊を確実に行う必要があります。
シクレソニド(帝人ファーマ)
シクレソニドは、日本では2007年に気管支喘息治療薬として承認された吸入ステロイド薬。国立感染症研究所による実験で強いウイルス活性を持つことが示され、実際に患者に投与したところ肺炎が改善した症例も報告されています。
国内では、無症候または軽症のCOVID-19患者を対象に、対症療法と肺炎の発症または増悪の割合を比較する多施設共同の臨床試験が国立国際医療研究センターを中心に行われています。
ナファモスタット(日医工など)/カモスタット(小野薬品工業など)
タンパク分解酵素阻害薬ナファモスタットや同カモスタットは、COVID-19の原因ウイルスであるSARS-CoV-2の細胞内への侵入を阻止する可能性があるとされ、日本では東京大付属病院などでファビピラビルとナファモスタットの併用療法を検討する臨床研究が進行中です。
カモスタットの先発医薬品「フオイパン」を製造販売する小野薬品は、COVID-19患者110人を対象としたP3試験を開始。ナファモスタットをめぐっては、先発医薬品「フサン」の製造販売元である日医工に、第一三共、東京大、理化学研究所を加えた4者が、共同で吸入製剤の開発を進めており、来年3月までの臨床試験開始を目指しています。
その他
腸管糞線虫症と疥癬の治療薬として承認されている駆虫薬イベルメクチン(MSDの「ストロメクトール」)もウイルスの増殖を阻害する可能性があるとされており、北里大は9月17日、COVID-19の適応追加を目指した医師主導治験を始めると発表。HIV感染症治療薬として承認されているネルフィナビル(日本たばこ産業の「ビラセプト」、製造販売は終了)も、長崎大を中心に医師主導治験が進行中です。
琉球大は11月5日、軽症から中等症の患者に対する抗炎症薬として、痛風治療薬コルヒチンの医師主導治験を行うと発表。来年1月の開始を予定しています。
重症患者に対する治療薬(既存薬の転用)
COVID-19が重症化すると、サイトカインストームと呼ばれる過剰な免疫反応に重篤な臓器障害を起こしたり、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)という重度の呼吸不全を起こしたりすることが知られています。
こうした重症患者に対する治療薬としては、サイトカインの一種であるIL-6(インターロイキン-6)の働きを抑える抗体医薬や、サイトカインによる刺激を伝えるJAK(ヤヌスキナーゼ)を阻害する薬剤が候補に挙げられています。
抗IL-6受容体抗体
スイス・ロシュはこれまで、中外製薬が創製した抗IL-6受容体抗体トシリズマブ(製品名「アクテムラ」)の新型コロナウイルスを対象とした2つのP3試験の結果を発表。米国、カナダ、欧州などで行われた試験では有効性を示すことができませんでしたが、9月18日に発表したもう1つの試験(米国、南アフリカ、ケニア、ブラジル、メキシコ、ペルーで実施)では、標準的な治療だけを受けた患者に比べて、人工呼吸器着用または死亡に至る確率を44%有意に低減しました。死亡率に統計学的な差はありませんでしたが、ロシュは同試験の結果を各国の規制当局と共有するとしています。
ロシュはほかにもトシリズマブの臨床試験を行っており、レムデシビルとの併用療法でP3試験が走っているほか、日本では中外製薬が重症患者を対象にP3試験を行っています。
米リジェネロン・ファーマシューティカルズと仏サノフィも、共同開発した抗IL-6受容体抗体サリルマブ(同「ケブザラ」)の臨床試験を行っていましたが、リジェネロン主導で行われた米国P3試験は有効性を示せず中止に。サノフィ主導で行われた米国外での試験(日本も含む)も主要評価項目を満たすことができず、サノフィは9月1日に試験を打ち切ったと発表しました。
JAK阻害薬
JAK阻害薬では、関節リウマチ治療薬バリシチニブ(米イーライリリーの「オルミエント」)が米NIAID主導のアダプティブデザイン試験の一部としてレムデシビルとの併用療法に関する国際共同臨床試験を開始。同試験には日本も参加しています。6月15日からは、リリー主導で単剤療法のP3試験も行われています。
リリーは9月14日、バリシチニブとレムデシビルを併用した場合、レムデシビル単独の治療に比べて回復までの時間を約1日短縮し、主要評価項目を達成したと発表。リリーはこの試験結果をもとに、米FDAと緊急使用許可の可能性について協議するとともに、ほかの規制当局ともCOVID-19患者への使用について協議するとしています。
その他
エーザイは、かつて重症敗血症を対象に開発していたものの、P3試験で主要評価項目を達成できずに開発を中止したTLR4拮抗薬エリトランの臨床試験を開始。試験は、Global Coalition for Adaptive Researchによる国際共同治験「REMAP-COVID」として行われ、米国で開始したあと、日本を含むグローバルへと拡大する予定です。エリトランは、サイトカイン産生の最上流に位置するTLR4(Toll様受容体4)の活性化を阻害する薬剤で、サイトカインストームの抑制を狙います。
イーライリリーは、がんなどを対象に開発中の抗アンジオポエチン2(Ang2)抗体LY3127804について、ARDSを発症するリスクの高いCOVID-19入院患者を対象とするP2試験を開始。Ang2はARDSを呈する患者で増加することがわかっており、試験ではAng2を阻害することでARDSの発症や人工呼吸器の使用を減らせるかどうかを検証しています。
英アストラゼネカは海外で白血病治療薬として承認されているBTK(ブルトン型キナーゼ)阻害薬アカラブルチニブの臨床試験を実施中。このほかにも、糖尿病治療薬のSGLT-2阻害薬ダパグリフロジン(製品名「フォシーガ」)について、米セントルーク・ミッドアメリカ・ハートインスティチュートと臓器不全などの重度の合併症を発症する危険性のある患者を対象としたP3試験を行っています。
武田薬品工業と米アッヴィ、米アムジェンは8月3日から、武田の遺伝性血管性浮腫治療薬イカチバント(製品名「フィラジル」)とアムジェンの乾癬治療薬アプレミラスト(同「オテズラ)、アッヴィが非アルコール性脂肪肝炎などを対象に開発中のcenicrivirocの3つの薬剤について、重症入院患者を対象とした臨床試験を始めました。
新規抗ウイルス薬の開発
既存薬を転用するアプローチで治療薬の開発が進む一方で、新規の薬剤を開発しようとする動きも広がっています。
抗体医薬
中でも活発なのが、新型コロナウイルスに対する中和抗体の開発です。現在、アストラゼネカやイーライリリー、リジェネロン、グラクソ・スミスクラインなどが臨床試験を進めています。
米FDAは11月9日、イーライリリーとカナダのアブセラが共同開発した中和抗体バムラニビマブについて、重症化や入院のリスクが高い軽症から中等症のCOVID-19陽性者を対象に緊急使用許可を出しました。米リジェネロンも10月、カクテル抗体「REGN-COV2」の緊急使用許可をFDAに申請しています。
アストラゼネカは10月から、COVID-19患者に由来する2つの抗体を組み合わせたカクテル抗体「AZD7442」のP3試験を実施中。米国のビル・バイオテクノロジーと提携するグラクソ・スミスクラインも、抗ウイルス抗体「VIR-7831/GSK4182136」がP3試験に入りました。両社は別の中和抗体「VIR-7832」の開発も進めており、年内にP1b/2a試験を始める予定です。
武田薬品工業は、米CSLベーリングなど血漿分画製剤を手掛ける海外の製薬企業9社と提携し、原因ウイルスSARS-CoV-2に対する高度免疫グロブリン製剤の開発を進めています。10社は、原料となる血漿の採取から臨床試験の企画・実施、製造まで幅広く協力し、ノーブランドの抗SARS-CoV-2高度免疫グロブリン製剤を共同で開発・供給する計画です。
武田は10月9日に、NIAIDがP3試験を開始したと発表。試験は、米国やメキシコのほか16カ国で、最大500人の入院患者を登録する予定です。年内にも試験結果が判明すると見込まれています。
低分子薬ほか
低分子の抗ウイルス薬の開発も進められています。
米メルクは米リッジバック・バイオセラピューティクスと提携し、抗ウイルス薬「MK-4482」のP2試験を実施中。塩野義製薬は北海道大との共同研究で特定した抗ウイルス薬について、今年度中の臨床試験開始を目指していましたが、安全性・有効性のさらなる検証が必要と判断。今年度中の臨床試験開始を断念し、研究を続けてくことを明らかにしています。
オンコリスバイオファーマは鹿児島大と契約を結び、同大が見出した抗ウイルス薬の開発に着手。カネカは国立感染症研究所と共同で治療用抗体を開発しており、製薬会社と組んで21年度中に臨床試験を始めたいとしています。ペプチドリームは抗ウイルス作用を持つ特殊ペプチドの開発を進めており、10月に富士通などと開発のための合弁会社を設立。富士通の量子コンピューティング技術などを活用し、開発を加速させるといいます。
ビルは米アルナイラム・ファーマシューティカルズと共同でSARS-CoV-2を標的とするsiRNA核酸医薬も開発しており、開発候補として吸入型のsiRNA「VIR-2703(ALN-COV)」を特定。今年の末をメドに臨床試験を始める見込みです。今年5月、国産初の核酸医薬となるデュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬「ビルテプソ」(ビルトラルセン)を発売した日本新薬も、新型コロナウイルスに対する核酸医薬の開発を検討。バイオベンチャーのボナックもCOVID-19向け核酸医薬の研究を進めています。
抗ウイルス薬ではありませんが、独ベーリンガーインゲルハイムはCOVID-19による重篤な呼吸器疾患を対象に、TRPC6阻害薬「BI764198」のP2試験を10月に開始しました。
ワクチン
WHOの11月3日時点のまとめによると、現在、臨床試験に入っているCOVID-19ワクチン候補は47種類。このほかに155種類が前臨床の段階にあります。
P3試験を行っている10種類のうち、ガマレヤ研究所(モスクワ)が開発したCOVID-19に対するウイルスベクターワクチン「スプートニクV」は、8月にロシアで承認。COVID-19ワクチンの承認は世界初ですが、同ワクチンはまだ臨床試験を実施している段階で、安全性や有効性には疑問の声も上がっています。
ファイザー P3中間解析「90%超の効果」
米ファイザーと独ビオンテックは11月9日、約4万4000人を対象に行っているmRNAワクチン「BNT162b2」のP3試験の中間解析で、有効性が確認されたと発表。安全性データがそろうのを待って、11月中にもFDAに緊急使用許可を求める方針です。発表されたデータは、被験者のうち94人の感染が確認された時点での解析結果で、ファイザーは90%を超える予防効果があったとしています。
米モデルナも11月11日、感染例が必要な数に達したとして、mRNAワクチン「mRNA-1237」のP3試験で最初の中間解析を始めると発表。このほか、英アストラゼネカ/オックスフォード大のウイルスベクターワクチン「AZD1222」や、米ジョンソン・エンド・ジョンソンの同「JNJ-78436735」、米ノババックスの組換えタンパクワクチン「NVX-CoV2373」などがP3試験を行っています。
米メルクはオーストリア・テミスの買収で獲得した麻疹ウイルスベクターワクチンの臨床試験を8月に開始。IAVI(国際エイズワクチン推進構想)とも別のワクチンを開発しており、年内の臨床試験開始を目指しています。サノフィとグラクソ・スミスクラインは9月3日から、共同開発中の組換えタンパクワクチンのP1/2試験を開始。年内にP3試験に入ることを目指しています。
欧州医薬品庁(EMA)は10月1日、AZD1222について、提出可能な資料から順次、審査を進める「ローリングレビュー」を開始したと発表。6日にはBNT162bについても同様の審査を開始しました。
日本勢はアンジェスが治験開始
国内では、大阪大とアンジェスが共同開発するDNAワクチン「AG0301-COVID19」が、6月30日からP1/2試験を行っています。対象は20~65歳の健康成人で、目標症例数は30例(低用量群15例、高用量群15例)。アジュバントを含む同ワクチンを2週間間隔で2回、筋肉内注射し、安全性と免疫原性を評価します。最適な接種間隔と接種回数を検討するもう1本のP1/2試験も始めており、トップラインデータは今年第4四半期に公表される予定です。
国内ではこのほか、アストラゼネカとヤンセンファーマ、ファイザーが初期の臨床試験を実施中。武田薬品は、ノババックスとモデルナのワクチンを日本で供給する予定です。
塩野義製薬は、グループ会社のUMNファーマで組換えタンパクワクチンの開発を進めており、年内にも臨床試験を始める意向。来春にはP3試験に入りたい考えです。KMバイオロジクスは、年内に不活化ワクチンの臨床試験を始め、23年度の発売を目指しています。第一三共のmRNAワクチンと、IDファーマのセンダイウイルスベクターワクチンは、来春の臨床試験開始を予定しています。
(前田雄樹)
(公開:2020年2月28日/最終更新:2020年11月13日)
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