介護殺人、ひきこもり、児童虐待…。周囲から孤立した家族の中で起きた悲劇。事件の背景には、限界まで追い込まれた当事者の苦悩があった−。誰もが直面するかもしれない事件を総力取材した『読売新聞』連載をもとに単行本化。【「TRC MARC」の商品解説】
「なぜ、助けを求められなかったのか?」介護殺人、ひきこもり、児童虐待、孤立死……問題を内に抱え込んでしまった家族に起きた悲劇。いつ誰の身に起きるとも限らない事件の背景に迫る。
目次
第1部 介護の果て
第2部 親の苦悩
第3部 幼い犠牲
第4部 気づかれぬ死
第5部 海外の現場から
【書評】家の中でなぜ悲劇は起こってしまったか ~『孤絶 家族内事件』
書評:『孤絶 家族内事件』読売新聞社会部・著
家の中でなぜ悲劇は起こってしまったか
本書は、その重苦しいタイトル、踏み込んだ内容と今日性で、読者を震撼させた『読売新聞』の連載「孤絶・家族内事件」の書籍である。
このところ少子高齢化、核家族化が進み、人とのつながりが希薄になり、孤立した家庭内で起こる悲惨な事件が急増しているという。介護殺人や心中、我が子のひきこもりや障害に悩んだ親による事件、児童虐待や孤立死などだ。これら家族内事件は、たいてい事件性が薄いとみなされ、個人情報保護の観点からも、数行の記事で終わることが多いらしい。
ここでは、それらをひとつひとつ深く丹念に掘り下げ、事件に至るまでの背景を探る。また書籍化にあたり、事件当事者たちの「その後」も再取材し、「孤絶」としかいいようのない現代日本の家庭の問題を生々しく浮き彫りにしていく。
もっともつらかったのは、第2部「親の苦悩」だ。6月に起きた、元官僚が息子の家庭内暴力に悩み手にかけてしまった事件も記憶に新しい。これらの悲劇には日本人のメンタリティーが影響しているという。〈親たちは、子どもの障害や社会への不適応を「恥ずかしいこと」「自分の責任」と考え、周りに助けを求めることができないまま、苦悩を深めていました〉の記述には、決して他人事ではないと思い知らされる。そして、問題を抱えた家庭が孤絶せず、助けを求めやすい社会とは何かについて、考えさせられる1冊だ。
ネット環境の普及による弊害、「助けて」がなかなか言えない日本人気質、変わりゆく家族概念とともに、今後、家族内事件は増えていくだろう。そのためにも「孤絶」の連載、そして書籍化は続いてほしい、と心から願うばかりだ。
読売新聞で連載されていた「孤絶 家庭内事件」を書籍化した本です。介護殺人や児童虐待といった家庭内での事件が起こり報道されるたびに、なぜまわりに助けを求めなかったのかという疑問が浮かんでいた。書籍内の事件のケースでは、当事者によっては孤立していたわけではなかったことや施設に助けを求めていたことがわかった。それでも事件が起きてしまったのは、介護や家庭の問題を他人に解決してもらうことに対する恥の意識が強いのかなと思った。制度や施設を整えるだけで解決する問題ではないことを改めて感じとった。
社会の事件で自分に直接関係のないことは、外側の世界の出来事として捉えているが、実は自分たちに強く関係のあることであるという事を気付かせてくれる本である。この取材を粘り強く行い、一冊の本として上梓されたことに感謝する。解答はないが、いじめや家族内事件等々問題の根は深く、どう対応するか、していったら良いかを考えさせられる。行政だけにも支援して頂く必要もあるが、自助も大切である。『法律や制度は、人が幸せになる手助けをしてくれるが、幸せを与えてはくれない』という言葉を想起させる。
具体的な事例を読み進めると気持ちが重くなるほど、難しい状況に置かれている家族の多さに愕然としています。
「殺人事件であっても、身内の問題だという意味で『事件性』が薄いと受けとめてしまうのだと思います(2p)」と読売新聞の記者の赤裸々な感情が書かれていました。新聞のニュースバリューとしてはそうかもしれませんが、全く他人ごとではありません。どの家族もまた、自分の周りで起こりうるような事例です。その時に果たして平常心で接することができるのかという気持ちが覆いかぶさって来るようでした。
24pの認知症のため「徘徊」する妻の話も怖かったです。身内の事例を思いだしながら、当事者の気持ちとシンクロさせながら読みました。全く他人ごとではありません。
「わらをもすがる思いでした」とありますが、「わら」をすがることすらできない家族もいるわけで、どうしようもない状況に追い込まれたエピソードの辛さがストレートに伝わってきました。厳しいですね。
結果的に、施設に頼るわけですが、結果論ですが、もっと早く行政に頼ればという思いが募ります。
まさしく「介護を一人に任せないでください(44p)」の通りです。人間はそんなに強い存在ではありませんので。
「『津久井やまゆり園』事件とその後(124p)」を読んだ時に、新聞報道で裁判の報告があり、あらためてこの事件の酷さと怖さが伝わります。加害者の行為は言語道断ですが、被害者家族のその後の思いはなかなか伺い知れないものですから、本書でそのあたりもしっかりと紹介されてあり、被害者家族の無念さが伝わりました。
「続く虐待死、『保護すべきか』児相の葛藤(132p)」も新聞ニュースで日常茶飯事ともいえる取り上げ方をされています。それほど多いわけですが、だからと言ってニュースバリューが減じるなどとは思ってもいません。
「ごみ屋敷に籠もったままの最期(182p)」もひどいですね。亡くなった人には申し訳ないのですが、「孤絶」そのものです。誰からも見放された生涯って悲しいですし、哀れです。
あとがきにあるように「読んでいると心が沈んでしまう、というのが正直な今の感想です(227p)」は同感です。そんな気持ちに包まれる本でした。それだけ衝撃を与えた内容です。
236pの見開きに「様々な支援機関や団体」の連絡先が掲載されています。重要な情報源だと思いました。
老老介護の末の親殺し、配偶者殺し。児童虐待の末の殺人。セルフネグレクトの結果の孤独死。最も悲惨と感じたのは、精神障害の子どもを十数年暴力に耐えながら育て、行く末を案じて殺害してしまう老親の犯罪で、読んでいて胸が詰まる。
日本社会での「他人様に迷惑をかけない」に気負いすぎて、自ら手を下し自殺を試みる介護者の事例がいくつも掲載。救済され成功した事例も紹介されているのが僅かな救い。
今後更に増加する「孤絶死」に対し、日本社会はどう対応していくか、見たくないものを見る勇気が必要だと感じた。
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