ロフトに吊して…白石被告が9人目の被害者、23歳女性の遺体を撮影した理由とは 座間9人殺害事件 裁判傍聴レポート

2020年11月17日 19時21分24秒 | 事件・事故

渋井 哲也 

「(死ぬのは)本日、希望です」

 2017年10月に発覚した、神奈川座間市のアパートから男女9人の遺体が発見された事件で、強盗・強制性交等殺人で起訴された白石隆浩被告(30)の裁判員裁判が東京地裁立川支部(矢野直邦裁判長)で開かれている。11月16日には、9人の殺害に関する証拠調べ、被告人質問、中間論告が終わった。


犯行が徐々にエスカレートしていった

 9人目に殺害された東京都八王子市のIさん(当時23、女性)は冒頭の文章をTwitterのダイレクトメール(DM)を送った。Iさんの事件については、他の被害者と違って、白石被告は会う前に殺害を決意している。また、殺害後に遺体を携帯電話で撮影していることが明らかになり、犯行が徐々にエスカレートしていったことがわかる。


 冒頭陳述によると、Iさんは、幼少期は引越しを繰り返していた。両親は離婚。中学3年生で不登校になった。高校に進学するが、退学。2014年に統合失調症と診断された。2017年6月、一緒に住んでいた母親が亡くなり、9月からはグループホームに入居。生活保護を受給していた。この頃から投薬治療を始めている。

 Iさんは人見知りで、引っ込み思案の性格だ。兄の供述調書によると、病気のため兄以外とは話せず、人との関係を築くのが苦手だった。時に男性は苦手であった。一方、兄とは頻繁にLINEのやりとりがあった。Iさんは「寂しくてTwitterで話をしてしまう」と兄に話をしていた。

事件現場 ©文藝春秋

〈部屋はロフトがあるので、首吊りがしやすいです〉

 そんな中、9月20日、IさんはTwitterで、こうつぶやく。

〈#自殺募集 死にたいけど、一人じゃ怖いので、一緒に死んでくれる人いませんか?〉

 このツイートに、白石被告とは別の5つのアカウントとやりとりをした形跡がある。

 このころ、白石被告は複数のアカウントで「死にたい」「寂しい」「疲れた」などと呟いている女性を物色していた。白石被告は9月22日、「@死にたい」というTwitterアカウントからIさんに「ご一緒に死にませんか?」とDMを送った。これに対して、Iさんが返信することはなかった。

 しかし、Iさんは、10月2日になってから「@死にたい」にDMを送った。このとき、白石被告はこんなメッセージを送った。

〈薬やお酒で恐怖を和らげて、首吊りはどうですか? 部屋はロフトがあるので、首吊りがしやすいです〉

 このやりとりの後、IさんはDMを送っていない。しかし、3週間後の10月23日になって、Iさんは「@死にたい」にいくつかDMをする。

〈本日、希望です〉

〈所持金は1000円しかありません。(首吊りの)道具は(持参しなくて)大丈夫でしょうか?〉

〈どこ住みですか?〉

〈男性ですか?〉

「私は、死ぬつもりはありません」

 そして、白石被告を信用させるためだろうか、自ら自身の写真を撮って送信している。白石被告は、お金を引っ張れるヒモになるか、ヒモになれないなら、失神後にレイプして殺害しようと思っていた。この時点でIさんに収入がないと判断し、殺害を決意している。

「一緒に死のうというやりとりをしていました。私は、死ぬつもりはありません。お金がないとわかり、レイプして殺害しようと決めました」

それまで、白石被告の犯行は、自宅に呼んでからヒモになれるかを判断し、できないなら失神後にレイプして殺害し、所持金を奪うという手口だった。しかし、Iさんの場合は、会う前から「お金がない」と判断し、すでに“見極め”を行っていた。他の被害者とは違う手順だ。

9人を殺害したことから、それぞれの殺害状況と混同したり、忘れてしまっていることが多いが、イレギュラーなことが起きた場合は、「覚えている」と述べることが多い。そのため、会う前にレイプして殺害する決意をしたことは、白石被告の中では、特異な点として記憶に残ったのだろう。

弁護側は「Iさんは、死を決意していた」と主張

 待ち合わせ場所はJR八王子駅だった。時間は13時45分ごろだ。Iさんは白石被告に会う前、白石被告へのDMで〈楽しみにしています。ワクワクしています〉と送信するなど、楽しみにしている様子もあった。

「(8人目の)HさんとIさんの2人は、他の人と違った特徴がある。白石さんから電車に乗って迎えに行っている。特に、Iさんの場合は、お金がない白石被告が、わざわざ(小田急線)町田駅まで行き、(JRに)乗り換えて八王子駅まで行っています」(弁護側中間論告)

Iさんと合流したとき、白石被告が「私の部屋で首を吊るか、Iさんの部屋でするか」と聞くと、Iさんは白石被告の部屋を選んだという。以前のDMで、白石被告は「部屋にロフトがある」ことを伝えており、Iさんは知っていた。弁護側はこの点を強調し、「Iさんは、死を決意していた」(同)と主張している。

 合流後、白石被告とIさんは、八王子駅から町田駅へ向かい、JRから小田急線に乗り換えて、14時47分、相武台前駅に着いた。そして、15時ごろには白石被告のアパートまで行くことになる。

「合流した直後は、私の部屋で自殺しましょう、という会話はありましたが、その後は、自殺の話はありませんでした。楽しそうに話をしていたので、出会い目的かと思いました」

逮捕後は「本当に死にたい人はいなかった」と供述

 Iさんの「楽しみ」や「ワクワク」は、白石被告との出会いが目的だったのか。それとも、自殺願望を実現することへの気持ちだったのか。白石被告は、出会い目的と勝手に判断した。気持ちの確認は何もしていない。

 逮捕後、白石被告は「本当に死にたい人はいなかった」などと供述し、筆者との面会でも同じことを繰り返した。たしかに、死ぬのを止めたことを明言した犠牲者もいるが、Iさんを含めて、気持ちを確かめていない人もいたのだ。

 部屋では1時間半から2時間後にIさんを殺害しているが、白石被告はこれまでのような“見極め”をせずに、いきなり背後から胸を触り、押し倒し、首を絞めるという行動をとった。そして、殺害後、白石被告は、吊るしたIさんの胸と陰部の写真を携帯電話で撮影した。

「容姿がタイプだったんです。自慰行為をするために撮影しました。そして、床に寝かせて、死姦しました」

 Iさんを含め、9人の殺害は、殺害の承諾があったのかが争点だ。そのことを考える上で、議論になっているのが、抵抗があったのかどうかだ。Iさんの場合は、白石被告の記憶が曖昧になっている。

ただ、逮捕後の調書(2017年11月27日、同年12月23日)によると、「胸を触ろうとしたときに肘打ちされました。馬乗りになったときには、足で蹴飛ばされそうになりました。首を絞めている手を引き離そうとしました」など、Iさんの抵抗の様子を白石被告は供述している。

通常の刑事裁判とは、逆になっている

 こうした供述について、白石被告は公判の中で「今の時点で記憶はないが、取り調べ時点のほうが記憶が新鮮なので、そう話したのなら、それが正しい」などと話す。今回の事件の被告人質問では、一貫して、こうした答え方をしている。

 ただし、「逮捕後に何がなんだかわからない状態で供述したことと、落ち着いてきて喋れるようになったときの供述と、証拠を見せてもらった後の供述」とはニュアンスが異なる旨の発言もしている。そのため、検察側は供述の一貫性を主張するが、弁護側は供述が信用できないと反論。被告人の供述を信用するかどうかについて、通常の刑事裁判とは、逆になっている。

その上で、検察側は、「殺害の承諾も、所持金を奪取する承諾もない」とした上で、「性欲を満たしつつ、所持金を奪った、自己中心的な単なる殺人であり、強盗・強制性交等殺人である」と結論づけた。

 一方弁護側は、会うまでのやりとりでは、「Iさんが自ら白石被告のところへ会いに行き、部屋にも強制されずに入っている。部屋に入ってからは、ロフトがあり、ここで首を吊るんだと分かったはずだが、帰るそぶりはない。白石被告に死を委ねている。そして、白石被告に勧められた安定剤を拒否することなく飲んでいる。それは死への決意を加速させた。承諾がないとするには疑問が残る」と反論した。

 


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