利根輪太郎は、段々と気分が重くなってきた。
「あんたと、ウマがあいそうだな」初めて、その男と出会ったのは、今年の3月、場所は取手駅西口の駅の前であった。
その男は、駅ビルの1階で輪太郎を待つようになる。
相手は、駅ビル入口内部の椅子に座り焼酎の缶を飲んでいた。
輪太郎が競輪行きのバスに乗ると着いてくるのである。
「俺は、刑務所帰りで保護観察の身なんだ。保護司のネイちゃんは35歳。旦那がいる。俺は団体生活が嫌いなんで、もう刑務所は御免だ」
「ネイちゃんをはめてやろうか」と物騒なことを口にする。
35歳の女性の保護司が本当に存在するのか?
男と駅ビル近辺で出会うことが増えていく。
それは、つきまといの始めであった。
「金がない、酒が飲めないのがホント、つらいな」
輪太郎は酒好きであり、駅ビルのコンビニでワンカップ酒2本を買い、さらに店舗内の店で焼き鳥を4本買って男に渡す。
「ありがたいな。アパートに買って飲むよ」笑む男は前歯が数本欠損していた。
生活保護に身なのに、パチンコと競輪である。
当然の帰結で3日か4日で無一文だ。
そして、取手市役所の窓口で泣きつくとコメやカップ麺が支給されるそうだ。
35歳の保護司が定期的男のアパートを観察に來る。
「市役所でも、お説教をくらった」男は歯をむき出すにする。
「これで、飲んだら」輪太郎はスイカを渡すのだ。
そのスイカには1000円ほど残っていた。
男は神妙な顔となり「800円遣った」とスイカを輪太郎に戻す。
「いいよ」と競輪で金がかなり浮いた輪太郎は応じた。
金が無いのに、男は松戸競輪まで輪太郎を追ってきたのだ。
その日、松戸競輪で大きなレースがあったのだ。
男は電車賃くらいは持っていたのだろう。
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