災害関連死とは何か?基本的な理解と対策を通じて家族の命を守る
広報:空飛ぶ捜索医療団"ARROWS" 編集部
災害による避難生活中に亡くなる災害関連死は、過去の地震や水害でもくり返されています。災害関連死を防ぐためには、どのような対応が必要なのでしょうか。
この記事では災害関連死の背景や要因を解説し、対策を具体的に解説します。家族の命を守るために必要な公的支援や個人の備えについても紹介しますので、ぜひご確認ください。
災害関連死とは
災害関連死に関する基本的な内容を紹介します。まずは災害関連死の定義を確認しましょう。
災害関連死の定義
一般に、震災による死者は以下の2つに分類されます。
・地震による津波や家屋・建造物の倒壊などの直接的な原因による犠牲者
・災害では怪我をしていないが、避難生活中に罹患したり持病が悪化したりして亡くなる方々
災害関連死は後者にあたり、災害による直接的な死ではなく、災害発生による精神的なショックや厳しい避難生活など、災害による間接的な要因による死者を指します。なお、震災の場合は「震災関連死」と呼ばれるケースもあります。
内閣府の資料「災害関連死について」によれば、災害関連死は以下のように定義づけられています。
「当該災害による負傷の悪化又は避難生活等における身体的負担による疾病により死亡し、災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和48年法律第82号)に基づき災害が原因で死亡したものと認められたもの」
実際には災害弔慰金が支給されていないものも含まれており、当該災害が原因で所在が不明な場合は除かれています。
上記のように定義されていても、災害関連死かどうかの判断については統一的な基準はなく、自治体によってばらつきがあるのが現状です。なお、災害弔慰金の詳細については後述しています。
災害関連死の事例と実態
以下は、主要な震災・災害における災害関連死者数をまとめた表です。全ての災害関連死が把握・認定できているわけではないため、実際の数はさらに多いといわれています。
災害名 | 死者・行方不明者 | 災害関連死者数 |
---|---|---|
阪神淡路大震災 | 6,434人 | 約900人(約14%) |
東日本大震災 | 22,000人以上 | 3,802人 |
熊本地震 | 50人 | 223人 |
西日本豪雨(広島・岡山・愛媛の3県) | 死者304人、行方不明者8人 | 83人 |
令和6年能登半島地震 | 245人 | 少なくとも100人 |
災害関連死が定義づけられるきっかけとなった阪神淡路大震災では、死者数全体のうち約14%がが災害関連死として認定されました。まだまだ復興の最中である令和6年能登半島地震でも災害関連死が発生しています。また災害関連死は、西日本豪雨のように、地震だけでなく豪雨など震災以外の災害によっても生じます。
災害関連死のうち多くは高齢者であり、男女別による差はあまり見当たりません。また、発災後1週間以内に亡くなった人の割合は東日本大震災では18%、熊本地震では24%、そして災害関連死の約8割が、発災後3ヶ月以内に亡くなっています。地震や水害によるショックや不慣れな避難生活から生じるストレスは、想像以上のものであることがわかります。
災害関連死の原因と背景
災害関連死の死因には気管支炎や肺炎、心不全、脳卒中などがありますが、間接的な要因として避難生活にかかわる肉体的、精神的ストレスが大きく影響しています。以下に、災害関連死が起きる要因として考えられる4点について解説します。
避難所・避難生活でのストレス
原因の1つ目は、避難所の生活環境や移動中による心身の負担が大きいことです。具体的には「十分な栄養や睡眠をとれない」「トイレやシャワーなどが不十分」といった身体的な悩みや、「災害のショックが大きい」「周囲に気を遣うのに疲れる」など精神的な負担の大きさも要因として挙げられます。
実際に東日本大震災において、復興庁公表の『東日本大震災における震災関連死に関する報告(平成24年8月21日付)』では、災害関連死の原因として以下の内容が示されています。
・全体の30%: 避難所等における生活の肉体・精神的疲労
・全体の20%: 避難所等への移動中の肉体・精神的疲労
・全体の20%: 病院の機能停止による初期治療の遅れ等
持病の悪化
東日本大震災による関連死では、既往症の方(持病があったり要介護認定を受けていたりする方、薬を飲んでいる方など)が全体の6割となりました。
特に高齢で疾病を抱えた方や家族にとって、避難生活の中で長期にわたって十分な水分と食事をとれず、睡眠もままならない環境はつらく、耐え難いものです。災害発生後は避難所間の移動や車中泊など体力を消耗する場面もあり、肉体的にも精神的にも疲労が蓄積し、既往症を悪化させてしまうと考えられます。
災害時には、我々空飛ぶ捜索医療団を含め医療団体は医療処置に最善を尽くしますが、災害発生直後の混乱のなかで十分な医療体制を築くのはまだまだ難しい現状があります。停電や断水、道路の寸断があれば、さらに治療が遅れてしまう可能性もあります。
エコノミークラス症候群
エコノミークラス症候群は、同じ姿勢で居続けることで足や下半身に血栓ができ、急な動作によって呼吸困難や意識喪失などを引き起こす病気です。2004年の新潟県中越地震では車中泊をしていた方々4名が、その後の熊本地震では18人がエコノミークラス症候群になったとされ、中には亡くなった方々もいます。
エコノミークラス症候群は若者でも発症します。足に血栓ができていても自覚症状はなく、長時間座っている状態からいきなり動くことで、血流が血栓を肺まで運んでしまい、肺の血管を詰まらせてしまう危険性が高まります。特に、車中泊をされる方や、運動や歩行が困難な方は注意が必要です。
避難生活による罹患
避難生活中に病気になることで亡くなる方々もいます。内閣府は『災害関連死について』の中で、以下のような事例を示しています。
- 78歳男性が、地震後の疲労等による心不全で死亡
- 83歳女性が慣れない避難所生活から肺炎状態となり、入院先の病院で死亡
- 83歳女性が地震のショック及び余震への恐怖から急性心筋梗塞を発症し死亡
避難所での生活環境の悪化や不衛生な状況、仮設住宅への移動などによる疲労やストレスは、罹患のリスクを高めます。避難所での集団生活では、インフルエンザやコロナウイルスに感染したり、厳しい天候下での体調管理がうまくいかず、風邪をこじらせて肺炎になったりするリスクがあります。また、生活再建への望みを絶たれて自死を選ぶケースも報告されています。
災害関連死に対する補償とそのほかの支援
次に、災害に見舞われた場合の補償や公的支援について紹介します。ご家族が災害関連死で亡くなられた場合の弔慰金から、災害関連死に陥らないための補償まで様々な制度があります。詳しい制度や基準については、内閣府の運営する防災情報のページを参照してください。
災害弔慰金(さいがいちょういきん)
災害関連死で亡くなった場合、災害弔慰金の支給等に関する法律(昭和48年法律第82号)に基づいて、その遺族に対して災害弔慰金が支給されます。内閣府の『災害関連死事例収集』によると、災害弔慰金の支給を実施する主体は市町村とされ「1市町村において住居が5世帯以上滅失した災害」や「都道府県内において住居が5世帯以上消失した市町村が3以上ある場合の災害」など対象災害が指定されています。
災害弔慰金の給付遺族や支給額は以下のとおりです。なお、費用負担については国1/2、都道府県1/4、市町村1/4と定められています。
受給遺族
ア.配偶者、子、父母、孫、祖父母
イ.アのいずれもが存在しない場合は、死亡した者の死亡当時における兄弟姉妹(死亡した者の死亡当時その者と同居し、又は生計を同じくしていた者に限る。)
支給額
ア.生計維持者が死亡した場合: 500万円
イ.その他の者が死亡した場合: 250万円
災害障害見舞金
災害によって重傷を負った方々に対する「災害障害見舞金」も補償されています。内容は以下のとおりです。費用負担については災害弔慰金と同様です。
受給者
重度の障害(両眼失明、要常時介護、両上肢ひじ関節以上切断等)を受けた者
支給額
ア.生計維持者の場合: 250万円
イ.その他の者の場合: 125万円
被災者生活再建支援制度
災害によって住宅が倒壊するなどの被害に見舞われた世帯に対して、最大300万円の支援金が支給されます。支給額は下記のようになります。
住宅の被害程度に応じて支給される支援金(基礎支援金)
- 全壊等の場合: 100万円
- 大規模半壊の場合: 50万円
住宅の再建方法に応じて支給される支援金(加算支援金)
- 建築・購入: 200万円
- 補修: 100万円
- 賃借(公営住宅除く): 50万円
地方公共団体によっては、住宅被害を受けた世帯に対して独自の支援制度を設けている場合があります。お住まいの自治体に確認してください。
災害救助法による住宅の応急修理
地震や水害によって住宅が半壊し、修理代をまかなえない世帯に対して、被災住宅の居室やキッチン、トイレなど日常生活に欠かせない最小限の部分を応急的に修理する制度があります。これらは市町村が業者に委託しておこなわれ、修理限度額は1世帯(大規模半壊、中規模半壊又は半壊若しくは半焼の被害を受けた世帯)あたり595,000円以内とされています。
なお、要件としては災害救助法適用の市町村において、以下の要件を満たす世帯が対象となります。
- 災害により住宅が半壊または半焼した方
- 応急仮設住宅等に入居していない方
- 自ら修理する資力のない方(※大規模半壊以上の世帯は資力は問わない)
このほかに、災害によって滅失や損傷を受けた家屋の復旧に対して、低利で融資をおこなう災害復興住宅融資制度もあります。住宅を建設する場合の基本融資額は1,650万円など、住宅の再建方法によって融資限度額や返済期間が異なるため、確認が必要です。
災害関連死には直接関連のない補償、支援制度でも、各情報を知っておくことは重要です。避難生活を続けながらも将来の見通しを立てられることで、精神的なストレスを減らし、災害関連死の予防につながると考えられます。
災害関連死を防ぐために個人でできる施策
災害関連死は高齢者や持病のある人に起こりやすいとされますが、避難所の生活環境の悪化や移動のストレス、再建活動の疲労などは、性別や年代を問わず誰にでも起こりうることです。また、災害関連死を防ぐためには事前の対策も重要な要素です。家庭では要介護者や高齢者、子どもへのケアについてシミュレーションをするなど、尊い命を守る取り組みが欠かせません。
ここでは、災害関連死を防ぐためにできる対策や備えについて詳しく解説します。
高齢者や持病を抱えている方々に配慮する
先行事例からもわかるように、要介護度の高い高齢者や障がい者、持病を抱える方々は、通常の医療や介護を受けられなくなった場合に災害関連死に直結してしまう可能性が高いです。そのため、避難や支援の計画策定にあたっては、高齢者や持病を抱える方々を考慮することが大切です。
たとえば、次のような取り組みが挙げられます。ご家族に配慮の必要な方がいらっしゃる場合は意識しておきましょう。
- おくすり手帳や入院歴・通院歴など医療に関する情報をまとめ、持ち歩く
- 非常時に備え、日頃から薬や療法食などを多めにストックしておく
- 何かあった場合に避難をさせてもらえるよう親戚や友人に伝えておく
- 避難所での暮らしにあたって役立つものを準備する(座椅子やクッション等)
心的ストレスのケアを忘れない
災害発生後の精神的なストレスの解消は、災害関連死を防ぎ、安心して従来の生活を取り戻すうえで極めて重要です。筑波大学の高橋晶准教授は、発災後の状況に合わせて以下のポイントを守ることが重要であると示しています(NHK健康チャンネル『災害時のこころのケア』)。
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